-003- ボクが異世界の勇者♀の分霊体だった話
ボクの部屋への、自称レユハの来訪から続くこの流れ、完全に嫌な予感しかしない。
もし……出来るのならば、今鳴っているインターホンについては、無視を決め込みたいところだ。
「あれっ!?レシェス様っ?!インターホン鳴ってますよぉ……?」
「ああ、そんなの勝手に鳴らしておけば良い。だって……今日は元々、ボクは誰とも会う約束なんてしてないんだからさ?」
「本当に良いんですかぁ……?ちょっとインターホンの画面見ちゃいますよ?」
「どうぞどうぞ。」
本来であれば、今からボクは身支度を始めて、終わり次第バイト先に向かう流れだった。
でも今日は、推しのユレハに瓜二つな美少女が、『レシェス様?もうっ!!私ですよぉ?幼馴染のレユハですぅ!!』と言いボクの部屋にやってきた。
そして、レユハの『早く……目を覚まして下さいませんかぁ……?』という願いを、ボクはバイトを休んで聞いてあげることにした。
まぁ、バイトを休む代わりに、一つだけボクの願いを聞くという、レユハからの提案があったからなのだが。
──ピンッ……ポーンッ……
そんなわけで、ボクは願いを行使して、レユハを自分の恋人にすると宣言した矢先、この状況だ。
レユハと、外でインターホンを鳴らしている誰かが共犯ということも考えられる。
それくらいに、何か狙っているとしか思えないタイミングで、一回目のインターホンが先程鳴ったのだ。
そして今、二回目のインターホンが鳴った。
「だっ……誰なんですかぁ!?この女っ!!」
「はぁ……?!」
ソファから立ち上がり、インターホンの画面の前に立つレユハが急に声を荒らげてきたので、正直ボクは驚いた。
ボクが目覚める交換条件として、レユハをベッドに誘った際は『絶対に無理ですっ!!』と拒絶してたはずなのに、まさか『この女』と口にするとは。
「あのぉ……?レシェス様って、まだ独身で彼女とかはいらっしゃられないですよね?」
「はぁ……。ああ!!ボクは……独身だし?正真正銘の童貞だ!!その理由は、ユレハたんで童貞を卒業したいと思ってるからだ!!」
「はあぁっ!?ゆ、『ユレハたん』……って、私にそっくりすぎなアニメのキャラですよねぇ?!結局、レシェス様は私の身体目的なんですね……?」
──ドスンッ……
まぁ、当たらずとも遠からずと言ったところだろう。さっきも言った記憶があるが、仮に彼女がユレハでもレユハでもないとしても、こんな推し似の美少女を放っておくには、実に惜しい。
怒っているような呆れているような表情のレユハは、ソファのある場所まで戻ってくると、勢いよく腰掛けた。
「うーん……?ボクは、長い付き合いのレユハだからこそ、一度は恋人にしてみたいなと……。」
「あぁ……レシェス様!!すみませんでしたっ!!」
そんな偽りの言葉をボクが言い終わる前に、レユハに遮られてしまった。まさか、レユハから謝られるとは思ってもみなかった。
「私の頭の中では……幼馴染であるレシェス様がそんな酷いことする筈ないって、分かってはいるんですっ!!」
「うん。分かってくれればいいさ。」
「で、ですが……!!この世界でのレシェス様のその容姿が邪魔をしてしまい……つい疑いの目を向けてしまうのですっ!!」
レユハの言っていることの方が正しい。ボクは勇者♀でも、レシェスでもなく……塚本眞哉なのだから。そして、目の前にいるユレハに瓜二つな自称レユハの美少女を、ボクはうまいこと利用して童貞を卒業しようとしているのだ。
──ピンッ……ポーンッ……
「それにしても……ボクの部屋に業務以外で……さ?私用で訪ねてくる女性なんて、本当に居るのかな?」
「そ、それはぁ……。わ、私の場合も……本来の目的では、業務に近い感じでしたので……何ともぉ。」
「そうだよ!!こんなにゆっくりしてていいのか?!」
「あ……そうですよぉ!!身体を揺すっても、何しても目が覚めないレシェス様を起こす為、この世界に分霊体を持つ私が選ばれたんでしたぁ……。」
遂に、インターホンの呼出音の三回目が鳴り終わった事については、ボクが気付いていないはずがない。
それよりも、レユハの『この世界に分霊体を持つ』という言葉の方が気になってしまったのだ。
分霊体ってことは、やはりレユハに関しては、本体が別に存在するということになる。
ただ、それはレユハの言っていることが真実ならばだが……。
──ピンッ……ポーンッ……
「ん?四回目?!てことは、またインターホン押されたのか?外にいる女性、ボクの知り合いの可能性も出てきたな……。」
「そんなわけないですよっ!!だって……。」
──ポンッ……ポンッ……
「悪いね?レユハ。見てみないことには、判断が出来ないからさ?」
「だって、あんな女!!絶対、レシェス様のお知り合いな筈ないです!!」
色々とレユハに聞きたい事は山々だが、まずは相手が誰なのかを、ボク自身の目でインターホンの画面を見てみなければ、何も始まらない。
だから、床から立ち上がったボクは、ソファでむくれた表情のレユハの頭をポンポンすると、インターホンの前へと立った。
「は……?ど、どうして……ボクの住所を?!」
「えっ!?もしかして……ストーカーですかぁ!?」
インターホンの画面に映っていたのは、これから出勤予定だったバイト先の正社員で、私服がギャル系だけど長身でハーフ美人の葛西美紗子さんだった。
「いやいや。ボクのバイト先の社員さん。」
「はぁ……?あんなギャル女が!?レシェス様のバイト先の社員!?」
「仕事は凄く出来るんだよ?ただ……見た目でさ?損しちゃってる感……あるよね。」
近所にある、大手チェーンのファミリーレストランのお店なのだが、葛西さんはまだ24歳と若いのだが、見た目に反してかなり仕事ができる。
まぁ、フツメンのボクに対しても、休憩時間などはよく喋りかけてくれる、気遣いの出来る社員さんだ。
──ピンッ……ポーンッ……
「何、言ってるんですか?!見た目で言えば……この世界のレシェス様、大損されてますよねぇ?あの時、分霊体選びが適当すぎなんですもんっ!!」
「『大損』って……どういう意味?それに、『分霊体選びが適当』って……?」
「ある日、レシェス様は突然『男心が知りたくなったから、別世界に男性の分霊体作って、胎児から生きてみる!!』って……言い出したんです。」
二度目、二回目のインターホンが鳴った。でも今度は、それどころではない。何気ないレユハの発言に、ボクは衝撃を受けたからだ。これは、ボクという人間の存在意義に関わる内容だったからだ。
「ま、まさか……!?」
「はい!!あ、あれっ……?レシェス様、まさかねぇ……?!ご、ご自身の記憶……共有されてらっしゃらないのですかぁ?!」
「恐らく……。でも、ボクが……レシェスの分霊体だって事は、理解できたよ……。」
「レシェス様は……男性で、アレが……大きな遺伝だけで適当に選ばれたんです……。私は……女性で、自分の外見に似た遺伝を探しましたが……。」
一瞬、自分の耳を疑った。でもレユハがレシェスに対して冗談は言うことはあるが、嘘をつかないことは、夢の中の世界でよく見てきている。
それに、レシェスがボクを分霊体に選んだ理由は、何となくは分かっている。気になっているイディスのアレも……確か大きかった筈だからだ。
いつだったか……温泉に行った際、アクシデントが起こり、レシェスはイディスのアレを見てしまったことがあった。
レシェスにとっては、イディスのアレはかなりの衝撃だったようで、暫くの間夜な夜なその光景を思い出しては、オカズにしていたくらいだ。
「悪いのは、全て……イディスのせいだ……。」
「やっぱりっ!!私も、そうだと思ってましたぁ!!それはそうと……外にいるバイト先の社員さん、早く出てあげた方がいいのではぁ……?」
「そうだった!!」
まさか自分が、あの夢の中の美少女な勇者レシェスの分霊体だと知った、ボクのショックときたら凄まじいものであったが、今は出るしかなかった。




