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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
執行編 第1話 反乱準備
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潜入捜査員

 シャスタがクライオの反リィア組織に合流して、クライオに潜伏しているはずの特務隊員を見つけに行くと言ってから数日が経っていた。ティロはシャスタとアイルーロス家から離れた繁華街へ足を運んでいた。


「本当に特務の奴がいたのか?」

「いたんだよ。お前の亡命の件は話していないから、そこはまあ、適当に合わせてくれ」


 ビスキから替え玉としてやってきたシャスタとリノンはこのままティロと行動を共にし、リィアでビスキの反乱軍と合流することになっていた。


「それで、そいつはどうするんだ?」

「そうだな、長期の潜入調査をしているみたいだから俺がビスキにいることは知らないはずだ。そこで、何とかそいつにはリィアへ帰ってもらう」

「そんなの、お前が撤退命令を持っていけばいいだけじゃないのか?」

「いやいや、それじゃ俺の男が廃るってもんだ……せっかくだから会わせたいって思ったんだよ」


 繁華街を抜けて裏通りの人気の無い場所へ二人が向かうと、黒髪で小柄の女性がぽつんと立っていた。


「リオ……?」

「え、嘘、え、何で? どうしてここに?」


 リオと呼ばれて振り向いた彼女は、ティロの姿を見て驚いたようだった。シャスタは街中でリィアの特務として潜入していたリオ・プレーロに接触して、ここで待っているよう指示していたようだった。


「どうだ、待っててよかっただろう?」


 シャスタがにやにやとティロの背中を叩くと、リオは目に涙を浮かべた。


「ええ、泣かなくてもいいじゃん……」

「だって、泣きますよ! 私、もうティロさんは死んだものとばかり思っていたので……」

「勝手に殺すなよ」

「あの時死ぬ死ぬ言ってたのは誰ですか!!」

「う……それを言われると……」


 涙をこぼしながら怒鳴るリオに、ティロは何も言い返せなくなった。


 リオにとって、ティロとシャスタは憧れの先輩だった。特にティロは剣技はもちろん、予備隊に入れられたばかりのリオを励ますなど様々な面においてリオの支えになっていた。しかし、閉所恐怖症を克服できなかったティロは特務へ上がることが出来ずに自殺未遂を図っていたところをシャスタに止められて予備隊に連れ戻された。その後再び自殺を図る恐れがあったため、静養と共に厳しく監視されていた。当時予備隊に所属していたリオもティロの監視を行い、「こんな欠陥品生きてる価値がない」「はやく殺してくれ」などひたすら後ろ向きな妄言を聞き続けていた。リオにとって、それがティロを見た最後になっていた。


「だから私、あの時ティロさんが予備隊から出されて、もう二度と会えないって思ったんですよ。私もいつ死ぬかわからないし、あんなになってひとりぼっちでやっていけるなんて、思っていなかったし……」


 リオの中でティロは、未だに心を深く傷つけた少年でもあった。


「わかった、わかったからそんなに泣かないでくれ。悪かった悪かった、ほら、俺ちゃんと何とか生きてるし、な?」


 ぼろぼろと泣き崩れるリオにティロは声をかけ続けるしかなかった。 


「わかりましたよ、じゃあ許してあげますけど……なんでティロさんがクライオにいるんですか?」


 泣きながら核心を着いてくるリオに、いよいよティロは困ったようだった。


「それはなぁ……ちょっと用事があったんだよ。そうしたらこいつとばったり会って、なあ?」


 何も誤魔化せていないティロに、シャスタが平然と作り話を始める。


「ああ……話すと長くなるが、こいつを特務に戻す話が来ているんだ」

「本当ですか!?」


 シャスタの出任せにリオは素直に驚いた。


「ほら、最近お前を始め、いろんなところに長期の潜入捜査を出しているだろう? それで領内勤務が減って、人手不足なんだ。そこですぐ特務に入れそうな人材を徴収しているところで……この際こいつでも使えれば使おうかって上が判断したんだ」


「へぇ……その話、本当ですか?」

「俺がいつ嘘をついた?」

「大体いつもじゃないですか……でも、ちょっと信用したい嘘なんで信用することにしますね」


 ティロと再会できたことがよっぽど嬉しかったのか、リオは涙を拭いてまっすぐティロとシャスタと向かい合った。


「さすが潜入捜査の一番星。切り替えが早い」


 完全に信用したわけではないことを言外に残した言い方に、シャスタは感心していた。

「それで、撤退命令のついでに連れてきたってことですか?」

「そうそう、それ」


 リオの涙にたじろいだティロだったが、気を取り直してリオに提案した。


「そうだ。撤退命令ついでにちょっと頼みたいことがあるんだけど、リィアに戻ったら付き合ってくれないか?」

「一体何の用ですか?」

「ちょっと俺の今の上司に挨拶して欲しい。それだけだよ」


 ティロはリィアの潜伏先となる村の場所と落ち合う日付をリオに教えた。詳細は落ち合ってからと伝えると、リオは姿を消した。


「お前、リオに何させる気なんだ?」

「だから、俺の上司に会ってもらうだけだって」

「いや、そもそも何でお前が亡命したのか詳しい理由を俺は知らないんだが……」

「シャスタ、俺たち友達だよな?」


 ティロはいきなり笑顔で話を打ち切ろうとした。


「いきなり何を言い出すんだよ」

「別に何も……それよりも俺に何かあったら、その時は頼む」


 シャスタは笑顔の割に言っていることが遺言めいていることが気になった。


「何だよ、その時って」

「その時はその時だよ」


 ふとシャスタは昔「お互いを斬れるか」と尋ねられたことを思い出した。


「……わかった、その時だな」


 シャスタははっきりとした返事ができなかった。


***


 それから順次、反乱軍の精鋭たちは少しずつリィア国内へ移動を始めた。ティロもライラと共にリィア国内の潜伏先へ移動したが、そこにレリミアの姿はなかった。 


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