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狐の末社  作者: 坪原 衣音


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53/54

7年3ヶ月後

朝、7時半。

スーツに身を包んだ美優は、神社の鳥居を潜った。

桜の花の明るさと相まって、いつもより眩しい気がする。いや、眩しく感じるのは、新しい世界が、キラキラしていて、眩しいからかもしれない。

いつもと同じ朝なのに、いつもとは違う緊張感が漂っている。

参道を歩き、本殿の前で立ち止まった。

辺りを見渡すと、あの頃から変わらない景色に、ホッとする。

この7年間、何度もここに通った。

待ち合わせ場所は、大抵ここだった。

末社の中は、もう入れないけれど、確かにあそこには、狐がいて、沢山の思い出をくれた。

親友ができた。

暖かい日差しに包まれながら、末社を眺めていると、聞き慣れた声がした。

「美優、お待たせ。ごめんね、遅くなって。」

「晴風、おはよう。全然待ってないから大丈夫だよ。」

2人は、高校へ進み、大学へ進んだ。

それぞれ、別々の道だったけれど、近くの学校だったこともあり、しょっちゅう会っては、色んな話をした。

新しい友達の話、学校の話、あの頃では考えられなかった恋バナ。ケンカをしたこともあった。

"ちゃん”付けの呼び方も、呼び捨てになった。

「今日からだよね、学校。」

「うん。生徒じゃないのに学校行くって、なんか変な感じ。」

「美優、緊張してる?」

「めちゃくちゃ、緊張してるよー!!」

苦笑いしながら、晴風の腕を掴んだ。

「まさか、勤務するのが、母校とはね〜。」

「近くて、有難いよ。で、どうしたの?こんな朝に呼び出して。」

「うん。美優の晴れ姿見たくて。おめでとうって会って言いたかったんだ。」

そう言って、小さな紙の袋を手渡した。

「?ありがとう。開けていい?」

中には、ここの神社のお守り。商売繁盛って書いてある。

「商売繁盛って…。」

思わず、笑ってしまった。

「迷ったんだよ〜。学業成就か。でも学生じゃないし。家内安全も違うかなって。で、商売繁盛に落ち着いた。」

2人して笑った。

「ありがとう。何でも嬉しいよ。

晴風は、出発、明日だっけ?」

「うん。明日の午後の便。」

「見送り行けなくて、ごめんね。」

「そんなの仕事始まったら仕方ないよ。」

「晴風も憧れの海外か〜。カッコいいなぁ。」

「全然。ちゃんとやってけるのかも分かんないし。」

「ダメだったら、いつでも帰ってきていいんだよ。」

「そんなことには、なりませんよーだ。」

晴風は舌をベーと出しながら言った。

「なんか、どっかで聞いたことあるやり取りだね。」

「「魔女宅だ。」」

そしてまた、見合わせて笑った。

時間は経ったけれど、何も変わらない。

それが、心地よい。

「琴乃ちゃんからも、連絡来てたね。」

「うん。琴乃ちゃんは、大学院だもんね。」

中学3年の冬に、海外に転校になってから、3人でグループLINEを作って、連絡を取り合っていた。

大学進学のタイミングで、日本に戻ってきて、一度旅行がてら、美優と晴風は、琴乃に会いに行った。

中学の時とは、雰囲気も随分変わっていた琴乃は、なんだか、とても穏やかになって、笑顔も増えていた。

本来の彼女は、こういう子だったのだろう。

そして、心理学を学ぶ学科に通い、大学院まで進学して、スクールカウンセラーを目指していると言う話だ。

「虐められた事も、虐めた事もある私だからこそ、どちらにも寄り添えるカウンセラーになれると思う。」

そんな言葉が、印象的だった。


2人で末社にお参りをして、鳥居まで歩いた。

「じゃあ、私そろそろ行くね。」

「うん。村田先生!頑張って!!」

その呼び方が、やけにこそばゆい。

はにかみ笑いをして、頷いた。

「晴風も、頑張ってね!気を付けて行って来てね!!」

「うん。ありがとう。帰ってくる時、連絡する。」

「絶対、連絡してよー!!」

「分かってるよー。写真送るから。」

後ろに少しずつ歩きながら、離れて行く。

なんだか、名残り惜しい。

無言で、手を振った。

「なんか名残惜しいな…。」

そういった美優に、晴風が

「せーの、で後ろ向こう。じゃないと、美優、遅刻しちゃうでしょ?」

「うん。そうしよ。」

「「せーの…」」

同時に、後ろを向いて、別々の方に歩いて行く。

10歩位、前を向いて歩き、美優は、立ち止まって振り向いた。

その目には、真っ直ぐ歩いて行く晴風が写った。

これからは、会いたくても、直ぐには会えない。

それでも、これからも、ずっとずっと、誰よりも味方だし、応援してる。

離れていても、ずっと変わらない親友。

小さく「行ってらっしゃい。」と呟いて、また前を見て歩き出した。

頭上には、全ての門出を祝福するように、桜の花が咲き乱れていた。


---------完----------

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