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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
執行編 第4話 復讐
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否認

 地面に叩きつけられた衝撃でザミテスが目を覚ますと、全身を縛り上げられて身体の自由が奪われていた。なんとか状況を把握しようと周囲を見渡すと、人里離れた山中のようであった。そして意識を失う前のことを思い出して慌てて更に周囲を探ると、月明かりに照らされたティロが笑っていた。


「ティロ、これは一体何の真似だ?」

「何のって、覚えてないんですか? 16年前、こんなことがありませんでしたか?」

「こんなことが……16年前だと!?」

「そうですよ。エディア侵攻のとき、一体何をしたのか、覚えていませんか?」


 ザミテスが16年前のエディア攻略に携わったことに間違いはなかった。


「ほら、そこを見てくださいよ。これほどまででなくても、大きな穴を掘りましたよね?」


 ザミテスの目の前に大きな穴があった。確かにザミテスには大きな穴を掘った記憶があった。そしてそのことを知っているのは、昔戦死した友人とクラドのみであるはずだった。何故ティロがそのことを知っているのかと思い至り、ザミテスの心臓が急に縮み上がった。


「貴様……あの時のガキか!?」


 その驚愕する顔を見て、ティロの顔はこの上なく笑顔になった。


「よかった。思い出してくれましたね、ザミテス隊長。あなたがあの時埋めた子供、生きてたんですよ。どれだけ苦しかったことでしょうね」


 その表情と釣り合わない冷徹な声でティロは呟いた。そしてザミテスの目の前に捕らえていたレリミアをはっきり見えるように差し出すと、その頬にナイフを押し当てる。


「この子に教えてやってくださいよ。あなたが何をしたのか」

「父様……一体、何があったの?」


 後ろ手に縛られ、生きた心地のしないレリミアは瞳から止めどなく涙を流していた。


「返答次第によっては、この娘もバラバラにしてこの穴に投げ込むからな」


 ザミテスはようやく状況を把握できた。そしてティロの極度の地下恐怖症の理由と、自身をこのまま埋めるつもりであることも同時に理解した。


「でも、俺は悪くないぞ!」


 瞬間的にザミテスの口から出たのは言い訳であった。


「確かに俺はお前らを埋めたかもしれない。だけど、それは俺の責任じゃない。あれはクラドがやれって言った話だ、恨むならクラドを恨め!」

「この後に及んで、何を言い出すんだ?」

「お前だってクラドのことはわかるだろう? あの日はずっと避難所の世話と墓掘りでクラドの機嫌がよくなかった。だから、仕方なかったんだ!」


 ティロの笑顔が消え、次第にその顔から憎悪が溢れ出した。


「仕方なかったで、俺たちを埋めたっていうのか!?」

「仕方ないだろう! 大体、真夜中にあんなところを歩いていたお前らのほうがおかしいだろう、どこへ行くつもりだったんだ?!」

「それは関係の無い話だ! 真夜中に歩いていたからって襲っていい理屈はないだろう!」


 会話にならない言い合いに、レリミアは混乱した。


「ねえ、お願い! 何の話をしているの……?」


 レリミアの言葉に、二人は一度怒鳴り合いを止めた。


「父様……お願い、父様は、ティロに、何をしたの?」


 レリミアは父に話をするよう懇願した。


「レリミア……俺は、何もしていない」


 その言葉にティロの顔が大きく引きつった。


「嘘をつけ! 姉さんと俺と……お前は、何をやったのか、覚えていないのか!?」

「確かに俺はお前と似たような奴をどうにかしたかもしれない。だけどな、お前を見た覚えはない。ガキの顔など覚えているものか」


 吐き捨てるように言うザミテスにティロは激昂した。


「もういい! 娘の命が惜しくないのか!?」

「身に覚えのないことを話せるものか!!」

「……わかった、レリミア。君には全部話すと言ったね。話せるだけ話そう」


 あくまでも16年前の話をしようとしないザミテスに業を煮やし、ティロは語り出した。


「僕には、姉がいた。たったひとりの、自慢の姉だった。災禍の後、僕たちは夜道を歩いていた。そこを3人組のリィア兵に捕まって、姉さんは酷い目に合わされた。僕だってそうだ」

「そのリィア兵が父様とクラドおじさんだって言うの!?」

「そうだ。忘れもしない、何度も夢に出てきた顔だ。間違いようがない。ゾステロ・フィルム、クラド・フレビス、そしてザミテス・トライト! 姉さんと、俺を殺して埋めた、畜生にも劣る最低最悪の奴らだ」


 レリミアは信じがたい様子でティロの顔を覗き込んだ。 


「でも何故、あなたとお姉さんを!?」

「そんなの決まっているだろう、憂さ晴らしだ」

「そんな、そんなことで父様があなたを酷い目に合わせたって言うの!?」


 どうしてもレリミアには、優しい父が通りすがりの娘と子供を殺して埋めたという話を飲み込むことができなかった。


「そうだよ、そうだとしか言えないんだ。そうでなきゃ、何であんな酷いことができるんだ!?」

「あんな酷いことって、一体何を……?」


 レリミアの質問に、ティロは答えなかった。その代わり、無言で縛り上げたザミテスを穴に蹴り落とした。

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