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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
懐旧編 第4話 二人きりの反乱軍
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辞令

 オルド攻略から半年が過ぎて季節が巡ろうとしていた。ライラに別れを突きつけてしまい元気のなくなっていたティロは急に警備隊長に呼び出された。


「コール村、ですか?」


 ティロの所属する小隊の警備隊長はうんざりした顔をして辞令を手渡した。


「聞いたこともないだろう。オルドの関所業務を吸収して新設された関所警備隊でな、是非にと推薦しておいたところだ。一週間以内に現地に行くように」


 いきなり見たことも聞いたこともない場所へ飛ばされると聞いて、ティロも困惑した。


「あの、どんなところなんですか?」


 警備隊長はよくぞ聞いた、という顔をしてから嬉しそうに話し始めた。


「空気が澄んでいていいところらしいぞ。関所とは名ばかりで人より家畜の方が多いし、麓の村まで山道を歩いて丸一日かかるし、冬は背丈より高く雪が積もるらしい」


 背丈より高く積もる雪、と聞いてもティロは想像も出来なかった。


「何でそんなところに関所があるんですか」


 ティロの疑問も尤もだと、警備隊長は続けた。


「山越えの要所ということで昔はそこそこ賑わったらしいんだが、今の首都の大きな関所が出来てから安全に山を越えられる街道を選ぶ人が増えたらしい。今では登山趣味の物好きくらいしか使わん。つべこべ言わずに山篭りの準備でもしろ」

「でも、急になんで……」


 急な異動にティロも食い下がったが、警備隊長の声は冷たかった。


「この前の作戦で命令違反があったそうじゃないか。それに、普段のことは自分の胸にでも聞いてみるんだな。協調性はない、見た目もだらしない、おまけに予備隊出身の出来損ないの分際で何の文句があるんだ!? 出来損ないなら出来損ないなりにもっと真面目にやれと言ってるんだ!」


 警備隊長の叱責にティロは何も言うことができなかった。


「異論はないな。さっさと雪で頭を冷やしてこい」


 警備隊長はさっさと退けと手で払う仕草をした。ティロは辞令を握りしめて、警備隊長の元を去った。


***


 その日、懲りずにライラが河原へ行くとティロが呆然としていた。


「……よかった、来てくれたんだ」

「そりゃ来るわよ。どうしたの?」


 ティロは気まずそうにライラを見ないようにしていた。


「いや、この前関わるなって言ったから……」

「でも、君みたいな人は大体ああいうときは『構って欲しい』ってことなんだから。あと数回は様子見に来ないと後で怒って刺しに来るんだよ?」


 何か似たような経験があるのか、生々しい事例をライラは突きつけた。


「それに、会えたらやっぱり嬉しいでしょう?」

「う、うん。まぁ……そうかな」


 ライラの変わらず柔らかい態度に、ティロは頷くしかなかった。


「実はさ、しばらくここに来れなくなった」

「どうして?」

「辞令が出たんだ。オルドの山奥で門番しろって」

「山奥で?」

「そう、コール村ってところ。麓の村まで丸一日だって。しかも雪がすごいらしい」

「雪が降るの!? そんなところに!? いつから!?」


 ライラは雪が降ると聞いて目を丸くした。ティロやライラのいたエディアでもリィアでも雪は滅多に降ることがなく、雪を見るなら山岳部のオルドにまで行かなければならない。


「明日には出発しないと間に合わないと思う」

「そんな……でも何で急に?」


 ティロは肩をすくめた。


「要は左遷さ。素行は悪い、命令違反はする、そんな奴は山の中に飛ばすぞってね」

「命令違反なんかしたの?」

「うん、ちょっとね……少し話をしたろ? 100人は斬ったっていうやつ。それでちょっとゴタゴタして、結局俺の命令違反ってことに落ち着いたんだ」

「本当に違反したの?」


 「100人斬った」というのは、オルド攻略の際に実際にティロが上げたはずの戦果であるとライラは聞いていた。しかし全てがなかったことにされ、更に命令違反と見なされて恩休も何もなしという扱いにされていることでティロが荒れていたのをライラは思い出した。


「まさか、やれって言ったことしな俺はやってない。命令違反ってのは……意見の相違って奴だ。連中にとってそういうことにしたかっただけさ。この前の戦争で俺には昇進も報奨もないからな。あ、左遷に合わせて階級は一気に十一等から八等になったか。少し報われたかな」


 自嘲気味に語るティロに、先日ダイア・ラコスの暗殺を口走った経緯を想像してしまいライラは少し悲しくなった。


「……親衛隊になる夢は?」

「諦めてないよ。でも、オルドの山奥じゃなあ……」

「じゃあ、先に私が反乱軍まとめるほうが早いかもね」

「あれ、冗談じゃなかったの?」


 ティロはライラの「二人だけの反政府運動」を戯れの冗談と思っていたようだった。


「本気よ。君がリィアからいなくなるなら、私も反乱軍の仲間集めにビスキやオルドにも行ってみようと思ってるの」

「えぇ!? 本当にやってるの!?」


 ティロは本気で驚いたようだった。


「当たり前でしょ。リィアには今大きいのがふたつあって、昔の政変で追放された一族の一派と、元エディアの上級騎士だった人が武装勢力としてまとめている一派があるみたいね。ビスキは昔から抵抗勢力が活発という話は聞いてるけど、オルドはどうなんだろう。エディアにはとてもじゃないけど、抵抗勢力が生まれる余地はなかったみたい。逆にリィアが全部復興させたから有り難られているなんて話もあるのよ」


 すらすらと革命家のように現状を話し出したライラにティロは呆然とした。


「……随分本格的にやってるんだな、驚いたよ」

「私だって世の中のために何かやってみたいと思ってたから、このくらい貢献しないとね」


 ライラは得意そうに胸を張った。


「それにしてもいい志だな、門番とはえらい違いだ」

「何よ、親衛隊を目指してる人に言われたくないんだけど」

「別に目指してはいないさ、ただなれたらいいなぁってだけ」

「なによそれ、真剣に聞いて損した」

「勝手に話を進めたのはそっちだろう? 俺は関係ないし」

「ふふ、そうかもね。でも、リィアが無くなったら嬉しいでしょ?」


 ライラの言葉に、ティロは一瞬考え込んだようだった。


「まあ……嬉しいかな」

「じゃあその日のために頑張りましょう、お互い」

「う、うん……頑張るか」


 そのまま再会の約束はせず、ティロは翌日コール村へと赴いた。誰もいなくなった河原に時折ライラは足を運んだが、ティロの姿はあるはずもなかった。


「リィアがなくなったら、帰ってくるのかな……」


 反乱軍を組織するのであれば、まずはビスキへ赴いた方がいい。そんな助言を得ていたライラはビスキを目指すことになった。


発起人ライラの本名や詳しい素性については後ほど明らかになると思います。

次話、左遷されたティロに新しい出会いがあります。

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