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異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話  作者: 一優梨


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戻ってきた日常

ついに退院の日。

桜の木は花びらを散らし始め、温かな、心地のいい風が頬に触れた。


病院の服を脱ぎ、黒い厚手のパーカーに袖を通す。

十年の間に勝手に大きくなった身体は、昔の服を受け付けなかった。

だから看護師さんに頼んで、近くのコンビニで衣類を一式買ってきてもらった。


必要な手続きを終え、タオルや下着、歯ブラシやペットボトルなどの私物をまとめて大きめのカバンにぶち込む。

お世話になった看護師さんにお礼を言って下へ向かうエレベーターのボタンを押した。

外の開放感や直接浴びる日光の眩しさに目を細め感動しつつ、

病院の前に停めてもらっていたタクシーに乗り込んだ。


シートベルトを閉めると、間髪入れずに車は動き出した。

窓の外を流れていく景色は、知っているようで知らない街並みだ。


あそこは確か、小学生のときに何度も通っていた駄菓子屋だった。

年老いたお爺ちゃんがいつもレジに座っていたはずなんだけど


今はその面影もなく、誰かの住宅になっている。

駄菓子屋から一戸建て。


日が暮れるまで遊んだ公園は、ずらりと自転車で埋められていた。

駅が近いからか、駐輪場になっているらしい。


「着きましたよ。支払いはどうされますか」


「え、」


外をもう一度確認する。

どうやらぼんやりしているうちに、目的地に到着したみたいだ。


「電子決済でもクレジットでも」


運転手の言葉に頭がフリーズする。


ーーーでんしけっさいってなんだ?現金でもいけるよな。


「あ、じゃあ……現金でお願いします」


「現金ね」


そう言いながらお金受けを差し出してきた。

それを受け取って鞄の中に埋もれた財布を探す。


知らない言葉は聞いといたほうがいいよな。

あとからわからなくて苦労するかもしれないし。

でも、そんなことも知らないのかって思われちゃうかな。

まあいいや、聞いちゃえ。


一瞬迷った後に、間を開けて聞いてみた。


「あの、でんしけっさいって、なんですか?僕あまり最近のことわかってなくて」


「PyaPayとか、an PAYとか。スマホで払うやつです」


それだけ言って運転手は無言になる。


「……はあ」


聞いたはずなのに、

情報量が増えただけで一ミリも理解が進まなかった。


急いで財布を鞄からとりだしたが、思ったよりがっつり取られた。

タクシー代が高いのは知っていたけど、財布が一気に軽くなる感覚に、現実を突きつけられる。


ーーー現代ってこえ~


駅から家までの短い距離を歩いていく。

近所だから当然すれ違う人の中で見知った顔もあるけれど、母と話しているのをみたことがある程度で、僕自身がその人たちと言葉を交わしていたわけではない。


家の前まで来ればやっと帰ってこれたと安心する気持ちと、懐かしさに胸が一杯になった。


生まれてから高校生までの十六年間をずっと過ごしてきた家だ。

愛着も沸く。


玄関のドアを開けると、家の中は相変わらず静かで真っ暗だった。

異世界ではアレンたちがいて賑やかだったな。

思い返せば、僕が生きてきた中で1番人といる幸せを学んだところでもあったんだ。

一人が寂しいなんて思わないけど、みんなでいる時が楽しすぎた。


靴を脱ぎ捨て荷物を置くなり一直線でキッチンへ向かい、コップの水を一気に飲み干した。

退院して初めて重い荷物を持って歩いてきたから疲れた。


そのままソファに身を預け、目を閉じる。

気づけば、眠っていた。


目を覚ますと、もう夕方で、日が傾き始めていた。

盛大に腹の虫が鳴る。


何か作る気力はないので棚を漁って、カップラーメンを見つける。

小鍋で湯を沸かそうとして、「そうだ、魔法を使えるんだった」と、お湯を魔法で出して注ぐ。

薄暗い部屋で、カップラーメンをズルズルと啜った。


ーーーこれ、旅に持って行けたら最強だったよなぁ。オルフェンさんが好きそうな味だ。レミーユさんはシーフードの方が好きそうだ。


無造作に食べたゴミを捨て、身体に洗浄魔法を施す。

そして今度はベッドにうつ伏せに倒れる。

インターホンの音が鳴るのが聞こえたがどうせ訪問販売か何かだろう。

気にせずもう一度、深く眠りについた。




ーーープルルルプルルル


次の日の朝、スマホの着信音で目が覚める。

寝ぼけたまま、手を伸ばして画面を指で滑らせた。


「真白?退院したんだってね。よかったわ」


「お母さん?」


 久しぶりに聞く母の声に、眠気が一気に引いていく。

布団からガバッと体を起こした。


「ちゃんと起きてる? あんまり家でごろごろしてちゃだめよ。もう大人なんだから」


「うん」


「入院費のことは心配しなくていいから。その代わり、生活のことは少しずつ自分で考えなさい?」


「……お母さん、今どこ?」


「イギリスよ。仕事が立て込んでてね。次に帰れるのは、早くても半年後かな。それまでに、ちゃんとしてるところ見せてちょうだい」


「うん。……お母さんも、仕事頑張って」


「ありがとう。真白も、無理はしないでね」


 通話はそれで終わった。


 スマホを置いて、天井を見上げる。

 叱られたわけでも、突き放されたわけでもない。

 それでも、部屋は少しだけ静かになった気がした。


それから僕は特に理由もなく外へ出た。

家にいる意味も、行き先も、どちらも見つからなかった。

使い慣れないスマホを持っていたって意味がない。

机に置いて、財布だけズボンのポケットに突っ込んだ。

高校時代を思い出す限り、何人かスマホを持っていたような気がするが、僕はまだガラケーを使っていた。

その愛用していたガラケーちゃんは事故で無事に粉々になった。

写真はもちろん、中のデータは全て復元不可能だ。

悲しいがな友達の電話番号を覚えているわけでもないので、連絡を取りたくても鈴やんや佐藤たちに連絡する手段がもうない。

テレビをつければ知らないアイドルが歌い、知らない芸人がネタをする。

そんな現実を紛らわすように、退院してからは散歩が日課になっていた。

最新技術に戸惑いはあるものの、元の世界に帰ってきたはずなのに、まるで別の新しい世界に迷い込んだみたいで、少しだけ面白くもあった。


しかし、これでも見た目が二十六歳で、世間一般的には働いたり学校に行ったりしているはずである年齢の大人の男だ。

外で彷徨っていたら、徘徊している警察官にジロジロみられる。


怪しいものじゃないです。

ただのリアルな浦島太郎です。

優しくしてください。


異世界では常に危険と隣り合わせの戦いを切り抜けてきたのに、こっちでは中卒ニートとか笑えない。


外にいても家にいても自分だけが取り残されているように感じる。

でも、家にいてもなにもすることがないので毎回外に出て散歩する。


とりあえず朝食を買うためにコンビニに入った。

そして、すぐに戸惑った。

レジの前に、誰もいない。


 きょろきょろしていると、「バーコードをかざしてください」と機械の声がしてびっくりした。


ーーーなんだここ、未来か。


いちいち感動していると商品棚を見ていた女子高生たちにクスクス笑われてしまった。

‥‥‥恥ずかしい。

買い物を終えてさっさと出よう。

菓子パンを一つとお茶を取ってレジに向かう。

 機械の音声に従って言われるがままにバーコードを探して動かす。

 現金投入口を探しているうちに、店員さんにここですと教えてもらった。

無事に買い物を終えて一息つく。



ーーー随分便利になったなぁ。

いや、ほんと。コンビニだけでこんなに戸惑うとは思わなかった。


その後も満足するまでぶらぶらして家に帰った。

最後に立ち寄ったカフェは、少し古めかしくて落ち着いた雰囲気だった。

扉を手で開けた瞬間コーヒーの匂いがして、少しだけ心が安らいだ。











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