彼方者―あっちもの―5
「まさか本気だとはねー……」
「本気も本気だ。逃すつもりはない」
「この光景、先生に見られたらどうするつもりなんだよぉ。俺、変な誤解されたくないよぉ」
半泣きで嘆く二十六木の右手首には手錠がはまり、片輪は私が手で持っている。2人分の足音だけが校舎内の廊下に反響していた。
「逃げ出してもいいが、手錠の鍵は私が持っているからな。明日の朝、それを手首につけたまま登校する気概があるのならその限りではないが」
「裁判起こしたら余裕で勝てそうだな、俺」
時刻は19時15分。外はすっかり暗がりに染まり、校舎内の電気も心許ない。元々老朽化の進んだ木造校舎だ。雰囲気だけは申し分ないというものである。
「てかさぁ、話聞いた限りだけど、昨日怖い思いしたばっかりなんじゃないの?」
大鏡前に向かう道中、完全に諦めた様子の彼がポツリと声を投げかけてきた。私はふんと鼻を鳴らし一蹴する。
「だからなんだ」
「いや……、だからなんだって……。え、二ノ宮さんって、そういう……人?」
「失礼だな。誰が特殊性癖持ちだ」
「あの、そこまではっきり言ってないです」
「残念ながらそのつもりはない。ただ、……」
言葉を探す。新聞の記事のために、というだけならば、私とて2度目をやろうとはしないだろう。恐ろしい思いもした。金輪際会うべきではないと肌で感じた。
「それでも、私は聞かなければならない」
「聞く……?」
二十六木は不思議そうに首を傾げる。だが、これ以上説明する義理もない。私は手錠の輪をぐいと軽く引くと
「君が素直に知ってる事を話してくれたなら、2度目などやらなくて良かったかもしれないのにな」
「えー……」
彼は心底困った様子を見せていた。もうしばらく説得すれば押し切れそうな気配もあるが、既にタイムリミットは過ぎている。ここから彼を逃す道理はもうない。
「着いたぞ」
東校舎の大鏡。中央階段の真横に設置された鏡の前に立つ。鏡には仁王立ちになった私自身と、眉尻を下げ背を丸めている二十六木が映っていた。
「ねぇ」
彼が私を見下ろす。その瞳に怯えの感情はなく、どちらかと言えば私に対する困惑が見てとれた。
「二ノ宮さんさ。仮に俺が何かを話してたとしても……やるつもりだったでしょ」
「よく分かったな」
私は携帯端末を取り出して、片手で操作する。狐の窓の手の組み方が載ったウェブサイトを開き、確認すると、そのまま録画機能をONにした。
「私は人間ってものをそれなりに知っているんだ。二十六木君。誤魔化しや嘘を対話だけで看過することは酷く難しい。だから、誰かが隠している秘密を完全に暴くためには」
手を組み、狐の窓を作る。その隙間越しに、鏡に映った私と、そして二十六木廉の姿を見た。
「虎穴に入らねばならないと心得ている」
――ぽちゃん
遠くから水音が聞こえた気がした。狐の窓を覗いたまま、私は右手の廊下へ身体を向ける。
そして、




