#1 愚か者には居場所はない
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「これより、アーメス・リアス令嬢との婚約を破棄する!」
そう告げたのは、レオンハート皇子だった。彼はつるんと滑る瑠璃色の髪を靡かせ、琥珀色のぎょろりとした瞳で私に軽蔑の眼差しを向けた。
少し幼稚さが残る性格や、世間知らずな行動をとる彼からは考えられない応えだった。
会場からはざわめきが起こり、ところどころ扇子で隠れた口元からは陰湿なささやき声が混じる。
私は、慌てて弁解する。
「貴様は、その図々しさや弁解がましい性格すらも直せないのか」
彼は、冷ややかな声色で私を突き放した。
すると、会場から耳を塞ぎたくなるような高笑いが巻き起こった。
何事かと高笑いの聞こえる方向を追うと、中心に、少し前まで皇子の愛人だと囁かれていた、ヨル・ブライアン令嬢が佇んでいた。
天井を仰ぐ長い睫毛に、滑らかに滑る桃色の唇。色素の薄い黒髪は、腰あたりでサラサラと揺れている。
「あら、失礼。流石の貴方でも、婚約破棄は酷くありません?たとえ、“妾の子”でも」
彼女は“妾の子”という部分を特に強調して、言葉を吐いた。会場のざわめきは、更に大きくなる。
そうだ、私は妾の子だ。
豪族ブライアンの公爵だった“レンゲ・ブライアン”は政略結婚ということで、同じく豪族の“アリナ・テンナー”と結婚。長女ヨル・ブライアン令嬢を始め、次女アサ・ブライアン令嬢を出産した。
しかし、彼――“レンゲ・ブライアン”は翌年、召し使いとの間に孕んだ。それが私だ。リアス令嬢というのも、本当の名前ではないが、ブライアンという名を名乗るだけでも叩かれてしまうので諦めた。
つまりは、彼女――ヨル・ブライアン令嬢は私の姉とも呼べる。
「妾の子だから駄目なんだよ、ヨル」
「まあ、そうですか。リアスお令嬢ちゃんも大変なこと、おほほ」
彼女はわざとらしい目線を私に向けると、では失礼と会場を後にした。私は昔、父が言ったことを思い出す。宴会などで意地悪をされて泣いて帰ってきた私に、このルールだけは覚えておけ、と頭ごなしに叱ってきた事を。
ルール1・でしゃばるな、おしとやかに生きろ
ルール2・婚約破棄されても、くじけずに次に行け
ルール3・誰にも縋るな、誰にも頼るな。一人で生きろ
「お父さん、私。誰にも頼っちゃいけないの?」
◇ ◇ ◇
それから私の部屋は移され、北塔が住居となった。見渡すところ全てが石でできており、足元から伝わる冷たさは皮膚を凍結してしまう威力を持っていた。
これから私に付く侍女も、布切れを縫い合わせたような服装をしている。もう一人のほうも、腕をさすっていたが、何やら義手を付けているようだった。
「リアス令嬢、アリナ・テンナー様からお手紙が」
義手を付けた侍女は、懐から折曲がった二枚の封筒を差し出した。私はそれを受け取り、ご苦労と彼女に伝えた。ほんの小さな窓から月光が注ぎ込んで、封筒に記された差出人の文字を照らした。
「皆は下がって、しばらく一人にさせて」
すると、侍女たちは了解しました、と深く頭を下げると扉を閉めた。
リアスお嬢様へ
お元気ですか。私は今、宴会の準備の中、この手紙をしたためております。
もうすっかり、丘の紅葉が雪に埋もれてしまいましたね。窓も結露を酷く帯びています。
では、本題に入ります。私は今回の宴の主催者なのですが、あれは一体どういうおつもりですか。
これ以上、豪族ブライアンの名に泥を塗るようなことはやめてちょうだい。
やはりレオンハート皇子は、貴方には勿体ない代物でしたか?彼も、呆れておりましたわ。
結局、わたくしの長女ヨル・ブライアン令嬢に、彼をお渡しすることにしました。
やはり、わたくしの血筋が混ざってないと駄目なんでしょうね。夫にも、申し訳ないわ。
アリナ・ブライアン




