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異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話  作者: 一優梨


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14/20

手紙

 昼下がり、お店の買い出しから帰ってきたときのことだった。

お店で使う食材をテーブルに置くと、カウンターの上に見覚えのない封筒が置かれているのが目に入る。

 厚手の羊皮紙に、円の中に三つの星が描かれた紋章の封蝋。


「真白宛に、手紙が届いてたよ」


「僕に……?」


 ミランダさんが緊張した面立ちでそれを差し出してきた。

 僕は首をかしげながら手に取ると、恐る恐るその封を開ける。

 この世界で、僕に手紙を送ってくるような知り合いなど悲しいけど一人もいない。

この村の外に出ることなんてななかったし、村の人だったらわざわざ手紙を書いて渡すよりも、直接会いにきて伝えてしまった方が楽だ。


丁寧に折り畳まれた中の紙を広げる。

整った文字でこう書かれていた。





『召喚者 真白。王都へ来たれ。国王陛下、御前にて謁見を許す。』




見間違いだろうか。

何度も何度も目線を左から右に流して読むが、一字一句違わず、同じ字面で並んでいる。


何が何だかわからなかった。


ーーー召喚者って、僕って転生したんじゃなかったのか?あ、でもフルゥが僕の魂を連れてきた言ってたから転生ではないのか。てことは、フルゥは国王に言われて僕をこの世界に連れてきたってことか。そんなこと、今までで一度も言わなかったのに。一体なんのために。




「ついに来たね」


フルゥが僕だけに聞こえるようにボソッと呟く。

僕はそんな予想していたかのようなフルゥの言葉に余計混乱する。


この世界ではずっとこの村で暮らすんだとばかり思っていた。

のんびり使命とやらを探して生きていこうとしていた。

でも、世界はそんなに甘くはなかった。

フルゥが先に言ってくれていたら、もうちょっと覚悟はできたのに。

僕の中で微かに築き上げていた将来像が消滅のお知らせを受けて崩れていった。


隣で覗き込んできたミランダさんが、息を呑む。


「……王都から?本気かい?真白、行っちゃ駄目だよ」


「でも、俺……」


言葉が喉に詰まる。

ミランダさんは、僕の手をそっと押さえた。


「この村は安全なの。ここにいれば誰からも傷つけられることもないし、誰にも利用されない」

 

その言葉には、恐れのような、祈りのような響きがあった。


 けれど、僕の頭に、あの言葉が蘇る。


――この世界にくる異世界人は皆んな何かをやり遂げないと帰れない


 もしかしたら、この手紙が異世界人としての使命と関わりがあるんじゃないか。

そう思えて仕方がない。

だから、この村にはいられない。


「行きます。王城へ」


僕は意を決してミランダさんを見つめた。


 そんな僕の様子にミランダさんが何か言いかけたが、結局、口を継ぐんだ。

 ただ、静かに僕を抱きしめた。


僕は覚悟を決めたらすぐに行動に移すタイプで、フルゥとの話し合いの末、明日の朝一番に村を出発して王城へ向かうことになった。

本当はフルゥに言いたいことがたくさんあったけれど、今日のうちにどうしても確認しておきたいことが他にあった。






この村は、幻想的すぎた。


生命力に溢れた人々は本物だ。


でも、枯れ葉に触れようとした日から


自然のものが、見える景色が、村全体が、どこか作り物めいていた。


まるで誰かが理想を形にして、ここに置いたみたいに。















この村に最も詳しいゴルガさんの家を訪ねた。


ゴルガさんは僕が来ると、驚いた様子も見せず、無言で手招きして中へ入るよう促す。

家の中は質素で、武具の手入れ道具と乾いた草の香りが漂っている。


テーブルを挟んで向かい合わせの椅子に腰を下ろす。


「ゴルガさんに聞きたいことがあります」


「なんだ」


早速僕が話を切り出せば、短い返事が帰ってくる。


「この村は、どこかおかしいと思うんです」


パチ、と炉の中で薪がはぜた。

ゴルガさんは腕を組んだまま、しばらく何も言わない。

その沈黙が、肯定でも否定でもないことを僕は悟った。


「言葉にするのは難しいんですけど、穏やかすぎるっていうか。一度、ミランダさんのうちのレオくんと広場に行った時も、僕は魔法の練習に夢中でレオくんから目を離してしまって。なのに、この村は安全だから大丈夫だろうって心の底で思ってしまっていたんです。それに、今日、ミランダさんも言っていたんです。ここにいれば傷つかないし、利用されないって。これは僕を引き止めようとしていったんじゃなくて、事実なんじゃないですか」



「……お前が異世界から来たのは、最初から知っていた。だからこそ、俺の口から言うつもりはない。お前が確証もないままペラペラ喋るほど、危機感のない人間だとは思わなかった。そういう人間は長く生き残ることはできないと決まっている。情報は使いようによっては、人も操れるからな。王都に行くつもりなら、自分の目で確かめろ、真白。それと、もし、この村にもう一度来たいと思うなら、村のことを絶対に外で喋るな。どんな理由があってもだ」


ゴルガさんがこんなに喋ってるところを初めて見た。

と、感嘆してる場合ではない。

それは、忠告というより警告に近かった。

結局、僕は何一つ答えをえないまま、沈む夕陽の中を店へと戻った。


王都に行くことで、いろんな書物や情報が手に入る。

もしかしたら、この村のこともわかるかもしれない。















 ──翌朝。


 村の広場には、いつのまにか大勢の人が集まっていて驚いた。

 みんなが穏やかな笑顔を浮かべているのに、どこか寂しげだ。

 僕が王都へ行くと聞いて、見送りに来てくれたのだろう。


嬉しい気持ちと、寂しい気持ちで、余計名残惜しくなる。


 ロラが両手を振りながら駆け寄ってくる。


「真白お兄ちゃん、また来る?また会えるよね?」


 その無垢な問いに、僕は少しだけ言葉を詰まらせた。

 本当は戻ってこられないかもしれない。

もう二度と、会えないかもしれない。

 けれど、それをまだ幼いロラに口にするにはあまりにも残酷のように感じた。


「……それは、わからない。けど、この村でみんなと過ごしたことは絶対に忘れないよ」


 ロラは一瞬きょとんとしてから、ゆっくりと笑った。


「じゃあ、またね」


 レオが近づき、拳を突き出してくる。


「今よりもずっとずっと強くなって帰ってくるんだぞ!」


 その言葉に僕は拳を合わせた。

 レオの瞳には、こらえきれない涙が滲んでいた。


 ーーああ、なんだかんだで、僕はこの村に居場所をもらっていたんだな。


 最初はただの異世界の一村人として受け入れられて、

 右も左も分からない僕に、みんなが声をかけてくれて、笑ってくれて。

 仕事の手伝いをすれば「助かるよ」って言われて、

 何気ない食卓で、誰かと一緒にご飯を食べるのがあたりまえになっていた。


 この世界に来てから、初めて自分を認めてくれる人たちがいた。

 それが、こんなにも嬉しくて、あたたかくて。

 ーーだからこそ、離れるのが少しだけ怖い。


 それでも行かなきゃいけない。

 元の世界に戻るために、そして自分の使命を果たすために。

 

ミランダさんや村のみんなの顔を一人ひとり見渡して、

 胸の奥に込み上げるものを抑えながら、僕は小さく息を吸った。


「本当にありがとう。みんなのおかげで、ここまで来られました」


「――行ってきます」


 その言葉とともに、朝の風が村を通り抜けていく。

 みんなの声援が僕の背中をそっと押すように。


 馬車が軋みを上げて動き出す。

 村の家々が遠ざかっていく。

 秋風が吹き抜け、ひとひらの枯葉が宙を舞う。


 光を透かしたその葉が、ゆっくりと消えていった。













馬車に揺られながら僕はフルゥを問い詰める。

フルゥはこうなることを知っていて黙っていたのだ。

僕が怒るのも当然だと思う。


「で、ついにきたってどういう意味」


「ひいっ、真白落ち着いて!そんな怖い顔しないでってば!」


「本当は昨日、すぐにでも聞きたかったけど、ミランダさんたちもいるし、身支度するのに忙しかったから仕方ないだろう。それで、フルゥは王城から手紙が届くって知ってて黙ってたんだ。他にもなんか知ってることとか隠してることがあるんじゃないか」


「だってだって、ただでさえ記憶が欠けてる真白にこの世界のことを一気に喋ったら頭パンクさせちゃうでしょ!ちゃんとこの世界で落ち着いて暮らせるようになってからいうつもりだったの!」


ーーーうっ!確かに最初に全部話されたら情報過多で発狂してたかも。


あと、自分の記憶喪失のことを異世界に順応するのに必死で、すっかり忘れていたって言ったら、フルゥは呆れるだろう。

ここは、穏便に済ませるためにも黙っておくことにした。


「それに、真白って魔法へったくそなんだもん!そんなんじゃいつまでも次のことが話せなくて当たり前だよ!」


「それは関係ないだろ!」


フルゥが全部僕に説明しなかったことを話しているのに、いきなり魔法のことを口に出すなんて!


僕は腹いせにフルゥのほっぺをガシッと掴んで満足するまでもちもちすることにした。


「ねえ、王都に行くって、具体的には何が待ってるんだ?」


フルゥは真面目な表情をして僕の手を掴んでほっぺから引き離すと、よいしょっと馬車の迎えの席に座る。


「簡単には言えないけど、真白にはいくつか知っておいてほしいことがある」


僕は背筋を伸ばして真剣に耳を傾けた。


「百年前、この世界は“闇”に覆われかけたことがある。人々は光を失い、魔獣が溢れ、国が滅びかけた。でもその時、異界から来た勇者が光を呼び戻したと言われているよ」


「へえー、すごい抽象的な言い伝えだなぁ。で、もしかして、その勇者になるのが僕の使命とかじゃないよな」


「まさか!もう勇者は存在してるからね。それはそれは立派な勇者様が」


「僕は立派じゃないって言いたいのか?」


「真白は意外とよわむしぃ~痛い痛いい」


僕は無言でフルゥのほっぺを抓った。



ーーー普通に傷ついたからな!


「真白はその勇者を補佐するように言われるんじゃないかな」


フルゥは僕が抓った方のほっぺをさすりながらそういう。


「それでも嫌だ~。補佐ってなんだよ。要は戦いに行くんだから命懸けだろ」


「ほら、やっぱりよわむ、なんでもないよ!なんでもないよ!」


僕が両手をフルゥのほっぺに持っていけば、必死で訂正する。


ーーーそんなに痛かったのか。次からはちょっとだけ手加減してやろう


「弱音を吐きたい気持ちもわかるけど、そうでもしないと元の世界に帰れないんだよ、ましろ」


「うー、わかってるけどさ」


そう言われても怖いものは怖い。

優しい異世界生活が良かった。

スローライフを希望したい。


「きっと真白なら使命を果たせる!魔法だって苦手だけど、習得できたんだし、大丈夫だよ」


なんで、この精霊はそんなに大丈夫だと言い切れるんだろう。

根拠もないのに。


弱気になっていた僕の考えを読んだかのようにフルゥはニカっと笑った。


「フルゥが真白の味方である限り、真白を死なせたりしない。だから大丈夫なんだよ。大船に乗った気持ちで戦いに行くといいよ」


太陽を背中に背負って輝くフルゥの姿は神秘的で、この目の前の精霊が改めて偉大な存在なのだと思い知らされた。

同時に沸々と自分の中からやる気が湧いてくる。


僕はこの先を予想する。

RPG好きならきっとこの後の展開は、勇者と一緒に人知を超えた敵、魔王に立ち向かうのだろう。

残機もない。

回復魔法もままならない。

血の通った生身の人間として。



それでも、進むしかない。

俺はこの世界で、俺の役目を果たすんだ。







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