ぼくはキャンディー
《参考話数:4、9話》
ぼくは、キャンディー。
ご主人様にキャンディーと言う名前をもらったよ。
ご主人様は優しくぼくを抱え上げて、小さな女の子に会わせてくれた。
初めてこどもを見た。
この子はご主人様の子で、とても可愛いらしいこどもなんだ。
可愛い、小さいなぁ、これから一緒に遊んでくれるのかな?
わぁ、君の食べているものは何だろう?
クンクン、甘い匂いがするなぁ。
何だか嬉しくて、ドキドキが抑えられないよ!
「わーーーん!!!」
君が泣き出した。
どうしよう、ぼくの口に入っているのは、この子のキャンディーなんだって。
ごめんね!どうしよう、嬉しくて君のまわりをくるくる回っちゃうよ。
口の中のキャンディーを返してあげたいのに、
身体が言う事をきいてくれないんだ!
ご主人様がぼくを抱っこしてくれた。
「この子の名前はキャンディーだ。美奈子、この子は君が大好きなんだよ?」
そうなんですご主人様!ぼくは君のことがだいすきなんだよ!
泣かせてごめんね!きみの涙はしょっぱいんだね。
きみの名は美奈子ちゃん。
ぼくは、美奈子ちゃんを大切にするよ。
もう泣かせたりはしない。
ぼくはきみを守るんだ。
※※※
美奈子ちゃん、さっきねご主人様に電話があってね、今日は君に会えるみたい!
でも今日は雨だから、ご主人様は泣き出したり、暴れたりしていた。
とても憂鬱な気分になっているよ。
でも、ご主人様は君に早く会いたいから沢山のお薬を飲んで少しは落ち着いたかな。
ああ、僕も早く君に会いたいよ。
優しい手で僕を撫でてね、クンクンって君の匂いを嗅がせてね。
あ、ご主人様が車に乗れって言っているよ。
嬉しいな!早く会いたいよ!
※※※
「うわー、、残念ですが運転手は即死ですね。」
救急隊員が潰れた運転座席を確認し、仲間に報告する。
「ちょっと、血も凄いしご遺体取り出すの手伝って!」
「おい!シート持ってこい!」
救急隊、警察官が事故現場で慌ただしく仕事をこなす。
「身元わかったか?」
「はい、免許証あったのでご家族の連絡先など調べてます」
(…人間達が騒いでいる。ご主人様はどこ?美奈子ちゃんは?痛いよ身体が動かせないよ)
「あれ飼い犬かな?衝突で車外に飛び出したみたいですね。血まみれだけど息はしていますよ?」
「もう駄目だろ、置いておけ。保健所に連絡して回収させろ」
美奈子の父の遺体は搬送された。
キャンディーは事故現場に残され、冷たい雨に打たれた。
浅い息を少しずつ吐きながら、全身の痛みに耐えられず悲しそうな鳴き声を出している。
だが、事故現場の騒音と雨音で、誰もこの犬の最後の鳴き声に気づいた人はいなかった。
美奈子ちゃん、君に会いたいな。
もし君にまた会えたなら、僕はもう君から離れない。
何があっても君を守るよ。
君が悲しいんでいたら、僕が慰めてあげるんだ。
どうか、かみさまと言う人がいるのなら
僕をもう一度、美奈子ちゃんの側に居させて下さい。




