ヲタッキーズ166 女王様と鞭
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第166話「女王様と鞭」。さて、今回はSMクラブの女王様が殺され、蜂蜜漬けにされて公園のジャングルジムに吊るされます。
犯人と思われるSM愛好家達は、みんな奇行の持主ばかり、さらにユニークな女王様達の奇癖に振り回されて捜査は難航、あわや迷宮入りかと思われた時…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 死体は吊るされた
グランド末広町ステーション。
地下鉄の地底超特急化に伴い、再開発が進み摩天楼が乱立。今や、芳林パークはアキバのセントラルパークだ。
朝焼けに染まるパークを駆け抜けるジョギング女子。芝生広場を横切り、ベンチに手をついて、呼吸を整える。
「え。何?」
ふと振り向くとジャングルジムに吊るされた下着姿の女。全身に何かが塗りたくられている。息を飲む。そして…悲鳴w
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したら、ヤタラ居心地が良く常連が沈殿、回転率と収益率は急降下だw
そして、今宵は…
「Hip Hip Hooray!ア・キ・バ!」
何と常連のハッカー、スピアがチアの練習してる。
コスプレしてセクシーなステップを踏むんだけど…
ドン引きだ笑
「朝からビヨンセ?ダンスの発表会でも近いのか?」
「違う。メンバーのアシリに誘われて、今度チアリーダーのオーディションを受けるんだ」
「チアリーダー?」
僕(とソレを聞いた常連全員w)は絶句←
「YES。都市対抗野球だけど…私がチアじゃダメ?」
「いや、ただ、とても(アラサーのw)腐女子とは思えない」
「(アラサーがw)チアリーダーしちゃいけないの?」
枢要部を秘した緊迫のやりとりw
「いや違うんだ。ただ、仮にもハッカーだろ?チアリーダーになりたいなんて…」
「意外ょね?でも、練習を見てたら楽しそう。それに、人生相談のシフア先生が色んな活動しなさいって。いつもテリィたんを応援してるからピッタリでしょ?あ、行かなくちゃ」
「そっか。楽しんで」
腕時計をチラ見して、僕の頬にワンキス。慌ただしく出かけて逝くスピア。カウンターの中では、ミユリさんがクスリ。
「ミユリさん、スピアがチアリーダーだって」
「だから?テリィ様だってホッケーに憧れてたのでしょ。クールだって」
「でも、やらなかったよ」
ミユリさんは、グラスを拭きながらコメント。
「初日の準備体操で足がつったんでしたっけ。テリィ様、スピアの好きなようにやらせなきゃ。ほっといても大丈夫ですょ」
「ミユリさん。先週、僕が火星旅行の席を予約すると言ったら猛反対したょね」
「じゃあ考え直しましょう」
僕のスマホが鳴る。ニッコリ微笑むミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
裏アキバの芳林パーク。青シートの上には、ピンクのブラ&パンティ姿で目を見開いたママのスーパーヒロインの死体。
「女性。20代後半。IDナシ」
「ジャングルジムに吊るされてるのをジョギング中の女性が発見。"blood type BLUE"」
「コレ、蜂蜜かな?」
殺人現場には場違いな甘い香りが漂うw
「恐らくキャラメルソースね」
「キャラメルソース?犯人は甘党?」
「でも、試食は厳禁。後で調べルンだから」
僕のタブレットをハッキングして、超天才ルイナの"リモート鑑識"だ。車椅子の彼女は、ラボから手伝ってくれてる。
「死体の格好から見て、性的倒錯者の犯行ね」
「でも、ルイナ。チョコレートソースやホイップクリームならともかく、キャラメルソースなんてヤル?後でベタベタしてタイヘンょ」
「マズいコト、聞いちゃったかな」
過激な女子トークに慌てる僕。ところが、さらに…
「あら?この手枷はオーダーメイドだわ。野外プレイがお好きみたいね」
「ちょっち待った。なぜオーダーメイドだとわかる?」
「大量生産なら、こんな質の良い革は使わないモノ。それに手縫いだし」
スラスラ答えるラギィ警部w
「そうじゃなくて…なぜラギィがそんな違いがワカル?」
にっこり微笑み、ラギィは質問をスルーw
「ルイナ。死亡推定時刻は?」
「体温から見て夕べの10時から11時の間。ただし、殺したのは別の場所。死斑を見ると死後数時間は丸まってたはず。その後ジャングルジムに吊るされた。点状出血があるから窒息死ね。あとラギィ、コレも見て」
「縛られた痕?」
ラギィは、キャラメルソースで濡れた足を覗き込む。
「そのようね。他に争った痕とかはなかったわ」
「現場に足跡は複数あるけど、どれも部分的なの。あとキャスターを引いた跡があった。間隔は45cm。溝が深いから、重いモノを運んでる。50kg位?」
「他所で殺して、遺体をココまで運んだか。しかし、犯人の心理が読めないな」
ココで鋭い分析を披露スル僕w
「遺体がコレだけ入念にキャラメル漬けにされてるの見ると、犯行に計画性を感じる。でも、窒息死は激情型の犯行が多いンだ」
「テリィたん。そもそも死体にキャラメルを塗りたくる犯人に論理性がアルとはとても思えないわ」
「…オーダーメイドができるボンデージショップは、秋葉原では数カ所だけょ。手錠の写真を配って、どこの店のモノか調べて」
え。何だって?
「ラギィ、数カ所だけだナンて詳し過ぎるょ。君って、どれだけ秘密があるんだ?」
「秘密なら数え切れナイほどアルけど」
「今まで変な店で出会わなくて良かったな」
僕はフランス人みたいに両肩をスボめる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エアリ&マリレは、ネットサーフィン中だ。
「エアリの鼻息が首にかかってキモいわ」
「ゴメンね。自分のPCに変な履歴が残るのがイヤなの」
「だから、私のPCで?」
次の瞬間、思わズ画面を指差し、のけ反る2人。
「この人達、何してるの?」
「ソレ、ジャガイモの皮むき器かしら?」
「うわぁグロいわぁ!」
最後は、2人揃って同時に声を上げ大きくのけ反るw
ソコへ歩きスマホで電話しながら入って来るラギィ。
「…なるほど、そうね。確かに変ね。ありがとう」
ラギィは電話を切る。
「ルイナから検視報告が来た。性的暴行や性行為の痕がない。いかにも性的犯行に見えるけど、性行為がナイとなると…」
「ソレは、犯人が禁欲主義者だからだ」
「禁欲と言うより機能的な問題じゃないかしら。被害者の身元も不明よ。指紋はデータになかったし…」
ラギィの目を盗んで僕も画像を見に逝く。
「おお!」
「コレはどーなってるの?」
「マリレのハニーミルクちゃんに買ってあげようかしら」
同じ方向に首を傾げたママ騒いでる2人の間に割って入る。マリレはエアリがクリックしようとするのを止めているw
「しかし、どうやったらこんな体位が取れるの?」
「人間工学的に不可能だな!」
「ねぇ!聞き込み情報は?」
3人(僕もw)は首を傾げたママ、ラギィの方を見る。
「未だ何もナシ。ラギィ、昨夜殺されたばかりょ?失踪届が出されるとしても数日後だわ」
「手枷は?」
「手枷をオーダーメイド出来る店は秋葉原に7店舗あった。それぞれ照会して、今、返事待ち。その間にマリレの"妄想彼氏"に何かプレゼントしようと思ってルンだけど、ドレが良いか迷っちゃう!」
3人共、画面から目を離さない。
「マリレ。彼氏、いつ紹介してくれるんだ?」
「その時が来たら連れて来るわ。でも、ビビらせないでね。絶対ょ!」
「ほら噂をすれば、また"妄想彼氏"からだ」
スマホをとりイソイソと席を立つ。ラギィがボヤく。
「やれやれ。こんなに冷やかされルンじゃ私だって彼氏を連れて来れないわ」
「彼氏?元カレの僕は何も聞いてないぞ」
「みんな!ボンデージショップのハリポからだった。多分彼の店のモノだけど、実物を見ないと断言出来ないって」
マリレがスマホ片手に戻って来る。ラギィが反応。
「証拠保管室に手枷を出しておくように言って。私が行くわ。テリィたんも来る?」
「モチロン。さぁセックスショップに出撃だ。この事件、好きだな」
「テリィたん、シッポを振っちゃって。私より重症だわ。ミユリ姉様は御存知なのかしら」
その瞬間、またも"妄想彼氏"から電話。ボヤくエアリ。
「いいえ。貴女の方が重症ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「せっかくだから、ラギィの"妄想彼氏"にも、お土産を買ったらどうだ?コレとか気に入るぞ」
セックスショップは10階建てのノッポビル。全館オトナのおもちゃ、ランジェリー、ボンテージ、ポルノの大洪水!
僕は手にした羽根ムチをピシリ!
「いいえ。黙らないとコレょ!」
ラギィは革マスクを示す。口の辺りに黙らせチャック付き。
「いらっしゃい。何かお探し?」
「はい」
「いいえ」
店主の問いに異口異音の僕とラギィ。
ソレを見て、店主はやさしく微笑む。
「お2人のようなボンデージ初心者から快楽博士用まで。ウチは何でも揃っていますょ。でも、ちょっとだけ試すのならコレが1番人気です。どうですか?」
オモチャの手錠をガチャガチャさせる。
「いいえ、結構ょ。自分のがあるから」
ラギィは、自分の手錠を示すw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…この手枷は、縫い目がダブルクロス・ラップ・ステッチ。間違いナイ。うちの商品ですね」
「注文したのは誰?」
「もちろん覚えてますょ。普通の人でした。まぁそういう奴に限って、誰より過激だったりしますがね」
店主は、倒錯世界をわかりやすく?解説←
「名前か住所は?控えはありますか?」
「はい…タイラ・ベントですね。半年前に売ってます」
店主は、今どき珍しい紙の帳簿をめくり、ニヤリと笑う。
「可愛い彼女のためにプレゼントしてましたね」
「顔を覚えてますか?」
「覚えてますょ。色々と質問して来ましたからね。こげ茶の上下。20代の女性」
僕とラギィは顔を見合わせる。
「もしかして、この子ですか?」
ラギィがキャラメル塗れの死体画像を見せる。
「あぁ!何てコトだ!」
「昨夜、何をしてたかタイラ・ベントに聞かなきゃ」
「恐らく彼が犯人だな」
第2章 シェアハウスの親友
アキバ工科大学の医学部は、神田リバー沿いに立地スル"リバーサイドキャンパス"と呼ばれる高層タワーの中にアル。
タイラ・ベントは医学生だ。
「彼女は、ジェカ・マリスです。私と交際中で…来週プロポーズしようと思っていました」
「タイラさん。昨夜はどこに?」
「御成門の病院です。私は研修医なんです。裏どりなら、指導医に聞いてください」
真面目な医学生に見える。どーやらウソでは無さそうだ。
ラギィは証拠品である手枷の入ったビニール袋を見せる。
「コレ、見たコトありますか?」
「はい。何ヶ月か前に彼女にプレゼントしました」
「おい!彼女は、芳林パークのジャングルジムに、その手枷で吊るされていたんだ。まさか、真夜中の公園でプレイしてたンじゃナイだろーな」
僕は、圧倒的な上から目線で責め立てる(役だw)。
「違う!私は使ってもいません。これはジョークのつもりでした。彼女の研究をからかっただけだ!」
「研究?」
「あんな研究ヤメさせればよかった。他のテーマに変えさせてさえいれば」
研究?ってかアンタ達、何者?
「何か研究してるの?」
「彼女は、私と同じA.I.T.に在学中で、社会学類の博士課程にいます。研究テーマは"セックスにおける拘束と支配の社会学"。何ヶ月もその世界の人々に会い、交わって、何に興奮スルのかをリサーチしていた。だから…殺されたのでしょうか?」
「捜査中です。で、手枷は何処に?」
手枷を持ってた者が犯人だ。
「そんなコト知りません。でもダニエ・ルニエならわかる。彼女の大の親友だから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
流行りのシェアハウスだ。ダニエはテレパスと聞いて、僕専用のヘッドギアを装着。"SF作家"と大描きしてアル奴。
「大学1年の時から、ココで一緒に住んでいました。ズッと一緒に暮らしてたから、実の姉妹みたいに仲が良かった」
「タイラからのプレゼントだった手枷は、何処にあったか知ってる?」
「もらった時に1回、見せてくれた。でも、その後は見てないわ」
ソファに腰掛け紅茶を薦めるダニエ。染めたブロンドがめちゃくちゃ似合う上品美人だ。海外ドラマで主役を張れそう。
「最後にジェカに会ったのはいつ?」
「昨日の朝です」
「彼女の研究については聞いてた?例えば、どこで誰と会ったとか」
ダニエは首を傾げる。白鳥が首を傾げるような優雅さw
「いいえ。残念だけど聞いてないわ。あぁ昨日は、彼女とほとんど話しをしていなかったわ」
何とサメザメと泣き出す。どんだけ御嬢様?時間がもったいないが事情聴取は中断。エアリが顔を覗かせラギィを呼ぶ。
「ラギィ、ちょっと」
シェアハウスは、真ん中に共同で使うリビングがあり、そのリビングに面して、ドアで隔てたベッドルームが4つアル。
「ラギィ。ジェカはベッドには寝てないわ。争った形跡も無い…と思う」
「スマホはあった?」
「ない」
ラギィもジェカのベッドルームを覗いてソファに戻る。
「すると…外出先で殺されたのね。ねぇダニエ。ジェカが昨夜どこに行くか聞いてた?」
「いいえ。私が22時頃帰った時には、もういませんでした。タイラが病院で夜勤の日だったから、彼女も大学で論文を描いているのかなと思ってました」
「OK。GPSでスマホを追跡してみる。何か見つかるカモ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再びアキバ工科大学リバーサイドキャンパス。
「ジェカは、昨夜は来てなかった。私は深夜まで研究してましたが、彼女を見ませんでした」
ジェカの指導教授のシドー教授は、初老の紳士。
「彼女のリサーチ対象は、どんな人達だったか御存知でしたか、センセ?」
「はい。ベノムという人物と会っていると言っていました」
「ベノムだって?ソレって論文なのか?ポルノ雑誌のコラムみたいだな」
シドー教授は、場数を踏んでるのか落ち着いたモノだ。
「おまわりさん。とかく性に関する研究は、揶揄されるコトが多い。我々は、常に狭量な人々と戦っているのです」
「彼女の論文は査読させていただいた。ハッキリ申し上げて"SM"に関しては、彼女はベノムに色々と聞いていた、との認識でよろしいでしょうか?」
「YES。少なくともリサーチ対象者にどんな人がいるのか、ベノムなら知っているハズです」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シドー教授に連れられ、大学のコラボルームを訪れる。
「ケリィ。コチラは警察とSATOの方だ。ジェカの資料を出してくれ」
ケリィと呼ばれた、落武者みたいなザンバラ髪の眼鏡女子が警備員を呼ぶ。
やがて、腰の鍵をジャラジャラさせながら警備員が現れ耐火金庫を開ける。
「わざわざ施錠した耐火金庫に論文を?」
「私達は、奨学金競争を戦っています。ライバルが出入りする場所に、大事な論文を放置しておく人はいません」
「ジェカは、よく遅くまでココに?」
うなずくザンバラ。
「YES。彼氏が夜勤で徹夜だと、よく休憩時間を狙って会いに行ってたわ」
「熱々ね」
「ねぇ!ジェカのコト、聞いた?」
またまたザンバラ女子が飛び込んで来る。姉妹?笑
血相を変えてって奴だが明らかに好奇の目が爛々←
「タリィ。待って」
「ブラとパンティでジャングルジムに吊るされてたんだって!どんだけ?」
「タリィ。こちら万世橋警察署のラギィ警部。彼女の捜査をしているのょ」
警察と聞き、明らかに狼狽するザンバラ髪2号。
「わ、私達3人は、博士課程の同期ナンdeath」←
「まぁ。ソレはとても仲が良さそうね」
「いいえ。私は、ただ…」
しどろもどろ…だが、好奇心は丸出しだw
「ケリィ。ジェカには学部内に敵はいた?折り合いの良くない人とか」
「私は、彼女の奨学金のライバルでした。でも、人殺しはしてません!」
「あら。ソレどうかしら。ジェカに敵はいた。大学の内線で最近彼女にいたずら電話がかかってました」
イタズラ電話?
「荒い息遣いだけの無言電話。マジ気持ち悪がってた」
「博士課程にしては幼稚だな」
「私は、スラム街でのエイズ治療の研究をしている。ケリィのテーマは見えない性差別。だけど、ジェカは女王様がヒールでダメ男を踏みつける現場を見物に行って喜んでた。いくら美人だからって、彼女は連中からイタズラされても不思議じゃないわ!」
警備員さんが耐火金庫を開け中の引き出しも開け振り向く。
中には"mistress venom"と描かれた分厚いファイルが…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
何冊もある"ベノムファイル"を分署に持ち帰り(任意!押収じゃナイょ)、ラギィとコーヒー片手に片端から読み込む。
「女王ベノムの顧客を詳細に記録してる。客は、まるで実験用のラットみたいな扱いだ」
「そうね。でも、ニックネームしか描かれてナイ。ヲネエ、痛がり屋、ビビリうさぎ…」
「客の誰かが彼女のリサーチに気づき、自分の性癖が世間にばれるの恐れて殺した、とかね」
ラギィはうなずく。
「十分、殺人の動機になるわ。それにしても、何で彼女はこんな研究を?」
「論文の企画書には"人間関係の崩壊に直面しSMに興味を持った"とある。主なテーマは"SMプレイ中の明らかな支配的行為と日常な人間関係における支配的行為を比較検証するコト"だってさ。ベノム嬢は、ダンジ通りのとあるボンデージクラブで働いている、ともアル。でも、どの店かは描いてない…」
「ダンジ通りね。チェルとミッドの間。その手のクラブが集中してる界隈だわ」
僕は、少なからズ驚く。
「僕はともかく、そんなコトをなぜラギィが知ってる?」
「以前、風紀犯罪班がその手の店を強制捜査したから。店内で行われている性行為もプレイも違法行為はなく合法とされた。だから、今も営業してるハズょ」
「君もバイトしてみれば?副業でやれば相当稼げそうだ。犯罪者に手錠をかけるより、手錠自体でプレイしたいって欲望は無いのか?」
既に脳内でラギィはボンデージ←
「ないわ。でも、1つあるの。私の好きな大胆で危ないコトが…スゴい変態プレイをしたいわ…ソレはね、スーパーヒロイン殺しの犯人を捕まえて、蔵前橋に送るコト!」
「やっぱり思わせぶりがプロ級だ」
「Hi」
マリレが入って来る。
「ジェカにかかってきた無言電話の犯人は特定出来なかった。大学の内線は、交換機を通してるから、つき止めるのは無理だわ」
「彼女のスマホの解析は?」
「彼女が事件当日に電話したのは、彼氏に1本と大学に1本と"レディ・アリナの悶絶と服従の館"に2本」
服従はメイド服の暗喩だが…新手の御屋敷?SM系?
「ソレ、きっと女王ベノムが働いてる御屋敷ね。住所は?」
「東秋葉原38丁目」
「あら。それなら昼休みに行けそう」
自分達が逝くつもりのヲタッキーズ。だが…
「はい!じゃ2人は彼女の研究資料を読み込んで」
2人の目の前にファイルを積むラギィ。
「結果につながる情報をつかんでね。私達が、女王ベノムに会いに行くわ」
「ムチに女王に殺人か。こりゃ最高の1日になりそうだ」
「テリィたんが楽しそうで何よりだわ」
ラギィがスマホを抜く。
「もしもし私はケイト。実は彼氏がとっても悪い子ちゃんで困ってるの。ええ、そうよ」
誰に電話してるのかな?僕はニヤニヤしながら上着を着る。
「彼の名前はテリィたん」
「え。誰と話してルンだ?仮にも僕は元カレだぞ?」
「お友達に女王ベノムを勧められたんだけど、今日の空きは? 4時ね。OK, mine」
慌てる僕。何が4時だ?追い回す僕。逃げるラギィ。
「おい!よせ」
「ええ、いいわ。完璧。ありがとう」
「冗談か?キャンセルしろよ」
ラギィはスマホを切って挑発。
「いいえ。コレは相手に手の内を見せずに接近スルための最高の作戦ょ。お陰で怪しまれズに懐に飛び込めるわ。あら?テリィたん、SMプレイは初めて?ミユリ姉様とはヤらナイの?」
笑いながら歩き去るラギィ。
「え。ミユリさんのボンデージ?」←
第3章 悶絶と服従の館
外資系法律事務所、つまり海外ドラマに良く出て来る流行りの法律事務所みたいなインテリアだ。
エレベーターが開くと、左右に白いソファの王座が2つ置いてあり、高級スーツの男とすれ違うw
その男は、手首を撫でながら僕を見てニヤリw
「いきなり拷問台やコルセットの女性がお出迎え、と思ったら違うんだな」
「レディ・アリナの"悶絶と服従の館"へようこそ。今日のご希望は?」
「ほら答えなさい。早く!駄目テリィ!」
駄目テリィ?ハッキリ言って楽しんでるに違いないラギィはヤタラ胸が深いV字カットの受付女子相手に大袈裟に嘆く。
「ね、ダメ男ちゃんでしょ? 4時に女王ベノムの予約した駄目テリィ。私は"飼主"のラギィ」
「"飼主"様は見学なさいますか?」
「もちろんょ!彼が身悶えする姿を私が見逃すと思う?」
すると、受付女子は警戒を解いて艶然と微笑む。
「女王ベノムは見学も歓迎します。こちらへどうぞ」
ムダにメタルな扉を開けるウルトラハイヒールの女←
「ねぇ。この御屋敷には猿轡あるかしら?」
歌うような口調で尋ねるラギィ。ますます不安が募る僕。
「アップルだ。アップルと言ったらギブアップだからな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
廊下の両側に"お仕置き部屋"がズラリと続く。早い話がカラオケルームと同じ作りだ。
それぞれの部屋、というかブースの中が"お仕置き"という名の"劇場"になっている。
約1ダースのボンデージ女子がお仕事中w
「ラギィ。次は"妄想彼氏"と来いょ」
「もう来てるわ…貴女が女王ベノムなの?」
「いいえ。私は"悶絶と服従の館"館主のレディ・アリナ」
年増だ!サイドレースアップの黒ボンデージレオタード。辛うじてボンレスハム状態は免れるが、そのコスプレはw
まぁソレはウェストにゴムが入ってナイ証拠でもアルから、ソレだけカラダの線が崩れ(切ってw)いない証なのか…
裏のドアから唐突に現れた彼女はノタマう。
「女王ベノムは、当日欠勤です。貴方には、別の女王様を御紹介スルわ」
「ま、まさか君?!」
「テリィたん、黙って。レディ・アリナこと坂之上スミエ。
それじゃ困るの。私は、万世橋警察署のラギィ警部。今すぐ女王ベノムに会わせなさい。コレは、殺人事件の捜査です」
ラギィはバッジを示す…が、女王アリナは全く動じない。
「誰が殺されたの? 」
「アキバ工科大学の大学院生ジェカ・マリス。博士論文の研究対象として、女王ベノムのプレイをリサーチしてた」
「館内のリサーチは、一切許可してない。顧客のプライバシー保護は、当館の基本的なテーゼょ」
ココぞとばかりにジェカの画像を示すラギィ。
「この女性に見覚えは?芳林パークで、キャラメルシロップ漬けで発見されたンだけど」
「もちろん知ってるわ。おまわりさん、彼女は女王ベノムのリサーチなどしてないわ」
「ナゼそう思うの?」
ココぞとばかりにアー写を示すアリナ。
「彼女が女王ベノム自身だから」
ホントだ。僕達は息を呑むw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「遺体の足に残ってた痣の位置と一致する。間違いなく死ぬ前にコレを履いていたんだわ」
「SMシューズを脱いだ後は数時間は痕が残る。彼女は昨日7時半頃帰った」
「ホントに気づかなかったのか?彼女がココで顧客を研究対象に社会学の実験をしてるってコト?」
突っかかる僕。しかし、アリナは平然としてるw
「ええ。半年前に店に入り、瞬く間に売れっ子の女王になったわ」
「彼女に特別に執着していた顧客はいた?」
「ソレはもう、彼女の推し全員が執着してた。でも、基本的にヲタクは従順よ。殺しは究極の支配的行為。従順とは相入れない行為だわ」
うーんアリナは単なるやり手ババアでは無さそうだ。
「そりゃそうだ」
「でも、ヲタクは貴女が考えてるほど単純じゃないわ。屈辱や拷問を求める客も、プレイの度が過ぎれば逆上するコトもアルでしょ?」
「全室のモニター画像を顧問弁護士がリアルタイムでチェックしており、女王の身の危険は元より、違法行為を見つけ次第、24時間、法的に対応スル用意がアル」
すげぇ!労務管理もバッチリだ。コレでボンデージさえ着てなければ、ビジネス誌の表紙を飾る立派な経営者だけどなw
「顧客リストは?」
「おまわりさん。ココで提供するサービスは全て約款に基づく合法なモノよ。サービス約款には顧客のプライバシーに関する守秘義務も含まれる。その約款を裏切るコトは出来ないわ。特に貴女の単なる直感だけではね」
「いいえ。単なる直感じゃないの」
突っ張るラギィ。しかし、顔色1つ変えないアリナ。
「でも、令状がないわ。貴女には残念な縛りがアルのでしょ?ごめんなさいね」
ほぉヤルな。
「女王様にしちゃ法律に詳しいのね」
「意外でしょ?私は元弁護士よ」
わぉマジかw
「会議室や法廷で男どもを操ってたコトを思えば当然の帰結とも言えるわ」
僕の視線を捕まえ、濡れた目をして歩み寄る。
「"女王の赤"ょ」
「何が?」
「私の口紅の色。見つめてたでしょ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さっき通ったムチの音やうめき声、女王様の罵りに満ちた廊下を、今度は逆方向で引き上げる僕とラギィ。気分は敗走w
「すまん。催眠状態だった…ついボケッとして」
「テリィたんに怒ってルンじゃない。彼女に怒ってルンです。従業員が殺されたのに顧客のコトばっかり」
「ムシャクシャするのならイジめる相手でも探せば?例えば例の"妄想彼氏"とか」
と、話す傍らを、目隠しした裸の男の首輪の鎖を持って連れ歩く金髪の女王様とすれ違う。コレは"お散歩"プレイか?
やや?セーラー戦士のボンデージ?
「警察の人?」
「万世橋警察署のラギィ警部ょ」
「私は、女王ウラヌスよ。ほんとなの?彼女が死んだって」
奴隷に"ひとムチ"入れながら、顔だけ向けて質問スル。
ほとんど主婦の立ち話感覚だ。ボンデージ着てる以外はw
「YES。残念だけど」
「先週変なコトがあったの」
「顧客のコトで?」
ココで驚く女王ウラヌス。
「アナタ…国民的SF作家のテリィたんじゃナイの!息子が"(宇宙)船コレ"のファンなの。後でサインして…で、実は初めて来たお客だったんだけど、数分で帰ったの」
ポリス制帽を斜めに被ったウラヌス。やたら深い胸の谷間のボンテージだが…シングルマザーだったのか?!母乳系か?
「ロッカー室で彼女、泣いてたわ」
「理由は?」
「さぁ知らない…ほら!お立ち!」
ムチが入って奴隷は喜ぶ。何なんだ、この世界は?
「特徴、何か覚えてる?」
「1週間も前だし、後ろ姿しか見てないんだけど、お医者みたいな白衣を着てたわ。多分アレはリアル。コスプレじゃナイわ」
「スクラブ?というコトは…」
主婦目線?の会話から、突然閃くラギィ!
「彼氏は、恋人の裏の顔を知った…だから、プロポーズを止めて殺した?そうょきっとそーだわ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あ、ラギィは主婦ではナイし、シングルマザーでもありません、念のため。で、万世橋の取調室。
「僕は、ジェカを愛してた!なぜ彼女を傷つける必要がありますか?」
「それは彼女が貴方を傷つけたからょ!」
「何の話です?」
勤務先から任意で"連行"されたタイラ。
可哀想なコトに確かにスクラブを着てるw
「この前、自分で言ったじゃない?あんな研究ヤメさせれば良かったって。さぞかしショックだったでしょう?研究だけじゃなく、実践までしてたとはね」
ボンデージ姿の恋人のアー写をパシッと叩きつける。
タイラは目を見開いて絶句。しかし、段々とニヤリ?
「これ何なんですか?馬鹿げている。ジェカがこんな格好でおかしなプレイをしてたとでも言うんですか(でもイイw)?」
「先週、そのスクラブを着たママ、なぜクラブに行ったの?彼女を追求するためでしょ?」
「だから、何の話ですか?」
彼への助け船のつもりで、僕も一言。
「ヤメとけ。目撃者がいるんだ」
「あのね!アンタの気持ちは良くわかる。可愛い恋人にウソをつかれた。それで感情を抑えられなくなったとしても、無理はナイわ」
「ねぇねぇおまわりさん!何の話ですか?」
スクラブの研修医は、明らかに当惑してる。
「タイラ・ベント。貴方は、恋人を殺し、犯人がボンデージヲタクだと思われるように遺体を演出したわね!」
ラギィ的にビシッとキメだつもりだが、タイラは挫けない。
「彼女がボンデージの格好してるなんて知らなかったんだから、そんなクラブに行くハズがナイ。場所も知らないし。ソレに彼女とは結婚するつもりだった。付言スルが、そのボンデージ姿を見て、その気持ちはマスマス強くなった!そもそも、3日前には新居の賃貸契約をしてます。殺すほどボンデージ姿の彼女を憎んでいるなら、そんな契約しないでしょう!」
堂々の論陣だ。ラギィは完全に沈黙←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したらヤタラ居心地良くて常連が沈殿、客回転は低迷し収支は急降下…
って話はさておき、その夜の"潜り酒場"。
「ソレが姉様。タイラの供述はホントだった。新居については事実。公正証書もありました」
「まぁ。でも、ソレって自分のアリバイ補強のためじゃナイかしら?どう思います?テリィ様」
「殺されたジェカの論文で、崩壊した人間関係について触れてルンだ。"研究対象Aは、共依存に陥っているBを恐れ、別れを告げられない状況だ"ってね。で、ラギィは、このBをタイラだと推理したワケだ」
カウンターの中で首を傾げるメイド服のミユリさん。萌え。
「その論法だと、ジェカは、強くなりたくて女王様になったコトになりますね。ソレはナイかと…マリレ?
「ミユリ姉様。病院の監視映像でタイラのアリバイを確認中です。恐らく彼はシロだと思います」
「どーやら、ジェカの論文を読み込むコトから始めましょう。そうすれば、何か証拠が見えて来ると思います」
ミユリさん、暗の内に僕の読み込みが雑だと指摘中←
「とにかく。ラギィも仮説だけでは起訴には持ち込めませんから。ね?テリィ様」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スーパーヒロイン達は、スーパー速読でジェカの論文を読み込む。その間、僕は"悶絶と服従の館"のHPを見ているw
「テリィたん?!」
別にヤマしいコトはしてナイが、ソレはその、習性とでも申すべきかバタンと思い切り大きな音を立ててPCを閉じるw
「テリィたん、SM好きだったンだ。まさか、夜毎姉様とプレイを?」
「いや、コレは事件のリサーチだ。ミユリさんも無罪」
「あーそうなの」
全く信用してないスピア。
「スピアこそ、靴音がする靴を履け」
振り返ると、常連でハッカーのスピアが、チアリーダーのコスプレをしてポンポンを持っている。コ、コレは一体…
「合格したのか?」
「まだよ。オーディションは来月。服はシュヒに借りたの」「ソレで…どんな気持ち?」
微笑み、お姫様ターンするスピア。ミニスカがヒラヒラ。
「全然自分らしくない。でも、だから逆に楽しいなって」
「自分らしくナイから良いのか?」
「テリィたんも"(宇宙)船コレ"に飽きて、太陽系海軍シリーズの終わりで"宇宙戦艦ヤマ子"を撃沈したでしょ。それと同じ。いつも同じ自分だったから、タマには冒険したいの」
さすがは元カノ会長。良いコトを逝う。
「でも、その冒険には、どうしてもポンポンが必要なのか?」
「あの時やっておけばよかったって後悔したくない。だから、テリィたんも応援して」
「…わかった。応援スル。約束だ」
途端にハシャギ出すスピア。
「GO!テリィたん!…さぁ道を開けて!SF作家の登場よ」
何とチアコスでトンボ返りw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
何となく疲れてしまってお出掛け。真夜中の捜査本部に顔を出すとラギィがホワイトボードの前で完全に煮詰まってるw
「ラギィ。チアリーダーに憧れた?」
「いいえ。テリィたん、あのコスプレが好きなの?」
「大好きだ…いや、その、あの、スピアの話だ。オーディションを受けるとか逝い出して」
僕は、元カレらしく険しい顔をしてみせる。
「だから?」
「アラサーのつんつるてんのミニスカートだぜ?」
「いいじゃないの。腐女子は、あれこれコスプレするコトで、脳内キャラクターに成り切って楽しむの。そうやって自分探しをしてるのょ」
そんなモンかな。
「で、ラギィは何を見てルンだ?」
「病院の防犯カメラを見たら、やっぱりタイラは病院から出てなかった。彼はシロだわ」
「映像を細工したとか?」
呆れた顔で僕を見るラギィ。
「彼はインターンょ。スパイじゃないわ」
「やっぱり、僕の推理は破綻だね」
「ジェカは夜の7時半にSMクラブを出て、10時から11時の間に殺された」
ラギィは、ホワイトボードの時系列表を刻む。
「シェアハウスにも帰らズ、大学に戻ってもいないのなら、その間何処に行ってたの?」
「ラギィ!見せたいモノがアル!」
「え。」
振り向くとエアリ。僕達にファイルを差し出す。
「ヲタッキーズでスーパー速読で資料を読み込んだら、ジェカの顧客の1人が引っ掛かった。サム・アイ・アム。ニックネームだけど」
「韻を踏んでるな」
「そいつは"うぬぼれ屋のマゾヒスト"の頭文字ょ。因みに、ジェカの分析に拠れば"サム・アイ・アムは、服従的に見えるが受動攻撃性があり、女を支配しようとする。つまり、単に叱られたいだけではなく、わざと相手を怒らせて叱らせる"とアルわ」
エアリの読み上げに僕をチラ見してハシャぐラギィ。
「あら!誰かさんにソックリだわ!」
「でしょ?クスクス…"特に、このタイプは反応が欲しくて、相手を脅迫する危険な面もある"と描いてるわ」
「マリレ、見せて」
マリレから論文を取り上げ、読み上げるラギィ。
「えっと"彼は、女王ベノムに罰を与えたいと言った。探し出して、縛り上げて、沈めたい。甘いキャラメルの海に"ですって!キャー!この人、犯人に決定ょ!」
「確かに遺体の状態と同じだな」
「でもね、例によって本名が分からないの」
すると、ラギィが何処からともなく白い紙をヒラヒラ。
「ジャジャーン。押収しちゃった!」
「あら。IDネームの顧客リスト?さすがは国家権力!」
「超法規組織に言われたくないわ。もしもし?マーク・ショハ氏をお願いします。はい?コチラは警視庁(違うw)」
僕は天を仰ぐ(室内だけど)。
「どーやらマジで"お仕置き"のお時間だw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。長く待たされ、室内を神経質そうに歩く男…をマジックミラー越しに見てる余裕の僕達。
「サム・アイ・アムことウィム・キラウ。コンサル会社"SCS"のマネージングディレクター」
「一流会社じゃナイ…な」←
「私がヤル。ヲタッキーズとテリィたん、特にテリィたんは外して。キラウは、ヲタクよりも強い女にひれ伏すタイプだから」
ラギィは革ジャンのチャックを一気に上まで上げる。
僕は、大きくうなずき、頼もしげにラギィを見送る。
「サム・アイ・アムがフォックスとボックスの中か…お?韻を踏んじゃった。さ、特等席でポップコーンを買って観戦だ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室のドアを乱暴に開けるラギィ。
「座りな」
「おい!何の容疑で取り調べを受けるんだ?先ず尋問の理由から教えてもらおうしゃナイか!」
「聞こえなかった?座れと言ったのょ。座りなょ早く」
おやおやと言う顔で座るサム・アイ・アム。
「いい子ね。きっと女王様も褒めてくれるわ」
「何の話だ?」
「女王ベノム。レディ・アリナの"悶絶と苦痛の館"。アナタ、縛られて、お尻をひっぱたかれるコトが好きなのね?でも、もっと好きなのは脅迫?」
机にバサっと論文のコピーを投げるラギィ。
「何の話だかわからない!」
「ボンデージクラブに秘匿特権は無い。女王ベノムは、貴方が秘めてる"闇の欲望"を詳しく記録してた。マッチ棒を使った汚いプレイが好きだと言うコトまでね」
「ええっ」
外資系コンサルが"奴隷"に成り下がる瞬間←
「プレイを記録してたのか?」
「アンタが関係を逆転させたがってたコトもね。キャラメルの海に沈めルンでしょ?」
「た、ただのファンタジーだ!」
ファンタジー?
思いがけないexcuseに軽くのけぞったラギィだが、瞬時に立ち直りキャラメル塗れの遺体写真を叩きつける。強い性格だ。まぁ警部ナンだから当然だけどな笑。息を呑むサム。
「いいえ。ファンタジーじゃ物足りず現実にやってのけた」
「そんな…嘘だろ?」
「途中から、服従スルよりも、彼女を支配したくなるようになった。そして、究極の支配、殺人を犯したのょ!」
喘ぐサム・アイ・アム。
「私は、彼女が死んだコトも初耳だ」
「遺体は、貴方独特の脅迫の脅し文句と同じ状態で発見された。ソレでも否定出来るの?」
「誰かが…私の嗜好を読んだんだ」
なるほど。あり得るw
「一昨日の夜、サム・アイ・アム、いいえ、ウィム・キラウさん、貴方は何処にいましたか?」
「…妻と一緒にいました」
「うーんアリバイとしては弱いなー」
必死の訴え。
「結婚記念日でした!夫婦でプレイしてたンです。ビデオがあります!許してください、もうしません!ごめんなさい」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「奥さんに服従の証であるメイド服を着せて1晩中イジめ抜いてた画像がありました。デジタルコードの日付入りです。ウィム・キラウ氏はシロでした」
「でも、この遺体の演出は異常ょ。偶然はあり得ない。誰かが知ってたのよ」
「彼女が何処かで話したのかな?」
本部のモニターに、ジャングルジムに吊るされた遺体画像。この寒空の下にピンクのブラとパンティでキャラメル塗れ。
「論文は盗もうと思えば盗める。耐火金庫は要塞じゃない。論文を読んだ犯人が、捜査を撹乱しようとしてるのカモしれない」
「…じゃ選手交代ょ。ヲタッキーズの2人は、彼女が顧客の話をしたかクラブで確認して来て。私達は、大学に行って論文を盗めたかを調べるわ」
「ROG。やっとSMクラブにお出掛けょ!」
盛り上がるヲタッキーズ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「いいえ。女王ベノムは、顧客の話は絶対にしなかった。1度も聞いたコト無いわ」
ムチ使いの名手ボンデージのセーラー戦士軍団からゴージャスな金髪ストレートヘア。足を組む女王セーラービーナス。
「マジ?でも、噂話ぐらいはスルでしょ?」
「あのね。こういうトコロに長く勤めていると、どんな危ないプレイも日常茶飯事にナルの。だから、仲間内で噂話ナンかしない。例外は顧客が被る時だけ。でも、彼女とは全く被ってナイわ」
「ところで…」
足を組み直し、ブーツをエアリの鼻先に突き出すw
「ブーツの紐解いて」
「え?」
「貴女がマーキュリーで貴女がジュピターね?わかったわ。よろしくね。ほら、間違えないようにょ」
エアリが振り向くと、ボンデージ姿でぬぼーっと立ってる何か楽しそうな凹凸女王様コンビ。お笑いとかにいそうだな笑
「あら?結び目はどこ?」
「早く!」
「でも、結び目が…」
女王様の前に跪いたエアリがブーツの紐を解こうとすると、その肩を変身スティックでポンポンと叩くセーラー戦士w
「じゃあ顧客の性癖を別の顧客に話した可能性はある?」
「ありえない。レディ・アリナが絶対に許さない。ベノムもしっかり仕込まれていたハズ…何をグズグズしてるの?!」「ソレが…こんな結び目は初めて。芸術品ょ」
手こずるエアリの頬を変身スティックでピチャピチャ叩く。
「聞き込みをしながら愛のムチ?良いわね」
「マリレ!」
「ちょっと!未だょ!」
立ち上がりかけたエアリの肩に"女王様ブーツ"を載せて、ムチで叩いて再びエアリを易々と跪かせる女王ビーナス。
「エアリ、ジェカは顧客について誰にも話してナイわ。ただ1つわかったコトがアル。仕事を終えて殺されるまでの間、彼女は店を通さズ、仕事を受けてたらしいわ…あら、何?女王、えっと、金星だっけ?」
「あのね。ソレがリアルだったら、絶対トラブルになってる。だって、その客のコミッションの4割を、アリナから掠め取ったコトになる。アリナは、絶対に黙ってナイわ…ほらっ!」
「痛い!」
ピシャリとエアリの手の甲を叩く女王。
「ねぇ。アンタも手伝ってやって。この妖精、最低。ぶきっちょ過ぎるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバ工科大学。コラボルーム。
「貴方達、このルームでジェカの論文を見る機会もあったンじゃナイの?」
「なかったわ。だって、論文は隠してたモノ」
「じゃあジェカが論文を置いたママ、トイレに立つコトもなかった?」
ケリィは首を横に振る。
「そういうコトがあっても、私は興味がなかった。因みに、事件当日は私は家族といました」
「他にこの部屋に入れる人は?」
「後は清掃員ぐらい」
真面目そうな委員長タイプ。メガネを外せば大巨乳とかw
「君の鍵を貸したコトは?」
「ありません。先週1度だけタリィが使ったわ。彼がジェカの研究資料を読んだと思う?」
「2人は競争が激しい奨学金プログラムのライバル同士だ。1人は最終選考に残り、もう1人は消える…ありゃりゃ。ラギィ、タリィのエイズ関連の論文の企画書を見ろよ」
綱要代わりの企画書は数枚の写真入りだ。
「スクラブを着てるわ!」
「とゆーコトは、クラブに行ったのはタイラじゃない?」
「タリィだったンだわ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。スクラブ姿のタリィ。
「確かにケリーの鍵を借りたわ。だから?」
「で、全部見直してみた。コレは貴女のスマホから大学にかけた履歴ょ。貴女の契約した格安キャリアが捜査に"協力"してくれた」
「そんなモノが易々と?」
該当に黄色いマーカーが引かれたリスト。驚愕するタリィ。
「貴女の送信履歴ょ。ジェカに無言電話がかかってきた日時と一致する」
「かけたのは君だな。今さらファンタジーだなんて逝うなょ?」
「もちろん。ソレはジョークです」
ナイスな返しだ。A.I.T.にはスマート人材が多いなw
「彼女に会いにSMクラブに行ったのもジョークかしら?」
「彼女の後をつけてSMクラブの場所を知ったンだな?立派なストーカーだぞ!」
「そして、貴女は、奨学金をもらうのに邪魔だったジェカの弱みを、ついに握った」
ブルブル震え出すタリィ。
「私には、絶対的に奨学金が必要なの。だって、私の論文の方が、社会的に明らかに重要ょ。正直な話、奨学金を取られたくない。ジェカの論文が余りにフィクションじみてたから、確かめに行ったまでょ」
「つまり、彼女の資料を盗み、コピーし、後をつけてSMクラブを見つけた。聞けば聞くほど、どう考えても、君はクロだな」
「待って!」
場の流れを制するように両手を広げるタリィ。
「確かに彼女を脅したけど殺してナイ!彼女がベノムだと知った後"奨学金を辞退しろ。さもないと彼氏に正体をばらすぞ"と告げました」
「でも、言うコトを聞かなかった。だから、殺したのね?」
「いいえ。脅しは効いた。だから、ジェカは殺される前日に奨学金を辞退したんです」
え。
「それマジ?」
「YES。彼女は、学長への奨学金辞退のメールをBCCで私にも送った。だから、私には何の不満もナイ。ただ、私がコピーした資料を返せと言うから、彼女の奨学金辞退を確認した直後にシェアハウスに届けに行った」
「あらまあ」
意外と律儀な性格だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のラギィのデスク。サイドに僕が座っている。
「脅しが効いたからシロだなんて…」
「もともと、彼女には殺人の動機がなかったんだね」
「おかえり。ヲタッキーズ、SMカフェは楽しんだ?」
ヤレヤレ顔のヲタッキーズが帰って来る。
「エアリが不器用だというコトが良くわかったわ」
「だって…あんな紐、妖精には絶対無理よ」
「ジェカから、顧客の性癖についての話は漏れていない」
いつもと立場逆転でマリレが報告スル。
「ただし、彼女は殺害直前に店を通さずに客を取ってた。空白時間をソレに当ててたの。でも、通話記録や口座からは、その証拠は出なかったわ」
「で、タリィは?どーだったの?」
「シロだったわ」
後頭部で腕組みするラギィ。彼女のPCを覗くとメール画面で"奨学金を辞退します"の文字が見える。メールの転送。
「タリィの話は事実だった」
「なら、彼女がシェアハウスに届けた論文のコピーはどこに消えたんだろう」
「私達、シェアハウスで何か見落としてる。どこかに隠したのカモ。ソレかタリィがウソをついてるか」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シェアハウス。お上品なダニエが紅茶でおもてなし。
「論文のコピーだけど、何処かに落ちてない?」←
「まさか。見たら覚えてますから。大学に持っていったとか?」
「いやそれはない…確か君はテレパスだったょね」
彼女も"覚醒"したスーパーヒロインなのだ。
「でも。レベル7です。ソレに論文はテレパシー波を反射するホグワ製紙の特殊な羊皮紙で描かれてる。トレースは不可能でした…タリィが嘘をついてルンじゃナイですか?」
「その後、部屋で変わったコトはなかった?モノがなくなってるとか?」
「そう言われてみれば、おかしなコトがありました。食器洗い機に、口紅のついたワイングラスが入ってたの。ジェカの色ではないし、私の口紅でもなかった。後で手洗いしようと思って」
シンクからワイングラスを取り出すダニエ。
「どうぞ、ご覧になって」
「あらあら。テリィたん、この色。身に覚えは?」
「嫌な聞き方するなょ。僕が間違えるハズがない。コレは"女王の赤"だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。女王アリナが辣腕弁護士だったと聞き"苦手意識"が先に立つラギィ。確かに前回もボロクソにヤラれてるしw
ワイングラスのカラー画像を示すラギィ。
「あのね!唇のシワは指紋と同じで2つと同じモノはない。ジェカのシェアハウスから、こんなグラスが見つかったわ。貴女の唇と照合してみようかしら。ねぇギブアップするなら今ょ?」
「…ソレ、いつのかしら?」
「さ、最近よ」
マズい。早くも負け出すラギィw
「聞いたよカーサービスに」
加勢のハズが、僕まで声が上ずってるw
「事件の夜9時にジェカのシェアハウスの前で君を下ろしたとの証言がアル」
「ジェカと死ぬ直前に会ったのね。何があったの?」
「彼女の正体に気づいたんだろ?許可なく顧客を研究してたコトがバレたら、君の館は信用を無くし、店が潰れると思ったに違いない!」
追い詰めてるハズが、余裕たっぷりで微笑むアリナ。スーツ姿だが、僕の脳内で勝手に彼女はボンデージになってるしw
「貴女達こそ切羽詰まってない?余裕がなくて潰れそう。見ていて気の毒になるわ。警部さん、ブレイクしましょう。弁護士の立ち会いを求めます。それまでは、私は一切答えません」
お手上げだw
席を立つラギィと僕。バイバイと小さく手を振るアリナに見送られ、ドアを開けたママ取調室を出る。屈辱的な敗走感w
第4章 愛情という名の服従
こーゆー時は"潜り酒場"でミユリさんから萌え補給だ←
「テリィ様。アリナの取調べはどうでした?」
「ダメだった。弁護士を呼ぶってさ。ジェカのシェアハウスはどうだったのかな?」
「エアリ、どうなの?」
既にカウンター席には、ヲタッキーズのエアリ&マリレが控えてる。ミユリさんは彼女達の姐御、じゃなかった、上司w
ヲタッキーズは民間武装会社だ。一応、僕がCEO。
「姉様。アリナはジェカをシェアハウスで殺害し、死体を片付けたみたい。血痕も証拠もなかったけど、ジェカのベッドの周辺を漂白剤で磨いた跡があった。ベッドサイドテーブルの辺りがテカテカしてたの」
初めて聞く話だ。ミユリさんは唇に指を当てる。萌え。
「それで論文がなかったのかしら」
「でも、証拠が1つ残ってた。枕から唾液が検出されたの。きっと枕で窒息させたんだろうけど、乾いた唾液が検出されたわ。店の為なら何でもする気ょ。スーパーヒロイン殺しですら」
御屋敷のモニターから超天才ルイナの"リモート鑑識"だ。彼女は大統領補佐官だけど気まぐれで僕を手伝ってくれる。
元カノ連中の中では1番頭が良いので大助かりだ←
「ROG。テリィ様、突然ですが、大戸屋が牡蠣祭り中なので、今宵はダッジオーブンで蒸し牡蠣をお願いします。ハラペーニョソースで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜遅く。心ここにあらズで料理中の僕。
「どーですか、テリィ様。あら、イライラしてる?」
「すまないミユリさん。ちょっち捜査で何か見落としている気がしてさ」
「やっぱり?例えばハラペーニョの入れ過ぎとか?」
げ。大失敗だw
「テリィ様、唐辛子で常連を虐殺スルおつもり(良い案だと思いますw)?」
「あぁやっちまった!」
「ただいま。わぁ素敵にスパイシーな匂いね」
御帰宅したスピアが脳天気な歓声を上げる。カウンターから必死に首を横に振るミユリさん。直ちに言葉を継ぐスピア。
「でも、食べて来ちゃった…」
「そう?ソレは残念だったわね!」←
「スピア、チアリーディングの練習じゃなかったのか?」
見るとチアのコスもしてナイw
「ヤメたわ。フェンシングやバイオリンの練習もあるし。フランス語ともスケジュールが被っちゃうから無理ポ」
「そ、そーなのか」
「チアリーダーって、ライフスタイルだと思うの。時々見るのは楽しいけど、ソレに染まるのは御免だわ」
僕は、密かにミユリさんと視線を交わす。
「スピア。だから、逝ったでしょ?」
「今宵は、みんなが意味あるコトを学んだね。僕は、もっと視野を広げて成長する良い機会を得た。スピアは…今後はミニスカとヲタク野郎とは余り関わるべきじゃナイって"周囲"が思ってるコトを学んだ」
「わかったわ、テリィたん」
何と聞き分けの良い!サスガは僕の元カノ会の会長←
「じゃ後片付けタイムだ。ミユリさん、ハラペーニョを入れ過ぎた。口の中の消火には消防ホースが必要だょ」
「ディナーの後片付けは、お任せします」
「後片付け?」
その瞬間、同時に閃く僕とミユリさん。
「さっき、ルイナは枕本体に唾液がついてたと教えてくれたょね?つまり、僕達が現場に到着した時、枕カバーに唾液はついてなかった。だから、現場の鑑識が見落としたンだけど…となると、誰かが警察が来る前に枕カバーだけ洗ったワケだ」
「テリィ様。洗濯と乾燥には1時間はかかります。どーやら、ラギィが苦手な(そしてテリィ様を谷間で誘惑する)アリナは(残念ながらw)シロのようですね」
「だね(良かった←)。その頃、シェアハウスにいたのは…うーん後片付けが出来た可能性がアルのは、どーやら1人だけだょミユリさん」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「えっ?!つまり、どーゆーコトですか?犯人は逮捕したんですょね、ムーンライトセレナーダー?」
「万世橋は、そう考えてる。でも、どーやら違ったみたい…あ、私の脳内思考は読めないから。ATフィールド全開で」←
「…彼女じゃないなら、じゃあ誰がジェカを殺したの?」
「貴女ょダニエ」
悲しげに告げるムーンライトセレナーダー。
「私?なぜ私が親友を殺すの?」
「ジェカは論文で、人間関係の崩壊について触れている。離れるのが怖い。共依存してる相手から離れられズにいると」
「最初はタイラのコトだと思ったの。でも、違うわね?」
パニックになるダニエ。
「何の話かサッパリ解らないわ!」
「タリィが持って来たジェカの論文には、貴女を傷つける内容が描かれていた。さぞかし、傷ついたでしょうね」
「私は親友だった!私を傷つけるなんて、あり得ない!」
突然大声で叫ぶ。僕は論文の1節を読む。
「君のコトだけど"研究対象Bはマゾヒスト。相手に依存し自我を保つ"とアル。遺体の演出も論文に合わせたね?」
「そんな論文読んでません。シェアハウスに論文は見つからなかったでしょ?!」
もはや半狂乱のダニエ。
「ソレは君が処分したからだ」
「違う!」
「君にしか無理だ。殺害後、後片付けが出来たのは君だけ。
乱雑なオフィスからして、ジェカは漂白剤で床を磨くタイプじゃない。彼女に言われたンだろ?貴女を置いて出て逝くと」
泣き崩れるダニエ。
「あの子。あの子が私の全てだった。実の姉妹だと思ってた。なのに、論文にあんなヒドいコトを描くなんて。そんな権利ないのに!」
「あの晩、何があったの?」
「ムーンライトセレナーダー、いきなりココを出て行くって言われたの!私にはもうコリゴリ、絶交だって!ちょっと推したら、あの子は倒れて頭をテーブルにぶつけた。そしたら彼女は叫んだわ、大嫌いって…私は、黙れって言ったの。ただ、黙って欲しかっただけ。ホントに、それだけ…」
完落ちだ。
「ソレで枕を押し付け、彼女を黙らせ窒息させたのね?」
「YES、ムーンライトセレナーダー。でも、殺す気はなかった。ただ、そばにいて欲しかっただけ…」
「来て。ダニエ」
両手を大きく広げるムーンライトセレナーダー。
僕は"SF作家"と描かれたギアを脱ぐ。心の底から残念に思っているコトをテレパスの彼女にも知ってもらいたくて。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜の早いアキバの街を睥睨スル"秋葉原マンハッタン"。
捜査本部のラギィのデスクの周りに、僕達は集まってる。
「僕の予想通り、テレパスの激情に駆られた犯行だった」←
「ええっ。じゃ革の手枷もキャラメルもタダの演出だったってコト?捜査の目をくらますための?」
「YES。しかし、おかしな話さ。タリィが論文を盗まなければ、そして、ダニエがコピーを盗み見しなければ、こんな事件は起きなかったんだ」
苦手なアリナと会わズに済みそうでニコニコしてるラギィw
「タリィは、コレで奨学金はおろか学位も取れないわ。ところで、アリナは何をしにシェアハウスへ行ったのかしら」
「ジェカに店を通さズ客を取るなと警告しに逝ったんでしょう。まぁメイドカフェでも店外交友は日常茶飯事だけど、取り締まるワケにも逝かズ、メイド長としては頭が痛いトコロょ」
「で、ワインを飲んで説教して帰ったと?運が悪いな」
ミユリさんの解答に付言スル僕。ラギィは食い下がる。
「でも、なぜソレを警察に隠す必要がアルの?」
「だって、弁護士だから」
「いや、女王様だからだろ?」
ミユリさんと2人がかりで答える。
ところで、驚きはココからだょw
真っ赤なウィンドブレーカーのイケメンが、ローラースケートしながら、捜査本部に侵入!グルグルと走り回るw
「ジェル、やっと来れたの?」
笑顔でマリレに応え、2人はキス!たじろぐエアリ。茫然とスル僕達。ガタンと音を立てデスクから立ち上がるラギィ。
「みんな紹介スルわ。店外交友中のジェルょ」
「Hi。みなさん」
「ようこそ。素敵な噂をいっぱい聞いてるわ」
満面の笑みで握手するミユリさん。
「僕も、みなさんとは初対面とは思えません。ラギィ警部、雑誌で見るより遥かに美人だ。テリィたん、貴方の"(宇宙)船コレ版 宇宙戦艦ヤマ子"、読みました。読み始めたら面白くて、もう止まらなかった。そして、エアリ。貴女は最高の相棒。これからもマリレを守ってください。僕の分まで」
「…ROG」
百戦錬磨の妖精が絶句してる。ソレはソレで見ものだw
「ミユリ姉様。コレから3D映画を見に行きます。また明日で良いですか」
「ROG。楽しんで来てね」
「行って来まーす」
2人は手をつなぎ出て行く。ローラースケートでw
「良いなー。あんな彼氏を尻に敷いてみたいわ」
「今まで大事に隠してたワケね」
「私達がバカやるのを恐れてたのかしら」
女子達は凍りついた笑顔のママ、ボソボソ語り合う。
「で、ラギィの"妄想彼氏"はいつ連れてくる?未だ女王様のベッドに縛りつけられたママか?」
「あら、テリィたん。どーしたの?ヤキモチ?」
「ナゼにヤキモチ?僕は、毎日ミユリさんを推すのに全力投球さ。ま、ラギィから事件の度に叱られてばかりだけどさ」
ミユリさんをチラ見←
「でしょうね。どーせテリィたんはミユリ姉様推しだモノ」
「おや?トゲがアルな。何だょ今まで僕が何かしたか?」
「何かした?あのね、先ず、私が未だ"新橋鮫"と呼ばれてた頃に…」
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"SM"をテーマに、リサーチに明け暮れる女王様、恋人の研修医、ルームメイトの親友、元弁護士のSMクラブの経営者、愉快な女王様達、奨学金を争うライバル達、指導教授、殺人犯を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズに敏腕警部などが登場しました。
さらに、常連ハッカーのチアガール騒動、SM愛好家達の奇妙な世界観などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、円安をエンジョイするインバウンドで溢れる秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。