対峙
フルゥと再び合流し、僕らは王城へと向かった。
だが、王城の敷地へ足を踏み入れた瞬間、フルゥは見えない壁に弾かれ、ふわっと後ろへ吹き飛ばされた。
「やっぱり、入れないんだね」
フルゥは体を起こして苦笑した。
その声は明るいのに、悲しみを含んでいるように聞こえた。
「フルゥはここまで。でも、せめて、君たちに祈りを授けよう。君たちの力だけで、王に打ち勝つんだよ」
手を広げたまま体から光が溢れ、僕たちの身体にふわりと降り注ぐ。
疲れが一気に吹き飛んで体が軽くなった。
こんな効果のある祈りの魔法ができるのは特別な存在にしかできない。
不思議そうにレミーユやオルフェンが目を瞬かせる。
僕はフルゥを見上げる。
小さな身体に似つかない大きな力。
フルゥが魔法を一から教えてくれたから、僕はこの世界に呑まれずにやってこれた。
本当は一緒に戦いたいだろうに、ここで見送ることしかできない。
そんなフルゥの期待に応えられるように僕は返事をした。
「うん。必ず勝って、会いに戻るよ」
優しい声で、そして強い決意を込める。
フルゥの瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「うん……待ってるよ、真白」
「心配しなくていいのよ。真白は強いんだから」
レミーユが横から穏やかな声で微笑む。
「さあ、王のもとへ急ごう」
オルフェンが短く告げると、僕たちは互いに頷き合い、前を向いた。
もう振り返らずに、そのまま王城の奥へと歩き出した。
玉座の間は静まり返っていた。
昼下がりの光が高い窓から差し込み、白い石床にまっすぐな影を刻んでいる。
その中央へ、僕たちは無言のまま足を踏み入れた。
特別な儀式があるわけでもないため、兵士の数は最小限。
王の左右に二人、背筋を伸ばして立っているだけだ。
玉座に座る王は、いつもと変わらぬ穏やかな表情を浮かべていた。
「おや? どうしたのだ、そなたら。
まさか魔王討伐が終わったとは言わぬだろうな?」
それは、どこにでもいる優しい老人の声。
けれど今の僕たちには、その柔らかさこそがぞっとするほど不気味だった。
胸の奥が、ぐつぐつと煮え立っていた。
喉の下あたりで、何かが押し上げてくるみたいに熱い。
王の柔らかい声が響くたびに、その熱がさらに膨れ上がる。
「……しらばっくれるなよ」
僕は怒りに任せて口を開いた。
王の肩が、わずかに揺れる。
「僕たちは、お前を倒しに戻ってきたんだ」
玉座に控えていた兵士たちが一斉に剣を構え、
凍りつくような無表情でこちらを睨む。
「我を倒す? 馬鹿な。魔王に洗脳でも受けたか」
王は淡々とした声で言い放った。
「わたしたちはすべて知りました。異世界の人々の魂のことも、封じられた書庫に隠された王家の罪も」
「王の血が薄まり、力を失ったのは哀れだが
そのために無関係な命を踏みにじっていい道理など、どこにもない!」
レミーユとオルフェンの言葉に王は沈黙したまま動かなかったが、
やがて、まるで面倒事に巻き込まれたようなため息をついて立ち上がった。
「そんな荒唐無稽な話を誰が信じる?ありもしない罪を、王家に着せようとは愚かしい。虚言で国を乱すつもりか。まったく、身の程をわきまえよ。王に逆らうというのは、命を賭して行うものだぞ。まだ引き返す余地はある。今なら見逃してやらんこともないが——」
「証拠なら目の前にあるでしょう、陛下」
レミーユは王の言葉を遮り、古い書を開いて掲げた。
先ほどと同様、空中に文字が浮かび上がり、先ほどの記録が明るみになる。
それを見た王の口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。
「なるほど。あの書庫の封印を破れる者が、まだこの世に残っていたとはな」
その声は先ほどと変わらず落ち着いているのに、
眼の奥だけが、鋭く冷たい光を宿していた。
「魔王を倒した後で、ゆっくりお前たちから魂を取り出すつもりでいたが。予定を少し、早めるとしよう」
その瞬間、王の足元に複雑な魔法陣が浮かび上がり、
空気がびりびりと震え始めた。
僕は魔法をいつでも放てるように構えた状態で一歩前へ出た。
「逃げる気はない。僕たちでお前を終わらせる!」
王の瞳がぎらりと光った。
次の刹那、幻惑の膜がはがれるように、王の輪郭が揺らぎ
その姿が、本性を露わにしていく。




