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転生悪役令嬢は全オスを攻略対象にする。そこの雄犬、お前もだっ!!  作者: 村井田ユージ
第一章

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19.愛しい君は、私の血となり肉となる(前編)


「あんなにも殺したがっていたのに、あんたはクロエが好きなのか?」


 クロエの部屋でジョンと2人きりになると、ダンテは思っていた事を直球に言う。

 ジョンは少し考えて、ニヤつきながら答えた。


「…何で殺したかったのか俺にもわかんねーが、今はクロエを手に入れたい。俺のモノにしたい。ああ、そうだな お前の言う通り俺はクロエが好きらしい。」


 ダンテはジョンの口からクロエを好きだと言うの聞くと、嫌悪感でいっぱいになり怒りが湧いた。


「おい、ダンテ。お前もクロエが好きって、ダダ漏れだが身の程をわきまえろよ。身分が違いすぎるだろ。くれぐれもあの女と、どうにかなりたいなんて馬鹿な考えはするな。哀れだ、クソ惨めすぎる。」


「あんただって!殺そうとしてきた相手を、お嬢が好きになるわけねーだろっ!」


 ダンテはカッとなって直ぐに言い返すが、ジョンは冷静だった。


「…なあ、お前はクロエを見ると不思議と『殺意』が芽生えなかった?」


「はぁ?急にいかれた事言ってんじゃねーよ…」


「クロエを殺したい衝動に駆られた事は一度も無いのか?」


 突然、突拍子もない事を聞かれたが、ジョンの質問にダンテには心当たりがあった。

 誰にも打ち明けた事が無い秘密。

 ジョンは何故か真面目な顔で聞くので、ダンテは躊躇いながらも打ち明けた。


「あ、…いや。俺は、ちょっと違うけど、あった。その、夢なんだけど。毎夜、お前の命令でお嬢を殺すんだ。頭では止めろと命令しても、身体が言うことを聞かない…最悪の悪夢だ。そのうち夢と現実の区別がつかなくなりそうで怖かった。」


 ダンテはジョンにその悪夢を見る度に、本当に自分がクロエを殺していないか怖くなり、彼女の部屋に忍び込んでは寝顔を確かめていた事も打ち明けた。

 

「……ダンテ、お前。 変態だな。 チッ、クロエの部屋に忍び込みやがって。」


「ああ?! あんたには言われたくねーぞ!」


「まぁ、いい。俺は呪いとかその部類は信じないんだが。お前もそーなんだったら、やっぱりクロエは()()()呪われてるのかもな。あの狼達に襲われた事も納得出来る。」


 ジョンの言っている事が怖くなったダンテは、急にクロエが心配になった。


「あ、俺… お嬢の様子を見ていきます。」


 ダンテが部屋を出ようとした時だった、ドアが開きクロエが飛び出した。


「ねえ、ねえ、見て見て!ジャジャーン♪ どうかな、似合う?」


 先ほどまでの2人の重苦しい空気を掻き消すように、クロエの能天気な明るい声が部屋に響いた。

 ジョンとダンテはクロエを見ると、固まったようなリアクションだった。

 何故なら、彼女の美しい赤い髪が真っ黒に染まっていたのだ。

 ジョンの薬を拝借し黒髪になったクロエは、美しい赤色の目がより際立ち、いつもとは違う妖艶な雰囲気を醸し出す。 


「えええ、ちょっ、お嬢、何で染めたの?」


 驚いたダンテの質問に、よくぞ聞いてくれたとクロエは笑みを浮かべる。


「ふふ、これから街に行って逆ナンするのよ!赤い髪だと私がガーランド家のクロエってバレるでしょ〜。」


「は?『ぎゃくなん』って、どんな意味なんだ?」


「ああ、ごめんねダンテ。簡単に言うと、街の酒場にでも行って遊ぶ男をつかまえて来るわね。」


 美奈子が現代で使う言葉はダンテには難しかったようで、わかりやすく何をしに行くか説明したつもりだった。

 でも、ダンテもジョンもクロエの言葉に暗い顔になる。

 ジョンは静かに怒りを抑えながら、ダンテに命令をする。


「ダンテ、クロエを一歩も外に出すなよ 絶対命令だ。」


「ジョン様に言われなくても、俺は俺の意思でクロエお嬢様を絶対に外に出させませんから〜」


 2人は不気味な笑顔でクロエに迫る。


「えええ、ちょっ。待ってよ!明日の朝までには帰るから! って、は? 2人とも!なんか怒ってる?ええ?さ、触んないでよー。」


 クロエはジョンとダンテに挟まれた。両腕を2人に掴まれ、部屋の奥に引きずり、仲良くクロエを真ん中にし3人でソファに座る。


「お前、未来の旦那様を目の前にして他の男を漁りに行くとかふざけてるのか?俺がお前の望むラブみで満たしてやるよ。」


 右を向けば、ジョンが200%増しな美男(イケメン)モードで迫る。

 左を向けば、顔を赤くするダンテはまるで健気な年下の男の子キャラに見えた。


「クロエお嬢様、俺も精一杯ご奉仕しますので…。」


 美奈子は思い出した。そうだ、改めて見ると2人とも乙女ゲームに登場する攻略キャラのように顔が良い。

 気が付けば2人はクロエの手を恋人繋ぎをし離さない。両者の熱の籠った眼差しがとても重く感じる。

 2人からの視線をどうしたら良いのかわからない…クロエは困惑の表情を浮かべた。


(いやいや、お前ら勘違いをしているぞ。私はあんたらとそー言う事をしたいんじゃ無いのに…。なんか、これ以上間違えた事したらヤバい方向にいきそうだわ。)


 考えてみれば、この屋敷には男2人に女1人。もしも、ジョンとダンテに押し倒されたら…力的にも負けてしまう。


「ダンテ!あんた私に忠誠を誓った騎士なら、ジョンが変な事したら斬りなさいよ。つか、なんだ2人ともこの手の握り方は〜 やめーい!!」


 クロエは手を振り解こうとするが、ダンテは両手で握る。


「俺はっ!お嬢の騎士だけど、、あんな思わせぶりなキスとか…あんたはからかってるけど、俺だって男なんですよ? 嫌がることしたく無い、でも俺も我慢の限界があるんです!」

 

「ええええ、ごめん!どうしたダンテ? 待って!待って!」


 ここぞとばかりにダンテは想いの一部を打ち明けた。今のダンテは騎士ではなく、()()()だった。目の奥が揺らめいて明らかに興奮している。


「はぁ?お前らチューとかする仲なのかよ?」


 ジョンは後ろから手でクロエの口を塞いだ。ジョンの手の甲にダンテの鼻がぶつかった。

 もう少しで、ダンテとキスしそうな所を防いだ形だったが、ジョンは怒っている。


「んーんーっ!」


 ジョンの手は更に力が入り、クロエは声を出せないし、身動きも取れない。


「おい、クロエ。お前それでも令嬢か?いろんな男に手を出しやがって。お前もレオナルドの事言えねーだろ。このデカ乳女が!」


 懲らしめるかのように、もう片方の手でクロエの胸を服の上から揉んだ。


「何してんだよ?止めろよ!」


 むにむにと目の前で主人の胸が弄ばれている。

 ダンテはジョンに怒りをぶつけるが、ジョンから予想もしない提案がされた。


「お前も触れよ。」


「え?」


 ジョンの誘いに、ダンテの目がクロエの胸に集中した。

 美奈子の予想通り、悪い方向に向かっている。身の危険を感じたが、すでにこの状況は手遅れなのか。

 ダンテは少し震えながらクロエの胸を触ろうと手を伸ばす。


「ううう、お嬢…ごめん。」


 ダンテは顔を真っ赤にし、鷲掴みしようとした手を急に指差しに変えて、ちょんとクロエの胸の先を押した。


「ふうんんんん!!!」


「は?何その触りかたw」


 ジョンに揉まれるよりも、ダンテに乳首を押されたのがくすぐったい。口を抑えられていなければ、感じたような甘い声を出しそうだった。


(あれ?元々この物語はHな描写なんてなかった。せいぜいキスでキャーキャー言うレベルだったのに…。なんか、私がこの物語で暴れたせいもあるけど…流石に3Pに突入する悪役令嬢モノってヤバい気がする!読者が引く!)


「んーーーー!!!」


 クロエの叫びは抑えられているが、主人の危機を察知した狼のキャンディーはダンテに飛びいついた。

 狼いの鋭い足の爪がダンテのこめかみに食い込む。


「わー!ごめん!ごめん! リアム!落ち着けっ!」

 

「ワンッ!ワンッ!」


 キャンディーはダンテとジョン、両方に吠えていた。

 ジョンが驚いた隙に、クロエは彼の拘束から逃げる。


「あんた達! これ以上やったら、絶対に嫌いになる!」


 その一言は、クロエの想像以上に彼らには強烈だった。


「わりぃ、調子にのった…。」


 そっぽを向き不貞腐れながらも、ジョンは反省するそぶりを見せた。


「す、すみません…でしたぁ…。」

 

 ダンテもまだキャンディーに押し倒されたままで、情けない声で謝罪した。




 その日は本当にクロエは一歩も外に出る事を許されなかった。何処にでもダンテはついて来るし、ジョンは鋭い目つきで監視する。

 終いには、彼らに今夜はクロエのベットで3人で寝ようと提案された。


「ねえ!また触ってきたりしたら許さないからね!」


 クロエは渋々だが、2人の願いを聞き入れた。


「ちっ、うるせーな。わかったよ、でも手は繋いで寝ようぜ♪」


 またジョンは嬉しそうにクロエの手を取り、甲に優しくキスをした。

 美奈子は少しゾッとした。

 これが推しからの行為なら身悶えていたが、顔が良くても過剰なスキンシップは怖かった。


「いや、あんたとは恋人でも夫でも無いんだから、そーゆう事はやめてよね。」


 きっぱりと拒否の姿勢をジョンに伝えるが、彼は「何故、俺の好意を受け入れないのか?」と理解が出来ない。


「クリスタだったら目を輝かせて喜ぶのに、お前には通用しないんだな。」


「はぁ?あんたもクリスタと寝ているの? え、兄弟でそんな関係なワケ??」


「あ?お前の想像している事はなんだ?俺たちはクリスタがいつも手を繋いで寝て欲しいって言ってるから一緒に寝てるんだよ。」


 年頃の美男美女が手を繋いで寝るだけなんて、おかしいだろ〜!っと美奈子は突っ込まずにはいられない。


「嘘でしょ?本当に何も無いの?Hとかしないの?男でしょ、したくないの?」


「…え、うん。 まぁ、男だからそー言う欲求はあるけれど…。だけど、俺はクリスタには何の興味もわかねーよ!そもそも、あんな人形みたいな顔はタイプじゃない。」


 美奈子の思ったままの質問はジョンを困らせていた。

 また変な雰囲気にならないか不安になる。


「とりあえず、レオナルドはクリスタと本当に手を繋いで寝てるだけで、お前の思ってる事はしてねーよ。もういい、寝るぞ。」

 

 ジョンは少し恥ずかしそうに目を閉じ、ふかふかの枕に頭を沈めた。


「はいはい、話はその辺で。 お嬢、俺たちも寝ましょう。その髪はまだ戻さないのか?」


 隣にいたダンテは、クロエをなだめるように寝かしつけ、黒髪を指摘した。


「あー、うん。せっかく染めたから。明日には戻すつもりよ。あれ、やっぱり変かな?」


「いや、…俺は赤い髪が好きだけど。黒い髪も似合ってると思う。…おやすみ。」


「うん。おやすみなさい。」


 ダンテは恥ずかしそうに言うので、自分も照れてしまった。


 ジョンとダンテはクロエに触れないようにして寝ている。でも2人の存在が妙に気になって寝付けない。

 美奈子は目を閉じながら考えていた。

 ジョンの言う通り、レオナルドはクリスタと肉体関係には無いようだ。本当に手を繋いで寝てただけなら自分は浮気にはカウントしない。中身は30過ぎた大人な女だ、寛容さは若い子よりもあると美奈子は自負する。

 レオナルドのとても傷ついた顔が、妙に忘れられないのは何故だろう。心の中がモヤモヤする。


 暫くして、ジョンとダンテが寝ついたのを確かめてクロエはベットから出ようとする。

 だが、ガッと手首を掴まれた。


「お嬢、何処行くの?」


 寝ていたはずのダンテは身体を起こして掴んだ手を離さない。


「あ、トイレ行きたいの…。」


 驚きながらも、クロエは答えた。


「行かせてやれ。クロエ、早く戻れよ。」


 ジョンが寝たままダンテに命じた。

 ダンテは手を離すと、クロエは急いで部屋の奥のバスルームに向かった。


(お前ら狸寝入りか?早く寝ろよ〜!)


 クロエはバスルームに入り鍵をかける。トイレは使わず、寝巻きを脱ぎ捨て棚に隠していた服に着替えた。

 そして、今日何度もトイレに行くと言いながら、少しづつバスタオルを結びつけて即席のロープを作った。


「ふん!私はこの世界を好きなように生きて行くのよ。誰にも邪魔はさせないんだから。」


 クロエは2階から無事に脱出し、街に向かって走り出した。


「あっはははは!私はやると言ったらやる女よ!外に出てシークレットキャラに遭遇してやるんだからッ!あははは!待ってなさい!まだ見ぬ美男(イケメン)よ!」


 クロエの高笑いが森に響いた。

 


※※


 暫く走ると、灯りが見えた。それは木造の建物で外に荷馬車や馬が繋がれている。

 一目で一般市民が使用する酒場だとわかった。深夜でも賑やかな声が聞こえ、クロエは迷いもなくその建物に入る。

 室内は映画で見たようなカウボーイが使う酒場のようだった。木のカウンターにテーブル席が何個もあり、酔い潰れて寝ている人や見た目が怖そうな人達がいた。

 目を輝かせながら、クロエはカウンター席に座る。すかさず、亭主が何を飲むか聞いてきた。


「お嬢ちゃん、見ない顔だね? 金は…持っていそうだけどここは酒しか無いよ?」


「ふふ、大丈夫よ。私、お酒好きなの。まずはマスターのおすすめを一杯お願い。」


 クロエは亭主の顔を見て微笑んだ。あまりの美しさに顔を赤くし、亭主はすぐにビールのような地酒を出した。

 クロエは一気に飲み干した。


「う、ううう、美味い。かー、何だコレ染み入るぞ。」


 美奈子は酒が飲めないが、クロエは酒が飲めた。初めて、酒を美味いと感じて飲めた。密かに憧れていた、酔って楽しい気分を生まれて初めて味わえた。


「お嬢さん、いい飲みっぷりだね。おじさん、僕にも同じのを下さい。」


 見知らぬ男が隣に座って話しかけた。

 早速、クロエを口説く男が現れたと思い、彼の顔を見ると驚いた。

 顔や服は汚れていたが、美奈子のドンピシャに刺さるタイプの顔をした青年だった。

 ちなみに、美奈子はおじ様キャラも好きだが、主人公キャラよりも主人公の友達キャラと言う脇役キャラに沼るタイプの女だった。


(は?は〜ぁ? 何この人、優男感。主人公を支えるような、ちょい遊び人的な脇ポジタイプ。いきなり凄いのが釣れた!!)


 美奈子はドキドキを抑えながらも、クールに振る舞ってみせた。


「あら?お兄さんも一緒に飲んでくださるの。私はクロエよ、よろしくね」


「僕はアイザック、こちらこそ こんな美人さんの隣で飲めて光栄だよ。」


 2人は色んな酒を頼み、たわいも無い会話を楽しみながら飲み干した。


「アイザックは北部の人間じゃ無いでしょ?どこの生まれなの」


「え? 僕、北部ぽっくないかぁ〜。ずっと北の方の国で仕事してたんだけどなぁ。クロエは鋭いね、僕は実は王都の方で生まれたんだ。」


「ふふ、だって髪が暗く無いし。ところで、他国にいたのね。どんな仕事をしていたの?」


「ここでは言いたくないなぁ。ねぇ、そろそろ場所変えない?」


 アイザックはニコニコと笑顔だが遊び慣れている感じがした。()()()()()がわかった美奈子は少し考えた。

 クリスタのように守る貞操も無いし、酒の力が手伝ってかこの男とワンナイトな関係になっても良いと思った。


「私、綺麗な部屋じゃないと嫌よ。」


「わぁ〜、そうか。じゃあ、僕の馬に乗って街の方に行こうよ。とびきり良い部屋を取ろうよ。」


 アイザックはクロエをエスコートし酒場から出た。

 外には言っていた通り彼の馬が繋がれていた。万が一暴漢だった場合は隠し持っているナイフで立ち向かう気でいたが、アイザックの言葉には嘘を感じなかった。

 ただ、彼には少し血の匂いがしただけ…。


「おい、アイザック。何処行くんだよ。」


 馬に乗ると、声をかけられた。


「ああ!ごめんね、これからこの子と街に行きたいんだけど、駄目かなクラウス?」


「ふざけんなよ。明日は早いから戻るぞ。」


 クラウスと呼ばれた男は、アイザックよりも血の匂いが強かった。

 彼はフード付きのマントを羽織っていたが、アイザックと同じ金色の髪と青い瞳をしていた。


「あなたも一緒に来る?」


 酔っていたからか、クロエは会ったばかりのクラウスを誘ったが、彼は邪険な顔で威嚇する。


「…ああ?」


「わぁ!クロエって大胆だね〜。ねぇ、クラウスも一緒に行こうよ。」


「駄目だ。その大胆なレディを送ってお前は戻って来い。」


 クラウスは自分の馬に跨り、去った。


「ごめんよ…。クロエ、また別の日に会わない?」


 しょんぼりしたアイザックが大人な男なのに可愛く見えた。


「そうね、また今度会いましょう。」


「じゃあ、明後日は?出来れば君とお昼から会いたいなぁ。」


「良いわよ。じゃあ、昼にこの酒場で会いましょう。」


 アイザックは家まで送ると言ったが、フランドル家の人間だとバレたく無いので途中で馬から降りた。


「本当にここで良いの?大丈夫かな?ここは狼も現れるし心配だよ。」


 アイザックは心の底からクロエを心配している。

 初めからクロエに好意を寄せた男はいただろうか?

 たった数時間過ごした相手に、美奈子は恋に落ちたような気がした。


「大丈夫よ、アイザック。…次会うときは、もっと血の匂いを落としてから来てね。」


 クロエはアイザックの口に軽いキスをした。

 幸せそうな顔をする彼が、とても愛おしく思えた。


「ああ、もちろんさ! おやすみ、またね、クロエ。」

 

 クロエは走り出す。アイザックも愛おしそうにクロエの後ろ姿を見送った。

 

 美奈子はふわふわした心地よい気持ちで夜道を走った。星空を見上げながら走ったので、前を見ていない。ドシン!と誰かにぶつかり尻もちをついた。

 目の前には、松葉杖を付いたジョンが居た。


「お前、どこに行ってたんだよ?外に出るなって言ったよな?酒くせーし。」


 静かに怒りを抑えているような、金色の目が怖かった。

 彼はアイザックとのキスも見ていたのだろうか?怖くて聞ける雰囲気ではない。


「あ、ごめん…。」


「お前なんて嫌いだ。」


 ジョンは一言告げると、背を向けて屋敷の方へ歩き出した。

 クロエは彼を追い越さないように、後ろをゆっくりと歩く。

 声もかけられない。アイザックと過ごした楽しい時間とは正反対の気まずい時間だった。

 屋敷に着くと、ジョンは自分の部屋に行ってしまった。

 

 クロエは常に誰かに嫌われ、疎まれていた存在だった。

 嫌われている事に慣れているはずなのに、「嫌い」と言う言葉はチクチクと胸が痛くなる。

 そして、登場する男たち全員に好かれる事は、実際は難しい事なんだと思い知った。


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