7年3ヶ月後
朝、7時半。
スーツに身を包んだ美優は、神社の鳥居を潜った。
桜の花の明るさと相まって、いつもより眩しい気がする。いや、眩しく感じるのは、新しい世界が、キラキラしていて、眩しいからかもしれない。
いつもと同じ朝なのに、いつもとは違う緊張感が漂っている。
参道を歩き、本殿の前で立ち止まった。
辺りを見渡すと、あの頃から変わらない景色に、ホッとする。
この7年間、何度もここに通った。
待ち合わせ場所は、大抵ここだった。
末社の中は、もう入れないけれど、確かにあそこには、狐がいて、沢山の思い出をくれた。
親友ができた。
暖かい日差しに包まれながら、末社を眺めていると、聞き慣れた声がした。
「美優、お待たせ。ごめんね、遅くなって。」
「晴風、おはよう。全然待ってないから大丈夫だよ。」
2人は、高校へ進み、大学へ進んだ。
それぞれ、別々の道だったけれど、近くの学校だったこともあり、しょっちゅう会っては、色んな話をした。
新しい友達の話、学校の話、あの頃では考えられなかった恋バナ。ケンカをしたこともあった。
"ちゃん”付けの呼び方も、呼び捨てになった。
「今日からだよね、学校。」
「うん。生徒じゃないのに学校行くって、なんか変な感じ。」
「美優、緊張してる?」
「めちゃくちゃ、緊張してるよー!!」
苦笑いしながら、晴風の腕を掴んだ。
「まさか、勤務するのが、母校とはね〜。」
「近くて、有難いよ。で、どうしたの?こんな朝に呼び出して。」
「うん。美優の晴れ姿見たくて。おめでとうって会って言いたかったんだ。」
そう言って、小さな紙の袋を手渡した。
「?ありがとう。開けていい?」
中には、ここの神社のお守り。商売繁盛って書いてある。
「商売繁盛って…。」
思わず、笑ってしまった。
「迷ったんだよ〜。学業成就か。でも学生じゃないし。家内安全も違うかなって。で、商売繁盛に落ち着いた。」
2人して笑った。
「ありがとう。何でも嬉しいよ。
晴風は、出発、明日だっけ?」
「うん。明日の午後の便。」
「見送り行けなくて、ごめんね。」
「そんなの仕事始まったら仕方ないよ。」
「晴風も憧れの海外か〜。カッコいいなぁ。」
「全然。ちゃんとやってけるのかも分かんないし。」
「ダメだったら、いつでも帰ってきていいんだよ。」
「そんなことには、なりませんよーだ。」
晴風は舌をベーと出しながら言った。
「なんか、どっかで聞いたことあるやり取りだね。」
「「魔女宅だ。」」
そしてまた、見合わせて笑った。
時間は経ったけれど、何も変わらない。
それが、心地よい。
「琴乃ちゃんからも、連絡来てたね。」
「うん。琴乃ちゃんは、大学院だもんね。」
中学3年の冬に、海外に転校になってから、3人でグループLINEを作って、連絡を取り合っていた。
大学進学のタイミングで、日本に戻ってきて、一度旅行がてら、美優と晴風は、琴乃に会いに行った。
中学の時とは、雰囲気も随分変わっていた琴乃は、なんだか、とても穏やかになって、笑顔も増えていた。
本来の彼女は、こういう子だったのだろう。
そして、心理学を学ぶ学科に通い、大学院まで進学して、スクールカウンセラーを目指していると言う話だ。
「虐められた事も、虐めた事もある私だからこそ、どちらにも寄り添えるカウンセラーになれると思う。」
そんな言葉が、印象的だった。
2人で末社にお参りをして、鳥居まで歩いた。
「じゃあ、私そろそろ行くね。」
「うん。村田先生!頑張って!!」
その呼び方が、やけにこそばゆい。
はにかみ笑いをして、頷いた。
「晴風も、頑張ってね!気を付けて行って来てね!!」
「うん。ありがとう。帰ってくる時、連絡する。」
「絶対、連絡してよー!!」
「分かってるよー。写真送るから。」
後ろに少しずつ歩きながら、離れて行く。
なんだか、名残り惜しい。
無言で、手を振った。
「なんか名残惜しいな…。」
そういった美優に、晴風が
「せーの、で後ろ向こう。じゃないと、美優、遅刻しちゃうでしょ?」
「うん。そうしよ。」
「「せーの…」」
同時に、後ろを向いて、別々の方に歩いて行く。
10歩位、前を向いて歩き、美優は、立ち止まって振り向いた。
その目には、真っ直ぐ歩いて行く晴風が写った。
これからは、会いたくても、直ぐには会えない。
それでも、これからも、ずっとずっと、誰よりも味方だし、応援してる。
離れていても、ずっと変わらない親友。
小さく「行ってらっしゃい。」と呟いて、また前を見て歩き出した。
頭上には、全ての門出を祝福するように、桜の花が咲き乱れていた。
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