白狐
落ち着いた口調の白い狐は、ゆっくりとこちらに歩いて来て、鳥居の手前で、立ち止まった。
いつも見ていた狐よりも、ひと回り大きく感じるのは、白くて、何だか偉く見えるからだろうか。
赤のアイラインと、赤い小さな眉毛のような模様、頬には黄の様な金の筋が入っている。
耳の中も赤く、フサフサの尻尾も真っ白で、先が黄色と言うよりも、金色に輝いている。
胸元には、神社の横に、チョコンと座っている、狛狐と同じような、赤い前掛けを着けていた。
「狐さん…なの?」
美優は、戸惑いながら、聞いた。
「そうだが。いつもの私ではない。」
いつもは、言葉を返してくれなかった狐が、返してきた。
そのことに、驚いて、言葉が出なかったのもあるし、
目の前の狐が、いつものような、油揚げみたいな狐じゃないのもあるだろうが、3人とも言葉が出なかった。
鮫川さんに至っては、ここに狐が、しかも白くて、お面で見るような顔の狐が、こんな所にいるなんて、想像が追いつかないと言う感じで、口をあんぐり開けて、呆然としていた。
その沈黙を破ったのは、晴風だった。
「神様なの?」
狐が晴風の方に顔を向けた。
「本で読んだことがあるの。狐の神様がいるって。
その神様は白い狐だって。」
皆んなに、説明するように、晴風が話した。
「私は、神ではない。」
晴風の話を否定してから、狐は続けた。
「私は、この先に住まわれている神の、使者なのだ。」
3人が驚いているのが、見なくても分かった。
「だから…ここは神様が住むところだから、私たちが入っちゃダメってこと。」
「いかにも。」
「入ったら…どうなるの?」
ずっと黙っていた鮫川さんが、口を開いた。
「出られなくなる。
神でも、人でも、なくなる。
永遠に、彷徨い続けるだろう。」
狐の答えを聞くと、フッと鮫川さんが笑った。
「ちょうどいいじゃん。」
そう言うと、鳥居を潜ろうと、また一歩踏み出そうとした。
美優は、咄嗟に、鮫川さんの手首を握った。
「何やってるの!?ダメって聞いたじゃん。」
語気が強くなる。
「ほっといてよ。私のこと、何も知らないじゃん。」
「知らないけど…でも人でも、何でもなくなっちゃうんだよ?彷徨い続けるんだよ?」
「別にいいよ。今よりずっと。」
鮫川さんの言葉が、あまりにも寂しくて、全てを放棄したいと言うような、投げやりな言い方が、あまりに悲しかった。




