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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
執行編 第3話 拒絶
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査察旅行の終点

 復讐決行日の夕刻、ティロと落ち合う約束をしていたリオは待ち合わせの場所に現れた。


「え、何ですか……変装ですか?」

「そんなわけないだろ、今の俺の正式な身分だぞ、ほら」


 ザミテスに会うために上級騎士の隊服を着たティロが認識票を突きつけると、リオはしげしげと覗き込んだ。


「でも、なんで予備隊出身のキアン姓で上級騎士になったんですか!?」

「細かい話は、そうだな……えーと、とりあえず、後だ後! 今から、俺の上司に会ってもらう! 上級騎士隊筆頭は流石にわかってるだろう?」

「上級騎士隊筆頭……そう言えば最近その名前を聞いた気がしますね」


 リオは上級騎士隊で不祥事の話が持ち上がったのを思い出した。


「そう、最近筆頭が変わっただろう?」

「まさか、それにティロさん何か関わっているんじゃないでしょうね?」

「俺は関わってない。だけど、何かあったのはわかるんだ」


 ティロはシャスタの「ティロを特務に復帰させる予定がある」という出任せを最大限に利用していた。

 

「俺はそれを今の筆頭から聞き出す。そのために、奴と一緒にいる筆頭補佐候補を引き剥がしておいてほしいんだ」

「そういうことならいいですけど……一体どこの誰の指示なんですか?」


 ティロはもっともらしく聞こえるように声を潜める。


「今の筆頭が不祥事に関わっているとなったら一大事だからな。全てが明らかにならないと、今回の件について調べているところを公に出来ない。具体的には……フレビス家に喧嘩を売ることになる」


 フレビス家の名前が出たことでリオは目を丸くした。


「そ、それは私でもちょっと……本当の本当に消されちゃいますよ」

「そうだろう? この件を片付けることが、俺の復帰の条件なんだ。大丈夫、何かあっても消されるのは俺だけだから」


 リオは気まずそうに息を飲んだ。少し間があって、ティロは気を取り直すように尋ねた。


「そうだ、ひとつ聞いておきたいんだけど……死んだと思ってた奴が生き返ったら、やっぱり嬉しいかな?」

「嬉しいに決まってるじゃないですか!」

「そうか……死人が目の前にいて気持ち悪いとか、今更どういう気持ちで接したらいいかわからないとか、そういうのはなかったか?」

「あるわけないじゃないですか! 何言ってるんですか?」


 急に当たり前のことを尋ねられて、リオはきょとんとした。


「そうだな、何言ってるんだろうな、俺……死んだ人が生き返ったら、嬉しいはずだよな」


 自分に言い聞かせるようにティロは何度か口にした。リオは未だにティロが自分のことを責め続けているのではないかと少し心配になった。


***


 夕刻、予定通りザミテスはやってきた。ここで一晩を過ごし、明日首都へ到着する予定となっていた。


「お帰りなさい、隊長」


 上級騎士の隊服を着たティロがザミテスの前に神妙な顔をして姿を出した。


「何だ、どうしてお前がここにいるんだ?」

「お迎えに来たんですよ。ちょっと急ぎの用がありまして」

「そうか、しかしわざわざどうしてこんなところまで? 明日には帰ると言うのに」


 怪訝な顔をするザミテスに、ティロは考える暇を与えなかった。


「まあ、細かいことはどうでもいいじゃありませんか」

「そうだな……お前もなかなか気が利くようになったんだな」

「ええ、隊長と是非二人で話したいことがあるんですよ……ちょっといいですか?」


 ティロはザミテスを連れて同行の上級騎士から離れていった。しばらくすると、ティロだけが戻ってきた。


「実は、隊長の奥方が一先日亡くなられた」

「何だって!?」


 ティロの言葉に、同行の上級騎士は驚いたようだった。


「それで迎えに来たんだ……隊長は今から急いで家に向かう」

「それじゃあ僕も」


 ティロは有無を言わさず同行の騎士に数枚のリィア紙幣を握らせた。


「これは隊長から君への小遣いだ。せっかくここまで来たんだ、君まで急いで帰る必要は無い」

「しかし……」

「もう道は暗いし、僕がいれば大丈夫だろう。君は一晩ゆっくりしていってくれ」

「だけど」

「あまり大きな声では言えないが、奥方は普通に亡くなられていないんだ」

「何だって」

「僕だって一体何があったのかわからない。隊長も少し動転しているんだ、だから……少し放っておいてくれないか」


 何故ザミテス本人ではなくティロからの伝聞なのか同行の上級騎士は気になったが、複雑そうな事情を話したくない気分は理解できるものではあった。


「わかった、君に任せよう」

「それじゃあ、また勤務で会おう」


 ティロは視界の端にリオの姿を認めて、ザミテスの後を追うように同行の上級騎士の前から姿を消した。


「お待たせしました、それでは行きましょうか」

「しかし一体何の話なんだ、今すぐ二人でしなくてはいけない話とは」

「まあまあ、夜は長いですからゆっくり行きましょう」


 ティロはザミテスを有無を言わさずその辺の酒場に押し込んで、強引に杯を押しつけた。


「そういえばお前、そこまで気が回る奴だったか?」

「何言ってるんですか? 僕はそういう奴になるって決めたんですよ」


 上司に顔を売るために仲間を蹴落として媚びを売る。今までのティロとは無縁だったような行動にザミテスは驚き、そして査察旅行の間に何かがあったのだろうと都合のいいように解釈した。


「そうか、お前もわかったか、そういうのが」

「ええ、これからはもう少しいろいろ気を利かせたいと思いまして」


 ティロが思い通りに動くのであれば、ザミテスも言うことはない。剣技の腕も立つ優秀で使い勝手のいい駒が増えることは、ザミテスにとって歓迎するべき事だった。


「よし、帰ったらうんと可愛がってやるからな……」


 ティロに進められるまま、ザミテスは酒を飲み干した。


「しかし久しぶりにお前の顔を見たからか、随分と今日の酒は強いな」

「それじゃあ外の風にでも当たりに行きましょうか」


 ティロはふらつくザミテスを支えるようにして外へ出た。


「何だ、何で暗い方に行くんだ?」

「そっちのほうが話しやすいですからね」


 村のはずれに連れ出されていることにザミテスが気がついたとき、既に周囲に人はいなくなっていた。更に酒の酔いとは違った感覚が全身を包み始めていた。


「ティロ、貴様何を……」


 既に呂律が回らなくなっていた。そしてティロの顔を見て「睡眠薬」の存在を思い出したザミテスは背筋が凍り付いた。しかし薬の効力には抗えず、そのまま膝を突いて地面に身体を投げ出した。


「いいね、薬は……最後に頼れるのは、やっぱり薬だ」


 ティロは動かなくなったザミテスを隠してあった荷車に乗せると、レリミアの元へ向かっていった。


なんとかここまでたどり着くことが出来ました。復讐に関する様々なことが水面下で進んでいたようです。

次話、ようやくティロの目的が果たされるときが来ます。

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