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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
反乱編 第1話 決行
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首都炎上

 急いでたどり着いた首都は、避難する人の山で一杯だった。遠くには黒い煙が立ち上り、武装した兵士たちが続々中心部を目指して駆けつけてくる様に人々は慄いていた。中心部に駆けつけるにつれ、リィアの警備隊の他に反乱軍とおぼしき兵士たちも消火活動や市民の避難誘導、救出を手伝っていた。


「一体これはどういうことなんだ? これが反乱軍のやり方なのか!?」


 混乱する市内を見て、シャスタがシェールに食ってかかった。


「知らん! こんなの作戦になかった!」

「じゃあ何であんなに燃えてるんだよ!! あそこは軍の本部だぞ!!」


(待てよ、首都が燃える、だと?)


 シェールの脳裏に嫌な想像が過った。リィア軍本部に容易に入り込めて、故郷を焼かれた腹いせに火を放つことができる人物に心当たりがあった。しかも彼は単独で先に首都へ向かっていたらしい。


(いや、あくまでも想像だ。まだそうと決めつけるわけにはいかない)


「とにかく、この混乱を沈めるのが先だ。幸い燃えているのは軍本部とその周辺だけだ。風も少ないし、延焼のおそれもあまりないだろう。今は消火作業と怪我人がいれば救出に専念したほうがいい」


 街の端からでも見える黒煙と炎に、市民も反乱軍もリィアの警備隊員も全員が恐れおののいていた。シェールたちクライオの反乱軍が消火活動に加わる頃、軍本部の周辺に様子を見に行かせた偵察隊が帰ってきた。


「先ほど、リィア打倒戦線から伝達を受けました。リィア王家とラコス家およびフレビス家を含む有力氏族の拘束に成功。これにて本作戦は終了とのことです」


 その報告を受けて、シェールは全身の力が抜けていくようだった


「わかった、とりあえずは火災の対処に努めよう。この騒ぎが収まるまで引き続き消火と救出に注力、残りは関所付近の警戒に当たってくれ」


 偵察隊は一礼をするとその場を立ち去った。頭を抱えるシェールの脇で、セイフとセラスは表情を失っていた。


「あまりにあっけないという顔をしているな」

「当たり前だ、こんな、こんなやり方で、俺たちは……」


 セイフの声は震えていた。セラスも呆然と今だ立ちこめる黒い煙を見つめていた。


***


 燃えさかる炎が鎮火したのは夕暮れを過ぎてからであった。リィア兵は意気消沈し、反乱軍に向かってくる者はいなかった。皆が焼け落ちた軍本部を見つめ、行方不明者の捜索や怪我人の手当に追われていた。


「リィアの政権がクルサ家に戻ったぞ!」


 この知らせは市民に瞬く間に広がった。この火事はダイア・ラコスを中心とした軍事政権の終了を強く象徴し、新しい政権への期待よりも今後の不安のほうが大きく波打っているようだった。反乱軍は臨時の警備隊を組織し、市民の混乱が広がらないように市内の巡回を強化していた。


 幸いクライオからの反乱軍に怪我人などがなく、状況把握に努めあちこちに伝令を出していたシェールは、すっかり夜が更けてからようやく一息つくことができた。


「まあいいさ、これで俺もお役御免だ」

「またそんなことを言って……」


 セラスが呆れていると、伝令がやってきた。


「これから緊急で代表者会議を行うので、至急王宮へ集まるようにとのことです」

「今から? もう明日でいいんじゃないか?」


 すると、伝令が気まずそうな声をあげた。


「なんでも、極秘の打ち合わせとかで……同席できる人数も1名までと言われています」

「何だ、今から何を話そうって言うんだよ。ラコス家を捕らえて終わりじゃないのか?」

「ダメですよ義兄様、呼ばれたらいかないと」

「わかっているけど……そうか」


 急にシェールは立ち上がった。


「よかった、さあ一緒に行きますよ」


 セラスも立ち上がったが、シェールに制された。


「いや、お前はここに残れ……その代わりシャスタを呼んでこい」

「なんで、あの人を……まさか」


 セラスもシェールの想像と同じ考えに至った。軍本部に容易に侵入して火を放つことが可能で動機も存在する、行方知れずの人物が何か不都合なことを仕出かしたのだろうということが推察できた。


「そのまさかだ。深夜に行われる極秘の代表者会議など、どうせろくな話にならない。ろくでもないと言えば、この騒ぎにあいつが関わっていないはずがない……畜生、次に会ったら一発どころか絶対埋めてやるからな」


 ただ、これでティロ・キアンの行方はわかりそうだとシェールは期待していた。


***


 深夜に緊急で開かれた代表者会議は、軍本部から離れた王宮で行われることになっていた。シェールは急遽呼んだシャスタと二人で代表者たちと顔を合わせた。難しい顔をしているシャイアとフォンティーアを囲み、リクとロドンが事態の説明を求めた。


「一体何があったというのだ?」

「結果は良しとして、こんな話は聞いていないぞ」


 全員が揃ったところで、フォンティーアがため息をつきながら答えた。


「ひとつは、ご覧の通りのこの事態のこと。そしてもうひとつは……第二王子が誘拐されたわ。犯人はリィアの親衛隊を4人突破して、連れ去ったと考えられるの」


 リクとロドンが驚きの声をあげた。ふと、シェールは「王子を処刑しなくていい方法はないか」と尋ねた人物の顔を思い浮かべた。そしてその人物なら親衛隊を破って王子を誘拐することができることも理解できた。しかし、何故そこまでして彼がそんなことをするのかだけ思い至ることができなかった。



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