いつも
今日もいつもと変わらない光景。
いつも通り、学校に行き、授業を受け、給食を食べ、掃除をして、また授業を受けて…。
休み時間には、仲良しの杏奈ちゃんと香織ちゃんとお喋り。
他愛のない会話を、いつものようにした。
今日は部活がなかったから、授業が終わったら、すぐに帰宅できた。
早く家に帰って、テレビをみたり、ゆっくりしたい。
でも帰りもいつも通り…
下駄箱に居たのは
去年まで、同じ小学校だった、晴風ちゃんだ。
小学校の頃は、遊んだこともあったし、すれ違えば、挨拶もした。
今みたいに前にいたら、「晴風ちゃん、バイバイ」位は言い合える仲だった。
でも今は違う。
そんなことをしたら、学校の皆んなに白い目で見られてしまう。
ましてや、鮫川さんに見られたら、どうなることか…。
考えただけでも恐ろしい。
だから、目を合わせずに、気付かないフリをして、ささっと靴をはいて、下を向いて急ぎ足で歩く。
声を掛けられないように。
肩からかけたカバンの持ち手をギュッと握って、
心の中では、どうか話しかけないで、と思いながら。
歩き出して、玄関から外に出た頃に、後ろで声がして、ビクッとなった。
鮫川さんの声だ。
「あーぁ、会いたくない子に会っちゃった」
周りの取り巻き4人も、クスクス笑っている。
晴風ちゃんに向けられた、刃のような言葉を聞いて、
胸がギュッと痛んだ。
早く歩きたいのに、歩けないで立ち止まってしまった。
振り返ってはダメ。
そう思いながらも、振り返らずにはいられなかった。
「ぼっちの人はかわいそう」
更に、追い討ちを掛けるように、刃は飛んでくる。
「大体さ、晴れる風って何?似合わなさすぎでしょ」
周りの子たちも、同調するように、笑っている。
息が苦しい位に、胸がギュッとした。
晴風ちゃんを見ると、何も聞こえないような顔で、上履きから靴に履き替え、玄関から出て行った。
真っ直ぐ前を向いて。
周りに目も向けず、誰かに声を掛けることもなく。
立ち止まっている美優の前を、何もなかったかのように、歩いて行った。
靴を履き替えた鮫川さんたちが、玄関から出てきて、美優に気付くと、
「美優、バイバイ」
と、声をかけてきた。
さっきの一部始終を見ていた美優は、一瞬遅れて、
「バイバイ」
と、声を絞り出すように言った。
違和感なく、うまく言えただろうか。
上手に笑えていただろうか。
そんなことを思いながら、ふぅっと溜め息をついた。
いつもと同じ。
そう、いつもと同じように、虐めている子と、虐められている子を見て、それをただ傍観するだけの毎日にウンザリしていた。