表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
執行編 第2話 代表者会議
69/138

遺言


 夕刻、先に馬車へ戻っていたティロと合流してシェールとセラスは潜伏先の街へ帰ることになった。


「行きも帰りも手綱で悪いな」

「いや、俺は客車の方も苦手だから構わない」

「義兄様、手綱取れませんものね」

「やかましいな」


 なんだかんだと言いながらシェールとセラスは馬車に乗り込んだ。


「さあ、とりあえず戻るぞ」


 馬車は夕暮れの街道を走り始めた。


***


 潜伏先へ戻る途中ですっかり日が暮れ、辺りは真っ暗になった。ティロは一度馬車を止め、馬を休ませることにした。セラスが席を外している間に、ティロが客車から降りていたシェールに話しかけてきた。


「あの、ひとつ聞きたいんだが」

「お前から尋ねてくるなんて珍しいな」

「話し合いはどうだったんだ?」

「どうもないぞ。当日の確認をしたまでだ」


 会議では事前打ち合わせの確認以上のものはなく、顔合わせ以外の意味はあまりなかった。


「成功したら、現将軍はやっぱり処刑するしかないのか?」


 急に当たり前のことを尋ねられて、シェールは面食らった。


「今更何を言っているんだ?」

「その、現将軍はしょうがないとして、その息子たちはどうなるのかなと」

「リィアの今までやってきたことを考えたら、当然処刑は免れまい」

「でも、悪いのはダイア・ラコスだろう? 息子たちは……悪くないじゃないか」


 急にティロらしくないことを言い出して、シェールは驚いた。


「何だ、えらく感傷的だな? お前らしくもない」

「悪かったな。でも、爺さんや親父が悪人だからって息子まで殺すのはどうなんだ? 妻や娘は殺さないんだろう?」

「おそらくな。ラコスの名を持つ男児は将来どうなるかわからんからな。その理屈で奴らはエディアでもオルドでも相当な数の処刑を行ったではないか。奴らだけに適用しないということはできない」


 ビスキ侵攻において、リィア軍はビスキを治めていた公爵家のみを拘束した過去があった。その後すぐに公爵家を中心とした反乱が起こり、公爵家ともども全員を粛正したことからエディアやオルドでは初めから王族と周辺の氏族全てを拘束して処刑していた。エディアでは災禍の責任と、オルドでは戦乱の責任としてそれぞれ相当数の粛正が行われたと言う。


「だけどさ、王子はまだ子供のはずだ、子供を殺すなんて」

「兄の方は先日16歳になったそうだ。弟は確か12歳だったかな」

「そんな……でも、何とかならないのか?」

「俺やお前の感傷で今までのリィアの振る舞いがなかったことにできるなら、あるいは誰も処刑なんかされないかもしれないな。それは現実的なことか?」


 反リィア組織に所属したはずのティロが急に王子は助けたいなどを言い出したことで、シェールは苛立った。


「それに、生まれで生き死にがどうこうなるっていうのは仕方のないことだ。俺だってリィアではどう扱われているか知らないが、身の上が明らかになれば立派な処刑対象だ。俺だって何も悪いことはしていないのに、どうして隠れなければならないんだと思うこともなくはない。おそらく、彼らもそういう立場で育ってきているはずだ。お前がどうこう言う資格はない」


 正論でまくし立てられ、ティロは何か言い返そうとしていたが言葉にならないようだった。


「……悪かった、もうこの話はしない。忘れてくれ」


 しばらくの沈黙の後、再びティロが口を開いた。


「そうだ、ひとつ頼みを聞いてくれないか」

「何だよさっきから」

「もしもの話なんだが、例えば反乱が失敗して俺たちが全員処刑されることになったとしてだな」

「何だよ、縁起でも無い話をして」


 いきなり突拍子もない話を始めたティロに、シェールは驚いた。


「例えばだよ。そうでなくても、俺はリィアから亡命してきたし、誘拐してきた娘をどうにかしなきゃいけない」

「そういえばそうだったな……それで?」


 誘拐した娘について何か聞き出せるかも知れないとシェールは身構えた。


「もし俺を処刑するなら、出来れば死体は燃やしたり埋めたりして欲しくないんだ」

「じゃあどうすればいいんだ?」

「見ての通りの閉所恐怖症で、階段も降りられない奴だから埋められるなんて想像しただけで死んだ気分になる。災禍で目の前で燃えていく人をたくさん見たから燃やされるのも嫌だ。だから、そうだな……海にでも捨てて欲しい」


 その言葉の響きに、シェールは強い覚悟を感じた。


「海なのか?」

「川に捨てても、いつか海にたどり着くかな。でも海がいいんだ、俺は」

「変わったことを言うんだな……というか、何故それを俺に言う?」

「言うべき機会が今だから、かな」

「本当に今すぐ死ぬみたいな話しやがって」

「実際そうなるかもしれないし」


 シェールもそのことに異論はなかった。


「結局、お前は何を抱えているんだ?」

「……後でライラに聞いてくれ。俺が全部話していいって言っていたって言えば、多分大丈夫だ」

「あいつは本人から聞けって言ってたぞ」

「今するような話じゃない」


 ティロはあくまでも自分の話をしようとしなかった。


「……わかった」


 セラスが戻ってくるのが見えた。これ以上の追求はできそうになかった。


「何があったか知らんが、よっぽど何かあったんだな」

「それはお互い様だろ」

「まあな」


 戻ってきたセラスを乗せて、馬車は再び走り出した。


(何なんだ一体。もしかしたらこいつは、反リィアが目的じゃないのか? それに、さっきのは……どう考えても遺言じゃないか)


 シェールは客車でティロの言葉を反芻した。「海にでも捨てて欲しい」と後始末のことを頼んできたということは、この先ティロは何らかの事情で死ぬつもりであることを示唆していた。ティロが誘拐してきた娘と反乱の先に一体何が待っているのか、シェールには想像も出来なかった。


反乱の全容が見えたところで新しい登場人物や背景などがバンバン出てきました。特にオルド側の事情がかなり複雑なのですが、今のところは「複雑だなあ」で大丈夫です。

次話、復讐直前のティロとライラの様子が中心になって、久しぶりにレリミアがようやく姿を現します。

よろしければブックマークや評価、感想等よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ