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転生悪役令嬢は全オスを攻略対象にする。そこの雄犬、お前もだっ!!  作者: 村井田ユージ
第一章:短編

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殺戮のクロエ 1

※残酷な描写がございます。ご注意ください。※


《参考話数:10、11話》


 過去の記憶を頼りにすれば、何人ものクロエは悲惨な死を遂げた。

 この世界に飛ばされ過去を知り絶望し、その場で自害する者もいれば、私の様に死を迎えるストーリーに立ち向かわないで、逃げると言う選択肢を選ぶクロエも少なからずいた。

だが、そのクロエ達も誰1人と生きのびた事は無かった。


 それでも私はこのストーリーから降りる選択肢をした。何人かはこの家を抜け出しある程度まで生き延びた記憶がある。私もこの世界の住人として新しい人生を歩みたい。多くは望まない、ただ生きていたいのだ。絶対に悲惨な死を迎えるなんて嫌だ。


 屋敷に隠された金庫、鍵の場所、使用人達が寝静まる時間、全て把握している。過去のクロエの記憶から屋敷の金を持ち出すのは簡単だった。

 一度、盗みがバレたクロエは父親から両手首を切断させられ出血死をしている。なんて悍ましいのだろう…。実の子にそんな事が出来るなんて。

 私は慎重に手早く持てるだけの金を鞄につめて、誰にも見つからずにひたすら遠くに逃げる事が出来た。

 赤く長い美しい髪は切り捨てた。

 盗んだ侍女の私服を着て一般人になりすまし、ガーランド家の人間に見つからない離れた地に移動した…。

 ガーランド家領地から遠く離れたこの地で小さな家付きの農地を買った。家と言うよりは小屋に近く、雨風は凌げるが冬は寒くて眠れない。

 それでも、生きていけるのなら問題はない。過去の煌びやかで何不自由の無い貴族の暮らしを羨ましいとも思わなかった。

 この平穏な日々を過ごせるだけ良かった…なのに私は欲を出した。

 何も望んではいけないのに…。


 ただ、後悔するなら、私は彼と出会わなければ良かった。

 彼とはこの村の農家の青年で、両親は既に他界し足の不自由な祖母と暮らしていた。私の家の荒れた畑を見かねて農作物の作り方を教えてくれた。私はお礼に彼の家の手伝いをした。少しづつお互い惹かれ合い、恋に落ちた。

 これは原作者の仕業だったのか…今はもうわからないが、私たちは互いに深く愛し合っていたのは事実だ。

 彼の祖母が持病で亡くなった後に私たちは結婚し、その翌年には彼の子を身籠っていた。望まなかった幸せが押し寄せている…。これでハッピーエンドを手に入れたと確信した。

 もう死を恐れる事は無い。恐れる事は何一つ無い。

 彼とこれから会える我が子との3人で幸せに、確実にこの世界を生きて行ける。


 ※※


「クロエ、寒くはない?…もう少し外の薪を持ってくるよ」

 クロエの夫は暖炉の弱まった火で温まる妻に心配した。

「もう夜だし、外に出たら冷えてしまうわよ。私は大丈夫」

 互いを気にかけたが、夫は出産が近い妻の身体が心配でたまらない。

「すぐに戻るね」

 クロエの額に優しくキスをして外に出た。


 暫くすると外から焦げた臭いがした。

 一瞬で不安が全身を駆け巡った。夫が心配になり慌てて外に出た。

 目の前には炎に包まれた牛小屋。

 牛は小屋から逃げれず悲痛な鳴き声をあげていた。更には、荒らさた畑に油を撒かれたのか不自然に燃え上がっている。一体何が起きているのかわからずに、体が怖ばる。


「クロエ!!逃げろ!!!」


 夫の叫び声で我に返ると、声の方を向くと夫は地面に突っ伏すように複数人の男達に取り押さえられ拘束されていた。

「馬鹿な娘。やっと見つけたぞ」

 この声を聞いた刹那クロエは絶望に突き落とされる…。

「……お父さま」

 目の前にはマリオ・ガーランド。複数人の男たちはその従者達だった。

 あまりの恐怖にクロエは震えだした。

「暫く会わないうちに見すぼらしくなったな。すれ違っても誰だかわからん。それに何だそのでかい腹は?」


 父と従者達の笑い声。

 夫の叫び、鳴き叫ぶ家畜たちの声。

 燃えあがる火の粉…。気づけば火は自分達の家に放たれた。

 ここは地獄?それとも夢か?

 この悲惨な状況の中でマリオ・ガーランドは冷たく言い放つ。


「取り押さえろ。目の前でそいつを焼いてやれ」


 咄嗟にクロエは夫に駆け寄るが、すぐさま従者に取り押さえられた。

「お父さま!やめて!!お願い!!いや!嫌だっ!!!」

 気が狂れたのか暴れるクロエに対し、従者は彼女の顔面を拳で殴って黙らせる。殴られた衝撃で頭が朦朧とする。

 夫は、鼻から血を流し視点が定まらないクロエの顔を見て泣き叫ぶ。

 彼は拘束され抵抗も出来ないまま、頭から液体を掛けられた。

 従者はクロエの髪を掴み、良く見ておけと言うかの様に夫と向かい合わせにさせた。もう十分に彼の絶望した顔を脳裏に焼き付けている。

 夫の全身が炎で包まれた。愛する夫が生きたまま焼かれている。

 これが断末魔と言うのか?

 のたうちまわり、最後の叫びを上げて彼の体は黒くなり表情さえもわからない。炎に包まれ塊に姿を変える。

 クロエは泣き叫び、最後までその光景を見させられた。

 この一部始終を従者達は笑いなが見届けている。

 これは夢では無い、まるで地獄の様な光景だった。



 いつから私は彼の名前を思出せないのだろう?

 共に過ごした時間、

 確かに私たちは名前で呼び合っていた。

 それに、いつも2人で子供の名前を考えていた。

 男の子の名前はあなたが決めて、

 女の子の名前は私が決めていた…

 ごめんなさい。

 あなたの名前や私たちの子供の名前も思い出せない。

 愛してる。今もあなたを心から愛しているのに

 だんだんとあなたの顔も思い出せないの…

 大切な思い出が、記憶が、消されてしまう…

 ごめんなさい。

 私と出会わなければ…。

 あなたも、この子も不幸にならなかった。



 愛する夫の面影はもう無い。無惨な亡骸の前に、声を振り絞り最後の命乞いをする。

「…お腹の子はガーランド家の血筋を継ぎます。どうか、命だけはお助けください…」

 父は嘲笑い冷酷に言い放つ。

「薄汚い平民の血が混ざった子がガーランド家の人間だと?笑わすな!仮に産み落としたとしても豚の餌にしてやる。ロープをその女の足に巻け私の馬車に括りつけろ。引いて家まで帰る。」

 この言葉にクロエの精神は完全に崩壊した。

「ああああああ!!!!呪われろ!殺してやる!お前ら全員殺してやる!!」

 真夜中の冬の夜空に、彼女の怒りの叫びが響き渡った。

 悪魔の様な父親に詰め寄る事も出来ず、従者は言われた通りクロエの足にロープを巻きつけた。

 暴れるクロエに従者は腹狙い蹴り上げた。

 次の瞬間に彼女は嘔吐し、強烈な腹痛に襲われた。足の間から暖かい何かが垂れてきた。それは鮮明な血だ。

 (私の赤ちゃんが死ぬ…死んでしまう…)

 彼女の視界は真っ赤に染まり、自分の心臓の音だけが爆音の様に聞こえる。

 彼女はもう正気を失い、呪文の様に呟いていた。

「殺されろ…殺されろ…」


 そして、父親が乗る馬車が無情にも走り出す。

 クロエは生きたまま引きずられた。辛い事にすぐには死ぬ事が出来ず、数キロを走った後に苦しみ果て彼女は生き絶えた。

 クロエの死後もお腹の子は瀕死だったが、誰も生きているとは知る由もなく、母を追う様に儚い小さな命が消えた。

 ガーランド家の領地まで馬車で1週間はかかる距離だが、マリオ・ガーランドは死んだ娘を3日間そのまま引きずり移動した。死体の損傷が激しく、腐敗も進み見るに耐えなくなった事で、移動中にロープを切り落としそのままクロエの死体を捨てたのだ。

 これが「もう1人のクロエ」のお話しの終幕だった。



 奴らは人間では無い。人のカタチをした悪魔だ。

 こいつらを作り上げた この世界の原作者も赦さない。

 クロエお願い。

 全部殺して、この世界を全部壊して。





 ※ ※



「えぇ、わかったわ。クロエ、私が全部殺してあげる。」



 次なるクロエに、前任者は全ての記憶を鮮明に渡した。

 あの惨劇が彼女をあれ程までに突き動かしたのかは不明だ。

 ただ、今回のクロエは他のクロエ達とは何かが違う。

 転生したクロエはその日、入念にある計画を企てる。そして3日後、その計画は実行される。



 ガーランド家の屋敷が燃えている。

 人々が寝静まる真夜中に、領地に住む村人達が気づいた。だが、既に炎は屋敷の全てを覆っていた。陽が昇る頃に消化は終わったが、ほぼ屋敷は全焼していた。焼け跡から次々と遺体が見つかる。死体は全て、ガーランド家の仕える人々では無いか?更には当主様、御子息も見当たらない。事態の深刻さに気づき、急ぎ王都の人間に伝える。

 2日後、王宮から調査団が派遣されガーランドの領地に到着した頃には全ての遺体が見つかった。 

 遺体は人の形をした塊で性別も判断ができない。その中に宝石を身につけてた遺体は体格も小柄なのでクロエ嬢だと判断した。

 そして当主のマリオ・ガーランドと息子のアンドレアの遺体も発見された。発見現場は屋敷の隠し通路を出た森の近くから、切断された頭だけが転がっていたのだ。2人の遺体は焼け跡も無く、焼死体と比べ発見した誰もが判別がし易かったのだが…。

 事件性が高いと判断した近隣の貴族や聖職者達は2人の首を発見したままの状態で教会に保管した。

 教会に到着した調査団を神父は青ざめた顔で奥の部屋へと案内する

「…これは、悪魔の仕業です。」




 ※※


 王都に戻った調査団の報告では、息子のアンドレアは何者かに斬首されその頭には的当てにしたかの様に多数の弓矢が突き刺さっていた。眼球がくり抜かれており損傷があるため認識し難いが本人だと断定した。

 ガーランド家当主のマリオ・ガーランドも息子と同じく斬首された首が近くで発見される。マリオの口には10本以上の切断された人間の指が押し込まれていた。指を取り出した後、喉の奥に人間の眼球が二つ押し込まれていた。苦しみの表情からは、この眼球で窒息したのか?口に指を入れた後に斬首されたのではないだろうか?いろんな恐ろしい憶測を想像する者が後を経たなかった。

 ガーランド領地の聖職者は呪いや悪魔の仕業だと主張しているが、憎悪が滲み出る一連の犯行は怨恨からによるものとし、依然犯人の行方を調査中。領地の人間には被害が全く無い事から他国からの侵略の疑いは無いと報告した。


 この報告はフランドル家にも伝わった。仮にも次男のレオナルドとクロエの結婚が予定されていたのだ。ガーランド家に起こった惨劇はショックではあるが、何かと悩みの種だった一族が消滅したのだ。

 当主のジャック・フランドルは表情には出さないが少しばかり安堵した。

 長男のジョンはあからさまに嬉しそうに

「厄介な奴らが消えて清々するな。レオ、悪女と名高いあの女と結婚しなくて済んで良かったな。祝杯として美味いワインでも開けるか?」

「兄さん!不謹慎なことを言うな」

 常識に欠ける言葉にレオナルドは怒った。

「そうよ、ジョン良く無い発言よ。私はガーランド家を襲った犯人がまだ捕まっていないし、もし私たちも標的にするのでは無いかと思うと…恐ろしいわ」

 クリスタは美しい青い瞳を潤ませ、怯えた様子だった。彼女を溺愛しているジョンは

「すまないクリスタ。しかしお前が怯える事は無いよ。万が一の為に我が家の警備を増やそう。」

 彼の一声でその日からフランドル家の警備を増やし、明日から具体的に警備の強化を考える事でクリスタは安堵した。


 その日の夜、レオナルドは得体の知れない不安で眠れずにいた。

 多分、ガーランド家の惨劇を考えるとクリスタの言う通り、我が家も狙われるのでは無いかと不安を覚えた。

 テーブルに置かれた水差しの水を一口飲み、もう一度ベットに入る。

 すると不思議な事に体の力が抜けるような感覚になり、このままゆっくり眠れそうだと感じた。


 ギシッっとベットが軋む音と人の気配を感じ、レオナルドは目を開ける。

 目の前には見覚えのある女性が映る。名前も思い出せない女が何故自分のベットに入り込んでいるのかと驚き、押し除けようとするが身体の力が入らない。

(…身体が動かせない)

 レオナルドはどっと嫌な汗が滲む。

「誰だお前は?!」

「初めましてでは無いのですが…私は初めましてなので挨拶しますね。初めまして、私の旦那さま。あなたの可愛い花嫁クロエです♪」

「クロエ?…あ、貴方は、火事で死亡したと…」

 クロエはレオナルドの額の汗を拭って、優しく頭を撫でた。

「大丈夫よ。驚かないで、見ての通り私はまだ生きているわ。今のところは全て上手く進んでるの。」

 この状況で驚かない人間なんて居ない。彼女は普通では無いと悟るが、手に持つ血まみれのナイフを見て恐ろしさがレオナルドの全身を襲った。

「旦那さまだから特別に教えてあげる。全部私がやったの凄いでしょ〜。幼稚な原作者はマンガみたいな毒薬を作るのよ。私をいろんな方法で殺すために馬鹿みたな道具や劇薬なんて作ってるんだから!ま、ぜ〜んぶ私が活用させて頂きました♪」

 全く何を話しているのか理解が出来ない。それでもクロエは楽しそうに話す。

「あなたの親と兄を殺してきたけど、見て!死なないの!って事は『神』は居ないって事ね。やっぱりこの世界の犯人はあの女ってことかな?」

「え、ちょっと待ってくれ殺したって?誰を?!」

 錯乱するレオナルド。声を張り上げた瞬間、ドスンと顔に重い衝撃を感じ、次に声が出なくなった。

(…息が出来ない)

 彼の口の中を目掛けてクロエはナイフが突き刺した。

 レオナルドは何故だか痛みを感じる事が出来ない。溢れ出る自分の血で溺れている…。

「痛みを感じ無いけど、呼吸が出来ないと苦しいよね?これ凄いよね。一滴でこの効果!私はこれで身体をバラバラにされた事もあるよ。」

(彼女は一体何を言っているのだろう、本当に兄たちが殺されたのならクリスタは?クリスタは無事だろか…)

 次第に意識が遠のくレオナルド。口から吹き出す血でベットまで赤く染まっている。

「あ!そう言えば弟いるよね?家に居ないけど何処にいるか教えて?……ってもう喋れないし死んじゃうか。」

 自分の死を受け入れるよりも、クリスタを心配するレオナルド。

(愛する彼女がどうか無事でありますように。

 この悪魔のような女からどうか彼女をお守り下さい。)


「馬鹿な男。私の名前くらい言えたら助けてあげても良かったのに。」

 クロエは少し淋しそうにしながらも、次なる標的であるクリスタの部屋に向かう。

 レオナルドの部屋から出ようとしたその瞬間、心臓を握られるような衝撃の痛みを全身に感じた。

「…がッ…」

 その場でバタンと倒れ込むクロエ。彼女は心臓発作を起こし苦しむ時間も与えずに死んだ。

 まるで強制退場させる為に心臓を握り潰され、あっけなく死んだのだ。

 これが「もう1人のクロエ」のお話しの終幕だった。

 そして、また次なるクロエが再び新たなストーリーを紡ぐのだ。



 私はこの世界の秘密に気づいた。

 この世界には原作者がいる。

 神のような力は無いが、

 ある程度の「影響」を反映する事が出来る。

 だから、原作者を殺すのは慎重に行わなければならない。

 なのに何故?どうして気づかれた?

 クロエ、私は異常者だが何度でも「私の記憶」を辿れ。

 見落としている事が必ずあるはずだ。

 この狂った世界から私たちを解放するんだ。

 必ず犯人を殺せ。全部壊せ!


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