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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
積怨編 第5話 謀略
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旅行の計画

 季節が巡り、次第に寒さが増してくるとライラは夜の河原へ行くのも一苦労であった。しかしティロは寒空の下、相変わらず河原で過ごしていた。


「旅行?」


 夜の河原でライラは素っ頓狂な声をあげた。


「そう、旅行だ。物理的にトライト家を分断する機会を強制的に作り上げる」


 ティロは持ってきた新聞や雑誌をライラに渡した。暗くてよく見えなかったが、大体は観光地の案内が書かれているようだった。


「ザミテスはもうじき査察旅行で何ヶ月も家を空ける。夫人はいつも婦人会の会合とやらで家に帰ってこない。ノチアは大人の男だから何とかすれば何とかなるとして、問題はあのガキだ」

「確かに、何かあった場合に一番何もなさそうなレリミアがどうにかしにくいわね……」


 トライト家を家族ごと抹殺することを決めたティロだったが、具体的な計画がようやく固まってきたようだった。


「それで、だ。あいつを物理的にトライト家から引き剥がす。来年は成人だから思い切り遊びましょう、とか何とか言って査察旅行中に遠くに連れ出す。あいつが帰ってきたところでレリミアを捕まえてきてあいつがやったことを娘に白状させる。これが大体の筋書きだ」

「それは……レリミアに君の話を聞かせるってこと?」

「それが一番あいつらにはいい。娘を人質にとれば、さすがにあのクズでも何でも喋るんじゃないか?」


 ティロはザミテスに自分の罪について告白させたいと考えているようだった。


「それで、旅行なの?」

「そうだ。どこか観光地へあのガキを飛ばす。楽しい旅行から帰ってきたら待っているのは親父の人殺しの話だからな。ついでに君も監視役として行ってくるといいよ」


 ティロの計画はザミテスとレリミアの精神的な攻撃に関しては恐ろしいまでに練り上げられていた。


「それはいいんだけど……旅費はどこから出るの?」

「その心配はない。副業の成果が出てきたよ」


 ティロはライラの手にリィア紙幣の束を握らせた。トライト家の復讐を決めてから、復讐のために「副業」を頑張っていることをライラは聞いていた。


「とりあえずこれは君への返済分。あとは……そのうち」

「すごい……本当に家一軒買える金額を稼ぐつもり?」

「俺が本気を出せばまだまだこんなもんじゃない。馬に馬車に、服や宝石だって買ってやるよ。旅行もね、なるべくいいところがいい。出来れば遠く、一流観光地を選んでくれ」


 自信たっぷりに話すティロを前に、ライラは複雑な表情でリィア紙幣を見つめた。


***


 その年も無事に明け、恒例の新年の合同稽古も終わった。これが終わる頃には年末から新年にかけての浮かれた雰囲気は成りを潜め、世間は日常を取り戻していく。トライト家で変わらずノチアの稽古にやってきていたティロは早く昼食を終わらせて帰ろうとしていた。


「ティロ、今度の査察旅行に一緒に行かないか?」

「は?」


 ザミテスからの突然の申し出に、思わずティロは立場も忘れてあっけにとられた。査察旅行はもうじき訪れる春先からの数か月にわたっての予定となっていた。帰ってくる頃には夏も盛りの季節になっているはずだった。


「すまない、急な話で驚かせたな。実はこの前の合同稽古の件でもお前の評価が分かれていて、今の三等にしておくのはどうかという声が上がっている」

「別に、僕は上級騎士にしてもらえただけで今の三等でも十分満足ですよ」


 上級騎士は三等から始まり、二等、一等と進むにつれて責任ある仕事を任される。そこから親衛隊に抜擢されたり顧問部へ引き抜かれたりするのが通常の進路であった。


「そうもいかないだろう。無効試合になったとはいえ、ラディオを破ったんだ。今の上級騎士隊は君で持っているようなものだ」

「そんな、僕みたいなものが背負っていけないです」

「そこで、査察旅行だ。一緒にリィア国内の様々な剣技を学んで、それを上級騎士隊でも生かしてもらいたい。帰ってきたら二等への昇進も約束する。どうだ、悪い話でもないだろう?」


 ザミテスの誘いに、どうティロは断るか必死で考えた。


「ええと……そうですね……でも、その間ノチア様の稽古が……」

「ノチアのことなら心配いらない。それよりも自分のことを考えた方がいい」


 なんとかこの場をうまく切り抜けようとしていると、思わぬところから援軍が来た。


「え、ティロも一緒に査察旅行に行っちゃうの?」


 そこで声をあげたのはレリミアだった。


「ああ、いい勉強になるから是非にと思って」

「でも、父様もいなくてティロもいなくなったら寂しいよ!」

「ノチアがいるじゃないか」

「だって兄様、最近お仕事忙しいし、あまり遊んでくれないし……それに、この前の査察旅行だって父様がいなくてすごく寂しかったんだよ! ティロまでいなくなったら、寂しいよ!」


 レリミアがまくし立てている間、ノチアは明後日の方を眺めていた。ザミテスも腕を組んで、しばらく考え込んだ。


「……わかった。査察旅行は別の者を連れていく。ティロ、引き続きノチアの稽古に付き合ってくれ」

「はい、お任せください」


 査察旅行の同行がなくなったことで、ティロは心底安堵していた。


***


 こうしてザミテスは筆頭補佐候補を供に連れて、リィア国内の警備隊詰所及び関所全てを回る査察旅行に出発した。ザミテス不在のトライト家にはノチアの稽古以外にもティロは頻繁に顔を出すようになった。その度にレリミアはティロに絡み、それを見てライラは計画が進んでいることを感じていた。


ティロの内面がどんどん明らかになってきました。そして話は休暇編の最初へ繋がっていきます。

次話、亡命直前のティロとライラの様子です。

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