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転生悪役令嬢は全オスを攻略対象にする。そこの雄犬、お前もだっ!!  作者: 村井田ユージ
第一章:短編

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キャンディーの後悔

《参考話数:4、9、14話》


 美奈子の飼い犬キャンディーは、事故に遭い美奈子の父と共に死んだ。

 だが、目が覚めるとキャンディーは狼に転生していた。見たことのない世界で彼は狼として順応し生きていた。

 でも、美奈子を思い出すと、どうしようもなく寂しくなる。そんな時は月に向かい遠吠えをした。




 草原のような広い庭を思う存分駆け巡る。犬の時はこんな広い場所を走った事が無かった。

 今まで感じた事のない力、狼は身体や能力がこんなにも凄いのだと改めて感激していた。


「リアム!戻れ!」


 ジョン・フランドルが遠くで呼ぶ。


(僕はキャンディーなんだけどなぁ…まぁ、いいか)

 

 リアムとして生きてはいるが、いつかまたどこかで美奈子に会いたい。またあなたに「キャンディー」と呼ばれたい。いつだって、月に向かい願っている。

 

(今のご主人様も優しい人。大好きだ。)


 キャンディーは風のように走って、ジョンの元へ戻った。


「リアム、あの女の首を噛みきれ」


(またご主人様は悪い人を退治させるのかぁ。今日はどんな人かな…)


 ジョンが指差す方を見ると、赤い髪の女が家に向かって歩いていた。

 その女を目掛けてまた猛スピードで走り出す。


 赤毛の女はまだ自分に気づかない。

 だんだんと距離が縮まると、キャンディーは不思議な気持ちになった。

 

(この人の匂いは甘くて懐かしい。何これ?嬉しくて、ドキドキして、ふわふわな気持ちだ!)


 赤毛の女は振り向いた。

 目が合うと、その女の瞳は赤い宝石のようにキラキラしていた。

 ぽつりと彼女の口から「キャンディー」と聞こえた。


(美奈子ちゃん!!ああ、この子は、美奈子ちゃんだっ!!)


 ずっと、あなたに「キャンディー」と呼ばれたかった。

 嬉しさで自分が狼である事を忘れ、美奈子に飛びついた。


(神様!ありがとう!!美奈子ちゃんに会えた!!願いが叶ったんだ!!)


 ベロベロと夢中で美奈子の顔を舐め回す。

 慌てて次男のレオナルドが引き剥がすが、キャンディーはずっと興奮が止まらなかった。



※※


 

 美奈子はクロエ・ガーランドとして転生していた。

 彼女はまだ狼がキャンディーだとは気づいていない。

 どうしたら自分がキャンディーだとわかってくれるのか?人間のように言葉が話せたら良いのにと思った。


 キャンディーは常にクロエの側に居た。

 初日の大失態でクロエに傷を付けた事を猛反省している。

 だけど、フランドル家の人間がクロエに()()()()()のがとても心配だった。

 

 どうしてお医者さんは来ないの?

 美奈子ちゃんの晩ごはんは?

 なぜご主人様は美奈子ちゃんを殺せと命令するの?


 涙は流さないが、悲しんでいる美奈子に寄り添うことしか出来ない。

 自分も人間のように話せて、いつも優しい手で撫でてくれたように自分も出来ないものかと想っていた。


※※※


 一日のほとんどはキャンディーとして美奈子の側にいるが、何度かはリアムとしてジョンにも寄り添っていた。

 でも主人のジョンは、クロエの側にいる事が気に食わないようだ。

 何度か物を投げられた、それでも恐る恐るジョンに近づき、彼に頭を擦り付けた。


「お前も所詮は雄犬だな。あんな糞女に尻尾振りやがって。」


 美奈子の悪口を言うのは、ご主人様だろうと許さない。

 嫌な気持ちになるキャンディーだが、彼も孤独な人間だ。美奈子の父に少し似ていて色々な問題を抱えている…。

 いつも側に居た従者のダンテは、美奈子の騎士になり側から離れない。

 ジョンはまた独りなっている。

 キャンディーは、彼から完全に離れる事は出来なかった。



※※※※


「ダンテ!早く来てよー今日もみっちり練習やるわよ!」

 

 彼女たちが使う剣術の練習場で、クロエはいち早く自分の剣を持ちダンテを呼ぶ。

 キャンディーは美奈子達の邪魔にならない位置で見守っている。


「お嬢、さっきのは何だよ?一体アンタは何考えてンだよっ!」


 思い悩んでいるような、顔色を悪くしたダンテが叫ぶ。

 何か揉めているのか、ダンテがクロエを傷つけるような事があればすぐにでも狼は噛み殺す用意が出来ている。


「だって、私の騎士に散々無礼を働いたのよ?その場で殺したかったけど、公爵の息子だしねぇ。正々堂々と()んなきゃっしょ」


 その返答にダンテは更に血の気が引いた。クロエを引き寄せ、真剣な眼差しで訴える。


「ねぇ、俺と逃げよう?あの金持って今からこの国を出たら助かるよ。俺、絶対お嬢を守るから!」

 

 今にも泣き出しそうなダンテの手をクロエはそっとほどいて、愛おしい眼差しで彼を見つめる。


「大丈夫よダンテ。さあ、私の騎士(ナイト)さま跪きなさい。」

 

 ダンテはクロエを見つめたまま素直に跪く。

 クロエはダンテの額に優しくキスをした。


「…何これ?俺のプロポーズOKってこと?」

 

 突然のクロエの行為に、ダンテは不安から驚きの感情に移る。

 クロエは笑いながら言った。


「はあ?あれがプロポーズなのは酷いでしょ。違うわよ、あなたが私に忠実だからご褒美よ。」


「じゃあ、もっと良いことしたら口にしてくれる?」


「ん〜、そうね考えておく♪」

 

 小悪魔的に笑いなが返答するクロエは可愛かった。

 いつの間にかダンテも笑顔になり、二人は剣術の練習を始めた。


 一部始終をキャンディーは眺めて、ハッと気づいた。


(どうして僕は人間になって、美奈子ちゃんの側にいたいってお願いしなかったんだろ?

 ペットじゃなくて、人間になれば美奈子ちゃんと話せるし「大好きだよ」っていっぱい伝えられるのに!)


 キャンディーは絶望するくらい後悔した。

 人間になりたい!と願い、空に向かって悲しい叫びのように遠吠えをする。

 

 剣がぶつかり合う音と、狼の遠吠えが夕暮れの空に暫く響き渡った。



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