モブの設定がいろいろとテキトー
《参考話数:2話》
この家の人間は何処か狂っている。
皆んな邪悪なものに取り憑かれたのだろうか?
もう怯えて過ごすのが辛い。いっその事、私もこの悪に染まれば楽になるのだろうか?
私はガーランド家の長女なのに、使用人や侍女からも雑な扱いを受けている。
この国の3大公爵家の令嬢に対して普通はありえない。
でも、それがこのお話では問題ない。
ガーランド家に関る人間はクロエが虐待を受けている事に対して何も疑問に思わない。
何故なら作者はこの世界の神だから…。
そんな神でも細かな所までは設定が出来ていない。それは抜け穴のようで、影響を受けないモブ達は独り歩きをする事に気づいた。
フランドル家に嫁ぐために準備したクロエの大荷物を、1人の名も知らぬ使用人が運んでいる。
クロエは部屋の窓から彼を観察していた。
特にこれと言った特徴も無い。すれ違っても気にも留めない様な存在の薄い人間。これぞモブと言う感じ…。
彼が最後の荷物を運び終えてるのを見届けて部屋を出た。
荷馬車の側で地べたに座り、こっそりと休んでいる使用人に歩み寄り声をかけた。
「ご苦労様、貴方だけしか私の荷物を運んでくれないのね。…ありがとう。」
「お嬢様?!」
驚きを隠せない顔。
多分、何故自分に話しかけられているかもわからないと言った心情だ。
これまでクロエは労いの言葉を掛けるような事は無かった。
「貴方、名前は?」
彼は緊張しながらも答えた。
「わ、私は…ジ、ジ、ジンジャー・ブレッドマンです!」
「は?」
「はい!ジンジャーブレッド・マンです!!」
( え?2度言ったけ気がするけど、今何と言ったの?
ジンジャーブレッドマンってあの人の形したクッキーじゃん…。な、何つー名前だ!!作者!モブだからってテキトー過ぎるぞ!)
使用人ジンジャーはクロエに声を掛けられ、更に名前を聞かれたことに対して喜びや緊張で胸が高鳴る。
一方でクロエは人の名前を笑ってはいけないと堪えるのに必死だ。
互いに顔を赤くした。
「お、美味しそうな名前ですね…」
「え?そうでしょうか…お褒め頂きありがとうございます!」
何とか返した言葉が美味しそうって何だろう…と反省しつつ、ここではジンジャーブレッドマンと名のつくクッキーは無いようだ。
「ジンジャーさんは優しい方な様ですね。これを受け取って下さるかしら?」
クロエは先ほど運び終えた荷物の一つを開け袋を取り出し、それを彼に手渡した。
「お嬢様っ!これは…」
袋に金貨が入っていた。庶民なら数年は何もしないで生活が出来る額はある。
「ジンジャーさんの様な優しい方はこの家に居てはいけません。私はここを去ります、貴方も今すぐ使用人を辞めて違う仕事を見つけて下さい。できれば、あなたがやりたい仕事をして下さい。」
優しく彼に微笑んだ。一方的な願を述べてクロエはジンジャーの返事を聞かずに背を向け去った。
ジンジャーは涙が溢れた。クロエに伝えたい言葉が沢山あるのに言葉が出てこない。
彼はクロエの不遇な扱いに心を痛めていた。他の使用人の様に殴られ泣き叫ぶ姿を嘲笑う事なんて出来なかった。
だからと言って彼女に手を差し伸べることも出来ずに、ただ目を背ける事しかしない。そんな自分が恥ずかしい。謝りたい、今まで何もしなかった自分を許して欲しい。
「お嬢様!わたしはっ…もうしわけ…御座いませんでした…」
声を振り絞って何とか後悔の念を伝えたかったが、クロエは振り向きもせずに行ってしまった。
彼はその場で崩れ落ち、誰にも気付かれないように静かに泣いていた。
※※※
フランドル家に向かうには馬車で数日はかかる。揺れる馬車の中でクロエはふと、昨日のジンジャー・ブレッドマンを思い出した。
( ジャーマン・ポテトとかサム・ギョプサル、チンジャオ・ロースとか居るかな?ここはアジア系の人種を見かけないからジャーマン・ポテトは居そうよね。)
クスっと無意識に笑いが出た。
この話の位置的にジンジャー•ブレッドマンはモブと言われるエキストラのような存在だ。それ故なのか、クロエはジンジャーを思い出す事も、彼のその後について気にもしなかった。
そんな彼はと言うと、それはまた別のお話し…。
お嬢様
私はあの後、言いつけ通りガーランド家の使用人を辞めました。やりたい仕事とは何かを考え、精一杯日々を過ごしております。
今もまだ無力な私ですが、もしお嬢様のお役に立てる事があるのなら、次こそはお力になれる人間になりたい。
最後に私に微笑んで頂いたお姿が今も忘れる事が出来ません。辛い時、あの時の微笑みを思い出すと勇気と希望が湧いてくるのです。
願わくばまたお嬢様にお会いし、自分を誇れるようになった姿を見て頂きたいです。
また図々しい願いですが、お嬢様
私を思い出さなくていい、でもどうか私を忘れないで下さい。




