-001- ボクが見る異世界の夢の話
「はぁ……はぁ……ユレハたん……!!はぁ……はぁ……ユレハたんっ!!うっ……!!」
おっと……?!これは失礼した。大変お見苦しいところをお見せしたようで、本当申し訳ない。
ここは、静岡市にあるボクが暮らすワンルームのアパートの一室。
まぁ……とりあえず、自己紹介しておくことにするが、ボクこと塚本眞哉は、今年で36歳になるアラフォー1年生だ。
仕事はといえば、複数のアルバイトで生計を立てているフリーターだが、厳密には35歳以上は【フリーターと同等の不安定就労者】と言うらしい。
外見はと聞かれれば、いつもボクはフツメンだと答えている。
勿論、3次元の彼女などは居たことがなく、2次元の彼女ならハーレム状態で、飽きたら捨てられる程に山ほどいる。
もっぱら、さっきのお見苦しい光景の通りで、ボクの右手がよく言うことの聞く、献身的な彼女だと言っても過言ではないだろう。
ここ最近のオカズには、【ユレハ】という異世界系ファンタジーアニメの脇役で、ドジで残念系な美少女エルフの彼女(自称)の画像を使っている。
因みにボクの部屋はワンルームだが、無駄に10畳あるので、3次元の彼女が出来たら、すぐにでも部屋に連れ込めるようにしている。
まず、寝具はシングルサイズの敷布団ではなく、セミダブルのベッドにしているので、好印象だろう。
それに、座り心地のいい2人掛けのソファもあるし、お洒落な楕円形のローテーブルだってあるのだ。壁には2次元の彼女たちのポスターは貼ってはあるが、ボクの3次元の彼女になる女性とは、共通の趣味で出会う予定なので、心配していない。
そういえば、いつの頃から始まったのかは忘れたが、ボクはほぼ毎日のように、非現実的な夢を見ているのだ。先程の【ユレハ】がボクのオカズになった件についても、その夢が与える影響の割合が大きいと言える。
そんな夢について説明するが、現在ボクたちが暮らすこの地球とは、文明や文化が全く違う異世界が舞台だった。そして、夢の中の主人公についてだが、ありがちな人間ではなく、耳先が長い長命な種族の女性な上に、所謂【勇者♀】だった。
夢の中で、ボクが一番びっくりした事は、大概のラノベやコミック等の創作作品で、敵役とされている魔王が、勇者♀の仲間の一人だったことだ。
まぁ、そんな魔王の容姿等については、ありがちで残念なのだが、息を呑む程に綺麗な顔立ちの男性だ。面白いのは、勇者♀に対する魔王♂の距離感がバグっていて、絶えずグイグイいってる気がする。
ただ、勇者♀も内心では満更ではない様子で、魔王♂のことが気になっているようだが、結構な奥手な上、感情表現が下手で見ててモヤモヤする。
あとは、お待ちかねかもだが、勇者♀とは同郷で、幼馴染な魔法使いの【レユハ】と呼ばれる女性が仲間に居り、例の【ユレハ】と瓜二つなのだ。
冷静に考えれば、ボクが見ている夢なのだ、アニメの初回放映時から推している【ユレハ】が、違う名前で出てきたとしても、おかしくはないだろう。
そんなわけで、ドジキャラ全開で、ムフフなサービスシーンが多めな【レユハ】を、不敬にも推しの【ユレハ】と重ねてオカズにし始めたのだ。
夢の説明をすると言いながらも、世界観やどんな話なのかについてはまだしていなかったので、しようかと思う。
魔王が勇者の敵ではなくて、仲間だというところまでは話したかと思うが、肝心な敵役がどんな相手なのかはまだだったので、それからにする。
夢の中の異世界で、主人公の勇者♀たちの敵役になっているのは、悪神と呼ばれている神の一人だった。
当然、他にも神は存在しているのだが、悪神の力が強大すぎており、力の差は歴然としており、手をこまねいていた。
そこで、一人の神によって平和を脅かす悪神に対抗すべく集められたのが、魔神殺しの末裔の勇者を筆頭に据えた、個性的な強者たちだったのだ。
元々は、魔王を討伐に向かっていた勇者一行が、その道中で神からのお告げを聞き、魔王とその配下と合流したという裏話も、存在するようだ。
でも、ボクが夢を見始めた時点では、勇者♀と魔王♂の間には、そんな背景があったような雰囲気など、微塵も感じることはなかった。
まぁ、そんな感じの夢を、ボクは毎日のように見ているわけだが、結構話の展開がしっかりしているので、今のところ飽きてはいない。
ただ、あの夢を見ていて不思議だなと思う事も、確かに存在する。
それは、ボクがあの夢を見る度、宿屋などのベッドから勇者♀が目覚めるところから始まるのだ。
ここまでずっと言わないできたが、ボクの意思とは関係なく、勇者♀の目線……一人称視点で夢の中の話は進んでいくのだ。
だから、着替えや温泉や水浴び等、勇者♀が装備を外す時は色々と丸見えなのだが、どういうわけかそれを見ても、ボクが興奮する事はない。
言うなれば、親類の女性の裸を見た時と同じ、無な感じになる。
まぁ、そんな状況の時は、大抵他の仲間の女性たちも、似たような格好になっている訳だが、ボクがそれを見た時には、普通に興奮して反応するのだ。
ふと、【レユハ】の姿を思い出してしまったら、ボクは中断してしまった、さっきの続きがしたくてしたくて、どうしようもなくなってしまった。
とりあえず、ボクはさっきの続きをこれからするので、声掛け無用でお願いしたい。
──ピンッ……ポーンッ……
【ユレハ】の画像を表示状態にしたスマホをベッドの上に置き、ボクは臨戦態勢に入っていた。そんな時に、ボクの部屋のインターホンが鳴ったのだ。
そもそも、ボクの部屋に急に誰かが訪ねてくるなんてこと、あり得ないのだ。
郵便局や運送会社等の配達員さんは、宅配業務で訪れることはある。でも、その場合は事前に配達日の通知がメール等でされる為、こんな下手をうつことはしない。
だから、今日は荷物等を受け取る予定はないので、このインターホンには出なくても問題ないのだ。どうせ、訪問販売や宗教勧誘などに決まっている。
──ピンッ……ポーンッ……
そんなこと考えている間に、二度目のインターホンが鳴った。これは借りている部屋のインターホンの仕様で、あと二回程繰り返すと鳴り止むのだ。
気を取り直して、ボクは再度ベッドの上で臨戦態勢に入ろうとしていた。
──ピンッ……ポーンッ……ピンッ……ポーンッ……
明らかにインターホンが鳴る間隔が短い。意図的にインターホンのボタンを連打している可能性が高い。
滅多にはないのだが、友人の来訪も一年に一回くらいあったりする。その際、ボクがインターホンを普通に鳴らしただけでは出て来ないので、友人は執拗にボタンを連打してきたのを思い出した。
だということは、友人でも訪ねて来たのだろうか。
臨戦態勢を解いたボクは、ベッドから降りると身だしなみを一応整えて、インターホンの前へと立った。
「は?!」
インターホンに映る人物を見た瞬間、思わず声が出てしまった。もしや、これは夢の中だったのだろうか。例の異世界の夢以外、見たことなかったが、ようやく違う夢を見れるようになったのだ。
──ピッ!!
はやる気持ちを抑えつつ、ボクはインターホンの通話ボタンを、急にどうしてか震える指で押した。
「は……はい……。」
「良かった!!レシェス様!!とりあえず、お部屋のドア開けて下さい!!」
そう、インターホンには【ユレハ】なのか【レユハ】なのか分からないが、どちらかが映っていたのだ。そんなことよりも、【レシェス】とは、例の勇者♀の名前だ。
どうしてボクのことを、【ユレハ】ないし【レユハ】がそう呼ぶのか、全く見当もつかなかった。
どう見ても、今のボクの姿は塚本眞哉以外の何者でもないのだ。




