透明な友だち
透明なともだち
わたしにはイマジナリーフレンドがいる。
今も、ベッドの上で膝を抱えているわたしの隣に、すうっとリオが腰かけた。なんで断言できるかというと、身体が半透明だから。それに物に触れないし、わたし以外に見えないし、喋れない。だからリオは、わたしのイマジナリーフレンドなのだ。
リオは長い髪をして、中性的な見た目をしている。昔好奇心で性別を聞いたが、曖昧にぼかされた。聞いてほしくなかったことかもしれない。
「ねぇ、リオ、今日転校生が来るんだってよ」
リオが微笑む。
「それは楽しみだね」
わたしは口を尖らせた。
「そうかな、わたしは少し不安だな。どんな子か分からないんだもん」
「大丈夫、陽菜ならきっと仲良くなれるよ」
リオはわたしの目を見つめた。リオに見られるとなんだかドキドキするけど、それを悟られたくなくて、必死で平常心を保った。
転校生は、左門美月といった、ショートボブのかわいい女の子だった。
わたしは自己紹介で、好きなもののことと、イマジナリーフレンドがいることを話した。
わたしは、リオのことを隠していない。そりゃあ、変だって思われるけど、それより、リオの存在を隠す方がわたしにとって嫌なんだ。
美月は良い子で、わたしにリオがいることを受け入れてくれた。
なんなら、興味すら示してくれた。
「ねぇねぇ、リオはどんな見た目をしているの?」
わたしはちょっと勿体ぶって話した。
「うーん、長髪で、すごく綺麗だよ。男か女か見分けがつかない」
美月は感心したように、返事をした。
「いいなぁ、わたしにもそんなともだち欲しかったなぁ」
わたしは意を決して美月に言った。
「それじゃあ、私たち、そんな友達になろうよ」
美月は驚いた表情をした。
「え」
そして、嬉しそうに声を上げた。
「嬉しい!わたし陽奈とともだちになりたい!」
リオはそんなわたしたちを、少し上から覗き込んで、満足そうに笑った。
それから美月と過ごすことが多くなった。
リオと出来ないことをいっぱいした。放課後買い食いしたり、オセロをしたり、交換日記もした。
どれもとても楽しかった。
美月と話すと、リオと話すのとはまた違った楽しさがあった。
リオにあれもこれも楽しい報告をするたびに、リオの顔が曇っていくのを、わたしは気づかなかった。
リオがある日、わたしに言った。
「もう、わたしは君の前には現れないよ」
わたしはリオが冗談を言ったのかと思った。でもリオが真顔だから、冗談じゃないとすぐに分かった。
わたしは狼狽した。
「え、なんで、どうして」
リオは微笑んだ。
「もう陽菜は、わたしがいなくても大丈夫だから」
わたしは叫んだ。
「そんなことないよ!リオがいなくちゃ、いてくれなきゃわたし、この先どうしたらいいか分からないよ!」
リオは悲しそうに呟く。
「それでも、もう決めたから」
リオがいなくなるなんて、考えたこともなかった。
いて当然だった。リオはわたしの大切な友だちだから。
そして秋の最中、リオはわたしの頬を撫でる動作をした。
半透明の身体を燻らせて、リオは言った。
「またね」
リオの身体が上へ上へと昇って、その輪郭をぼかしていく。最後はもう、殆ど消えて、見えなくなっていた。
リオの姿が空に溶けたあと、秋の風が頬を撫でた。
それをわたしはただ、眺める他なかった。
だってこれは、リオ自身の選択だから。
リオが決めたことだから、受け入れなきゃいけない。なのに、なんで、リオと話して遊んだ記憶ばかり思い浮かぶんだろう。
一緒に星座を眺めた。星占いをした。誰にも内緒の作戦会議だってリオだから出来た。
目から涙が溢れた。
わたしはまだ、リオの選択を受け入れられなかった。
それでもその日以降、リオが現れることはなく、日々が過ぎていった。
リオが昇った秋の空に想いを馳せる。
またね。
リオのその一言が、わたしを生かしている。
またね。リオ。
また、会おう。