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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
積怨編 第4話 決意
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そもそもの話

 トライト家に対しての覚悟を決めたティロは精神的に随分と落ち着いたようだった。上の空になることが減り、何事にも余裕を見せるようになった。定期的にライラは夜間ティロと河原で落ち合い、計画の進行や今後のことについて話し合っていた。


「査察旅行の日程が決まった。来年の春から夏にかけて、またはるばると全領土を巡るらしい」


 ティロの復讐計画を手伝うため、ライラがトライト家に女中として潜入していた。「セドナ」という偽名で働きながらライラはトライト家の様子を探り、更に上級騎士隊筆頭の家と言うことでさりげなくリィア軍の機密情報を仕入れることも忘れなかった。


「査察旅行?」

「何だかよくわからないけど、上級騎士隊筆頭は何年かに1回地方の警備隊の詰所を全部回って剣技の基礎が出来てるか確認するみたいな面倒くさい仕事があるんだよ。オルド領が増えてから設置した詰所の数も増えて前回は大変だったって聞いたよ」

「全部!? そんなの大変じゃないの!」


 ライラはかなり驚いたようだった。


「そりゃあね。元々はリィア領だけだったからそうでもなかったんだけど……ビスキやエディアが増えて、更にこの前からオルドが加わったからな。前筆頭はとりあえず全部の詰所を回って、この査察旅行自体の見直しもしたかったみたいだ。だから今回がどんな査察旅行になるかわからないのがひとつ問題なんだけど」


 ティロが査察旅行について考えていると、ライラが聞きにくそうに尋ねた。


「あの……今更なんだけど、そもそも上級騎士って何なの?」


 ライラの質問に、ティロは目を丸くした。


「そうか、普通の人はそういうところあんまり意識しないもんな。そうだな……まず君はそもそも軍隊ってどういう仕組みなのかしっかり理解しているかい?」


 ライラが自信のなさそうな顔をしたので、ティロは説明を始めた。


「どこの国も軍隊って、まずは普通の兵隊、一般兵から始まるんだ。階級は十二等から始まってどんどん上がっていく。一等まで行くと希望や能力なんかによって色んな部に割り振られる。ちなみに士官学校を出ると、この一般兵の部分が省略されるんだ」

「例えばどんな部があるの?」

「現場で指揮を取ったり指示を出したりするのが執行部。現場経験者は大体はここに行く。わかりやすい戦場のお偉方って奴だ。後は後方支援とか物資調達や通信に特化した総務部。現場の奴は机組なんて言うけどな。その上に顧問部とか親衛隊とか、いろいろ。他には諜報なんかをする特務部だな。ここの役割は……まあ、君みたいな奴をとっ捕まえることだ」

「ふぅん……で、上級騎士は?」

「主に首都防衛と要人警護の任として剣技に優れたものが集められた部隊だよ。今は執行部っていう呼び方だけど、少し前までは現場に行くのが騎士で首都防衛が上級騎士、っていう位置づけだったんだ。でも今は剣だけじゃないから……弓兵に砲兵、馬だって乗れない奴も増えてきてるから『騎士』って言葉が廃れて上級騎士の方だけ残ったんだな」

「つまり、ずっと首都にいるってこと?」

「平たく言うとそうかな。首都の詰所のまとめ役とか、政府要人の移動の護衛とか、そんな仕事が多い。現場勤務のないときは鍛錬しまくるっていうのも仕事のひとつ」

「じゃあ剣技バカの君にとっていい所なんじゃないの?」


 ライラはトライト家で初めてティロが剣を本格的に持っているところを見た。それは河原で項垂れている姿を見慣れていたライラにとっては別人と言うべき存在で、ティロにとって剣がどれほど大事なものかをライラは再確認することになった。


「とんでもない。そもそも剣技の腕ってどうやって決まると思う?」

「え、そんなの練習次第なんじゃないの?」


 ライラは剣技の上手下手はよくわからなかった。ただノチアの稽古を見る限りティロがノチアに比べて遙かに上手ということだけは認識していた。


「それはそうなんだけど……剣技について基本の話になると、最終的にものを言うのは経験だ。こればかりはいくら練習してもすぐに身につくものじゃない。つまり、剣技を始めるのが早ければ早いほど有利ってわけ。だから必然的に騎士一家とか上流階級のお坊ちゃんが多くなる。庶民出身の上級騎士ももちろんいるけど、そういう人は執行部とかからの叩き上げだからある程度軍内部での地盤がしっかりしている。まあ信頼があるわけだ」

「じゃあ一般兵からの昇進っていうのは例がないってこと?」

「かなり異例なんだよ。しかも俺は八等だったからな。本当は上級騎士試験っていうのも必要なんだけど、俺は実技は前の筆頭のおかげで免除。筆記試験も大したもんじゃないからほぼ形式だけでさ。だから最初は随分肩身が狭かったよ、今でもかなり狭いけどさ」

「でも、剣技で一番強い人が偉いんじゃないの?」


 ライラの無垢な質問に、ティロは苦笑いを浮かべた。


「さっきも言ったけど、上級騎士っていうのは大体上流階級ばかりだ。それに要人警護なんて仕事をやってると、どうしても昇進を狙う奴ばかりになるんだよ。いろんな要人に顔を覚えてもらって顧問部でいい役職につくとか家の名を上げるとかいい所のお嬢さんと知り合うとかね……剣技だけやりたい奴にはあまり向かないところだよ」


 上級騎士には何かとしがらみが多い、ということをティロは言いたいのだとライラは理解した。しかし、その上で気になることがあった。


「ふぅん……そういう君はどうなの?」

「俺?」

「剣技の腕がすぐ地位に繋がらないのはわかったんだけど、そうしたらどうして自称育ちの悪い君がそんなに強いのかなって」

「そうだな、うーん……」


 ティロは剣技についてライラにどう説明すればいいのか考え始めていた。


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