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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
執行編 第1話 反乱準備
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物騒な発想

 反乱の決行予定日まで残り1週間となった。明後日、反乱軍のそれぞれの代表の顔合わせが首都で極秘に開かれる予定となっており、シェールはそれに参加するべく準備をしているところだった。


「行けないだって!?」

「だから、私は行けないのよ」


 突然の発起人ライラからの報告に、シェールはライラに詰め寄っていた。


「でも君がリィアの首都を案内するって話じゃなかったのか!?」

「それなら、ティロにお願いするわ。私よりいろいろ詳しいでしょうし」

「しかし、発起人の君がいなくては話にならないじゃないか!!」


 もともとこの反乱はライラが全て話をまとめているとシェールは思っていた。代表の顔合わせに発起人が行かないのは前代未聞というべき事態である。


「それなら大丈夫よ、多分シャイアさんが何とかしてくれるわ」

「そういうことじゃなくてだな……」

「ともかく、私はクライオに忘れ物したから取りに行かないといけないの。案内がティロじゃ不服?」

「いや、そういうわけではないけれど」


 有無を言わさないライラの姿勢に、シェールは押し切られてしまった。


「じゃあそれで決まり! ティロには話してあるからよろしくね!」

「よろしくね、と言われても……」


 正直なところ、代表者会議そのものに出席したくないシェールはライラの隣に座っていれば何とかなるだろうと思っていたところもあった。明日からの作戦全てが面倒くさくなってきていた。


***


 発起人ライラの不在と案内人が亡命者であるティロということでシェールは言いようのない不安を抱えていた。とにかくまずはセイフと首都に同行する予定のセラスに相談しようと二人の元を訪れると、二人も何か言い合いをしているようだった。


「どうした、何を悩んでいるんだ?」

「実は、セラスの格好が……」

「何ですか、何か問題でもありますか!?」


 そこにはいつもの剣を持つための男装ではなく、髪をきれいに結い上げて村娘のような格好の出で立ちで立ち尽くすセラスの姿があった。


「……いや、新鮮だなと思って」


 シェールがほとんど初めて見るセラスの女らしい姿に戸惑っていると、セラスはスカートを摘まみながら訴えた。


「だから、この格好で帯刀は出来ません!」

「しかし男装したら逆に目立つぞ」


 シェールはセラスの普段の服装を思い浮かべた。剣を扱いやすいようセイフと同じような格好をし、長い銀髪は後ろで束ねていた。


「だから完璧に男装するなら髪の毛を切るかどうかだって」


 セイフは極秘で護衛をするために髪型まで男性のものにしたほうがいいと考えていた。


「嫌ですよ! せっかくここまで伸ばしたんですから!」


 セラスは髪の毛を押さえて、兄に髪を触らせないようにしていた。


「じゃあ他にどうしろって言うんだ!」

「兄様が護衛に付けばいいじゃないですか!」

「お前が行ったほうがいいって言ってるじゃないか!」


 シェールは騒動の一部始終を理解し、ため息をついた。セイフが護衛として同行する話も最初はあったが、いざというときに男女の組み合わせのほうが目立たないのではないかとセイフが提案をして、セラスがシェールに同行することになっていた。


「また兄貴特権ですか! それじゃあ表出ましょう! 負けた方が護衛ってことでいいですね!」

「汚いぞセラス! 自分が勝つってわかって勝負を申し込むのは剣士の風上にも置けない奴だな!」

「これは兄妹喧嘩です! 剣士の決闘なんかじゃないですからね!」

「わかった! もういい表出ろ!」


 騒ぎを聞きつけたのかティロが顔を出した。


「何だ、仮装か?」

「変装って言ってください!」


 ムキになってますます怒るセラスに、セイフとシェールは顔を見合わせた。


「別にどこもおかしいところはないぞ」

「じゃあ何ですか! 普段はおかしいって言うんですか! どうせ私はおかしいですよ! 文句があるなら表で決着付けますよ!」


 ティロはセラスの格好を上から下まで眺めてから手にしている警棒を見て、何があったのかを理解したようだった。


「なるほどな……こういう格好なら、懐にナイフを入れておくとか、スカートの中に鉄の棒を入れておくとか、腕に針を仕込んでおくとか、いろいろ出来るぞ。靴だけはどうしても女物を履くとな……どうにか深めの靴にすれば、小さいナイフを隠しておける」


 ティロはどこかから小さいナイフを取り出した。


「何だって発想が物騒だな」

「元々俺はそういう発想の下で訓練していたからな」

「何するんですか! 私で遊ばないでください!」


 セラスの足首や胸元ににナイフを当て、ティロはどこかに何とか差し込めないかと試しているようだった。


「……大体、要人警護だって上級騎士は建前で本当に暗殺者が動いているなんていうのが来たら特務にも声がかかる。それにな、仕込み武器は男の憧れだろう?」

「私、女なんでよくわかりません!」


 急に仕込み武器だらけにされそうになって、セラスは洋服を守るように押さえた


「仕込みに男も女もあるか。よし、一晩で少しでも使えるようにするぞ。表出ろ」

「ええ、今からやるんですか? この格好で!?」


 洋服を押さえたままセラスが叫んだ。


「当たり前だ、出発まで時間が無いからな。いついかなる時でも備えは怠るもんじゃないぞ」

「でもせっかくのお洋服が……」

「服なんか気にするな、こんな時だけ女ぶるなよ」

「な、何ですって! 女だからと言って甘くみないでください!」


 ティロは再びどこかからナイフを数本取り出し、セラスに一本を預けた。


「よし、まずは投擲の基礎からやるぞ。とりあえずナイフの持ち方からだ。これは剣と少し勝手が違うから難しいぞ」

「やってやろうじゃないですか! 行きますよ!」


 セラスは慣れないスカートを翻しながらティロの後を付いて出て行ってしまった。その様子をセイフとシェールは呆然と見守っていた。


「何だかんだあったが、大分仲良くなってるな」

「存外セラスが懐いているんだ。ここまで遠慮しなくていい相手に出会ったのは初めてなんだろうな」


 セイフが淡々と答えると、その様子を見てシェールがにやりと笑った。


「お前の考えていること、当ててやろうか?」

「すごいですね、人の気持ちがわかるんですか?」

「兄貴として不甲斐ない、だろう?」


 図星を突かれて、セイフはシェールの顔をまじまじと見た。


「……何でわかるんだよ?」

「妹を持つ兄としての立場なら、ちょっとした専門家だからな」

「そういえばそうでしたね、お義兄様」


 見透かされたような態度に少し腹を立てつつも、セイフはあまり悪い気もしなかった。


長かった積怨編で忘れられていそうですが、ここから先はシェールかセラスの視点が頻発します。セラスたちは休暇編以来ですね。

積怨編に比べて、全体的にティロが楽しそうで作者としては何よりです。

次話、リィアの首都で反乱軍の全容、および作戦などが明らかになります。

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