#2 厄介な二人の姉
呆然と空を見上げていれば、時期に日は沈み、辺り一面に濁った灰色の帳が下りる。
そんなことを何日か続けているうちに、私の体はみるみるうちに憔悴し、気にかけてくれる者も現れないまま、朝日が顔を出した。起床時間になれば、二人の侍女がベットシーツを変えに石畳の階段を上ってくる。
「お嬢様、そろそろ食堂に顔を出してみては」
そう、これまでは専門シェフらがモーニングを作ってくれたが、これからは北館の食堂まで自分の足で歩けばならない。
そこには、求婚を待つ令嬢たちで溢れ、陰湿な陰口が行き交う場所でもある。アサ・ブライアン――ヨル・ブライアンの妹も、食堂に通っているという噂まで聞く。
もちろん、料理を食すためではなく、噂話や世間話を小耳にはさむためらしい。
以前、貧乏貴族として有名なスーザン家の一人娘がレオンハート皇子の婚約候補となった時、彼女がスーザン家のゴシップを暴き、婚約は破棄となったこともある。
その際、彼女――アサ・ブライアンは皇子のことを狙っているのでは、という事態に発展したが。
侍女たちは、部屋の掃除を済ませると「失礼しました」と、素っ気なく帰ってしまった。私は、クローゼットから、出来るだけ地味なドレスを手に取ると、質素な格好で部屋を出た。
婚約破棄をされた令嬢は、目立ったドレスを着てはいけないという、暗黙のルールがある。
たとえ、食堂に行く時だってそうだ。
逆に、婚約が成立した令嬢は、いくら着飾っても問題はなく、むしろ地味なものを着用するとかえって安くみられるらしい。まあ、妾の子という最悪な着飾りものがあれば、二十歳を過ぎたころにはもう独身まっしぐらだろうけど。
◇ ◇ ◇
髪を後ろで結んで、はしたない布を縫い合わせたドレスを身にまとっていると、誰だって“妾の子のあの子”だとわかる。
たとえ、レオンハート皇子との婚約が認められ、この上ない喜びを感じているであろう彼女にも。私が食堂に向かう途中、ヨル・ブライアンは身に煩いほどの盛装を纏い、数十人の侍女たちを引き連れ、堂々と胸を張って廊下を歩いていた。
周りを歩く令嬢も彼女が通るとなれば、道を開け敬意を示した。彼女は俯く私を見ると、即座に駆け寄ってきた。
「あらあら、妾の子さんのご登場ですわ。ジロジロとこちらを見て、何かご用でも」
胸が盛大に開いたドレスを身にまとい、自然な化粧を顔に施している。
「貴方こそ何ですか、絶壁の私にご用でも」
「おほほ、お下品なこと。誰がそんなことを教えたのかしら、あなたの父親?」
「おま、、、貴方にも、その父親の血は引き継がれていますよ」
すると、彼女の侍女が困った様子で「もうおやめなさい」と仲介に入ってきた。周りの令嬢たちは、口元に手を当ててコソコソと絶え間なく陰口を繰り広げている。
駄目だ、この調子だと今日の晩には噂が行き届いてしまう。
私は、父の言った“守るべきルール”を思い出す。
「でしゃばるな、おしとやかに生きろ、、、か。」
「何を、ゴソゴソと独り言を呟いているのですか、気色の悪い。では、わたくしはこれで」
そういうと、彼女は落ち着かない足取りで帰っていった。侍女たちも、私を睨むとそそくさと彼女に付いて行った。残された私は、周りの令嬢たちの視線を浴びながらも、食堂に向かっていった。
◇ ◇ ◇
無駄に広い食堂には、位の高い令嬢から貧乏貴族出の令嬢まで、いろいろなグループが点在していた。ここ、ブライアン宮殿の通称「悪口盛んなたまり場」※さっき考えた。
勿論その中心には、アサ・ブライアンの姿があった。彼女は、姉のヨル(省)に比べて落ち着いた性格だが、表情を表に出さないため、姉よりも厄介で狡猾だ。
「あ、リアス令嬢久しいですわね」
そこにいたのは、沢山の令嬢に囲まれた“アサ・ブライアン”だった。




