予感
何度、夜が明けないで、と思っただろう。
でも、無情にも、朝は来る。
学校に行きなくない、そう思って、なかなか布団から、出られずにいた。
お母さんが、階段を上がってくる音がした。
トントン、ノックが聞こえ、ドアが開く。
「美優、おはよう。体調、どう?」
お母さんが、優しく聞いた。
「うん…大丈夫。」
本当は、大丈夫じゃない。
気持ち悪いし、お腹も痛い。寝られなかったせいか、何だかクラクラする。
でも、休みたい、とも言えない。
ない気力を振り絞って、支度をした。
下に降りて行くと、お母さんが、声を掛けてきた。
「本当に、大丈夫?休んでもいいんだよ?」
その言葉に、涙が出そうになった。
でも、今日は、行かなきゃいけない気がした。
まだ、分からない。
ターゲットになるかもしれない、でも、ならないかも知れない。
まだ何も分からないのだ。
「本当に大丈夫。」
そう言って、玄関のドアを開けた。
学校に向かう足が、やけに重い。
お腹も痛いし、吐き気もする。
鮫川さん達に会ったら、何て言おう。
晴風に会ったら、何を話そう。
そんな事が、昨日の夜からずっと、頭の中をグルグル回って、でも答えは出なかった。
学校に着いて、教室に行くまでに、廊下で、杏奈ちゃんと香織ちゃんに会った。
いつも通りにしたつもりだった。
「杏奈ちゃん、香織ちゃん、おはよう。」
「あっ、美優ちゃん…。おはよう。」
明らかに、困った顔をしている。
「香織、行こっか。」
杏奈ちゃんが、そう言って、そそくさと教室に入って行った。
気のせいじゃない、避けられている。
教室に入って、近くの席の子に、挨拶をしても、返って来た言葉は、
「あ、うん。」
だけだった。
悪い予感は、的中するのだ。
クラス中から、気まずい雰囲気を、感じる。
私の居場所は、ない。
そう、肌で感じた。
今、何が起こっているのか、誰がどこまで、何を知っているのかも分からない。
ただ、俯いて、席に座った。
涙が溢れそうだった。
晴風とも、目を合わせられない。
こんな自分を、見られたくなかった。
それでも、晴風の心配そうな視線を、感じた。
でも、晴風に話しかけたら、晴風を巻き込んでしまうかもしれない。
やっと解放されたんだ。
そう思い、一人俯いていた。
朝のホームルームが終わり、一限は移動教室だ。
皆んな、誰かしらと、一緒に移動している。
美優は、行かなきゃと、思いながらも、動けないでいた。
昨日、今朝の出来事で、胸が張り裂けそうな、思いでいた。
後ろから、ハンマーで殴られたように、声がした。
「木崎さんも一緒に移動しない?」
そう声を掛けていたのは、鮫川さんだ。
顔は見えなかったけれど、驚いていそうだ。
「えっ…」
そう言って、固まっている。
「ねぇ、行こうよ。」
また聞こえる。
美優は、ただ、そのやり取りを、聞くことしか出来なかった。
(はるちゃんは、解放されたんだ。そして私がターゲット確定なんだ。)
美優は、目をギュッと瞑り、俯いたままだった。
そして、少し考えた晴風が、こう言った。
「鮫川さん、誘ってくれて、ありがとう。
でも、私、美優ちゃんと、行きたいんだ。
ごめんね、先に行っててくれる?」
俯いていた美優が、驚いて顔を上げて、晴風を見た。
真っ直ぐ、鮫川さんを見ている。
予想もしていなかった事を言われたのか、鮫川さんは驚いた表情をしている。
「好きにすれば。」
そう言って、鮫川さん達は、教室から出て行った。
美優と晴風が、教室に残された。
周りは移動だ、休み時間だと、騒々しかったが、
2人の教室は、静まり返っていた。




