出会い
背後の気配を感じた美優は、後ろを振り返った。
さっと駆けていく姿を見て、犬かな、とも思った。
狸かな、猫かな、
でもその、どれでもないとも、思った。
体が油揚げみたいな色で、尻尾がフサフサしている。
まさか、こんなところに…と、思いながら、気が付くと、追いかけていた。
その動物も、美優に追いかけられていると、気付いたのか、こちらを振り返った。
そして、美優と目があった。
動物は、美優を見たまま、動かない。
美優も動けなくなっていた。
「しまった…見つかった。」
誰かの声が聞こえた。
美優は、誰が喋ったか分からなかった。
そして、少しの沈黙の後、
「....コンッ‼︎」
と、鳴いて見せた。
その鳴き声が、まるで人間が言ってる声のようで、
美優は、目を見開いて、口はあんぐり開いていた。
「い、いま、喋った!?」
その動物を指差しながら、美優は腰を抜かしそうなのを、必死に堪えていた。
「狐が、喋った!!」
「あっ…」
気まずそうに、狐はそそくさと走って行った。
「待って!」
美優も走る狐を、追いかけていく。
美優の頭の中は、ハテナがいっぱいになっていた。
この神社で、狐を見たのは、初めてだった。
ましてや、話す狐、いや、話す動物なんて見たことない。
まさに童話か、小説か、漫画の世界の話だ。
ビックリと同時に、胸が高鳴っている。
『不思議の国のアリス』も、しゃべるウサギを見つけた時、こんな気持ちだったのかな。
そんなことを考えながら。
ウキウキした気持ちと、ちょっと怖い気持ちが、入り混じって、夢中で狐を追いかけた。
さっきまでのモヤモヤした気持ちは、どこかに飛んでいったように、忘れていた。