3.まずはこの物語の世界を整理するわよ!
まずは、私が転生した物語「悪役令嬢は死ぬ事を恐れない」のストーリーについて整理しよう。
この話は簡単に言うと、現代の人間が異世界の悪役令嬢に転生し、死亡と言うバッドエンドを踏まないで生き抜くストーリーだ。
読者からすると悪役令嬢が主人公だが、本来の物語の主人公はクリスタと言う、この国一と言われる絶世の美女なのだ。
彼女は周りにいる男達から溺愛されるハーレム設定で、その中にこれから結婚する相手レオナルドも含まれる…。
だけど、クリスタは誰と結ばれるのか、転生したクロエはどうやってバッドエンドを踏まずに生き抜くのかが全くわからない。
何故なら、このストーリーは完結されていないのだ。
読者だった私もお決まりなストーリーだと理解はしていたけど、クロエの不遇なターンをいつまでも見せられてかなりイライラしていた。
さあ、次は登場人物とこの世界について。
この国は昔から、度重なる侵略戦争の危機に遭っていた。
だが3人の家来が、侵略から王を守りぬいた。
先代の王は、この3人の家来達に各領土の総督として置き、王都を守らせ続けた。
北部はフランドル家、王都及び中心地をルミナス家、そして南部は私の父が総督であるガーランド家。現在も長い平和を維持している。
歴代のフランドル家、ルミナス家、ガーランド家は大変仲が良かったのだが、ある事件が切掛で犬猿の仲になってしまった。
その事件の話しの前に、各一族の家族構成を書き出してみる。
・フランドル家
当主 ジャック・フランドル
妻 エレナ
長男 ジョン
次男 レオナルド
三男 ヨナス
∟10代で聖職者になったと言われているが、フランドル家で彼の名を出すのは何故か御法度。
長女 ミア
∟3才で死去。病死と公表している
・ルミナス家
当主 アレン・ルミナス
妻 エリス
∟クリスタが10歳の時に夫妻は毒殺される。犯人は使用人で動機は不明のまま処刑された。
長女 クリスタ
∟ アレン・ルミナスと親友だったジャック・フランドルが孤児になったクリスタを引き取る。我が娘としクリスタ・フランドルと名乗らせている。
・ガーランド家
当主 マリオ・ガーランド
妻 アリア
∟クロエ出産後、大量出血で死亡
長男 アンドレア
長女 クロエ
・王家
国王 ウィリアム・アラーク
王妃 メラニー
王女 マリー
王子 クラウス
∟ウィリアム王の子はマリーとクラウスのみ。クラウスは側室の子であるため、王妃は是が非でも我が娘を継承権1位にさせたいと目論む。
私が覚えている限りではこんな感じ。
何故かフランドル家の三男ヨナスだけは、ストーリーにも登場していなかった。これは歴代クロエ達の記憶で書いている。
ある事件の話に戻すと、それはクリスタの両親が殺された事ね。ここは私が生前にストーリーの真相を読んだ。
全ては、クロエの父マリオが企てた事。
三家の中で娘はクロエとクリスタだけ。マリオは娘のクロエが成長したら、クラウス王子と結婚させるつもりでいた。
だが、幼いクリスタは既に誰よりも美しかった。
マリオは、王子がクリスタを選ぶのは時間の問題だと悟る。このままではいけないと、クリスタの暗殺を考えた。
暗殺を請け負った使用人は、手違いで両親に毒を盛ってしまう。
クリスタは、父アレンと親友だったジャック・フランドルに引き取られた事で、王はルミナス家の総督する領地をフランドル家に託した。
これにより、三家の均等が崩れる。
フランドル家が富と権力が増加し、王家と1番近い存在になり、ガーランド家はフランドル家を敵対視する。
フランドル家としては、権力を高めたいと言う野心は殆ど無く、ただ親友の子を守りたいと言う純粋な想いがあった。
しかし、王家は王女を王位継承1位にした事で、花婿候補をガーランド家、フランドル家から出す事になる。
ガーランド家は娘クロエを次男と結婚するように迫る。花婿候補を減らしたい目論みだとはフランドル家は理解しているが、これ以上のわだかまりを避けたい意志でこの提案を受け入れる。
だが、ガーランド家の真の狙いはクロエに長男ジョンとクリスタを毒殺させる事だった…。クリスタには脅威は無いが、暗殺する事でルミナス家の領地を半分は奪いたい目論み。
うーん、恋愛ファンタジー世界の設定なのに重苦しいわね…。
これを前提に、私の立ち回りを考えなければ。
まだ試していない沢山の回避パターンを夜通し考えた。
でも、何かが引っ掛かる。
これまでのクロエ達は、全員違う立ち回りでバッドエンドと言う死を迎えている。
これは私の推理だが、この世界はストーリーを変えられる『原作者』がいるのでは?
または、乙女ゲーのアレみたいにパラメーターをある程度上げていかないとハッピーエンドにならない?
いや、前者なような気がする。だって、クリスタを奪い合う男達は皆んなクリスタに操を立てている。うん、勿論クリスタは処女、男はDT(童貞)君たちだ…。作中の男女の絡みも物足りなさを感じている。わざとそう言う演出なのかと思っていたが、作者は若い子?恋愛経験あんまり無いのかな?
私が三十路の大人女子だからそう思うのか…自分もそれほど付き合った人数も少ないけど。
いやいや、そこじゃなくて。
私が懸念しているのは、原作者の匙加減でストーリーがどうにでもなってしまうのではないのか?
この世界に魔法は無いが、いきなり空から槍が降ってくるかもしれない、イケメンが正義のヒーローの様に飛んで来るかもわからない。
お願いだから、魔法はこの世界では無い物にして下さい。
「あぁ、魔法はチートすぎるでしょ」
クロエの聞き取れない呟きにあからさまな嫌悪で父マリオが怒鳴る。
「おい!馬鹿娘!!話を聞いていたのか?!」
そうだ、ここは馬車の中。
行き先はフランドル家、数日後にはそこで結婚式を挙げる。
「ええ、勿論聞いておりました。お父様」
うるせーな、髭オヤジ!こっちはそれどころじゃ無い。
馬車の中で終始、父親は説教をしていた。適当に聞き逃していたので内容なんてわからない。
こんなうんざりする空間とわかっていたのか、兄アンドレアは1人別の馬車に乗っていた。
窓からフランドル家の敷地に入ったのを見て
「お父様、到着致しましたわよ」
馬車がゆっくりと止まった。
先に父が馬車を降りたので、クロエはその背中に言った。
「お父様、わたくしなりに計画を遂行致しますのでご安心ください。は〜、もうこれ以上鬱陶しいお説教を聞かなくて良いと思うとほーんとに清正いたしますわね。」
生意気な口調のクロエに対して殴りかかろうとする父。
更に追討ちで悪女が嘲笑うかのように煽った。
「お父様、フランドル家の見ている前で殴るんですか?え〜?結婚式を迎える花嫁の顔を?」
マリオの手はクロエの高価なネックレスを引きちぎっていた。
「お父様、ガーランド家に恥を欠かせないで下さいね。いつも言われている通り私の取り柄はこの身体と顔なんですから。」
振り上げた拳がわなわなと震えている。
ゆっくりと腕を降ろしたのを見ると、クロエはつまらない顔だ。
父を無視し、散らばった宝石を踏みつけ屋敷に向かった。
まだ当主も夫のレオナルドの姿は無いけれど、フランドル家の使用人達の前で殴られても良かった。
ガーランド家の男達は攻略対象では無い、復讐対象よ。
私が他の男達に斬首させられた様に、いつかお前達の首をはねてやる。
自分の手じゃ出来ないけど…意気込みは大事よね!