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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
休暇編 第5話 仲間
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旧友

 ライラに言われたとおり泥だらけの服を着替えたティロが屋敷の外へ出ると、懐かしい声が聞こえた。


「なんだ、相変わらずちっちゃいなお前」


 ティロの目の前に、ライラの連れてきた同行者たちがいた。男女2人組のうち、鳶色の目の男の方がぐいぐいとティロの前に歩み出た。


「どうしたんだよ、何か言えよ」

「いや、夢かなと思って」


 ティロが固まっていると、男が先に動いた。ティロも眼前で素早く男の拳を受け止め、その勢いのまま彼の腕を掴むとねじり倒そうとした。しかし男も素早くティロの腕から逃れると、そのまま数歩後ろに下がった。


「……これでも夢か?」

「いいや、このいきなり目を狙ってくる悪質さ。確かに本人だ。久しぶりだな、シャスタ」


 ティロは取った間合いを詰めると、男に向かって手を差し出した。


「ああ……7年、8年になるのか? まさかまた会えると思わなかった」


 シャスタと呼ばれた男はティロの手をしっかり握り返した。二人の目が潤んでいることは当人たちだけしか知り得なかった。


***


 ライラがビスキから連れてきた客は、ティロと同じく予備隊でそこから特務に入ったというシャスタ・キアンと、ビスキの反リィア勢力で諜報員をしているというリノン・ティクタだった。フォーチュン海岸へ向かう途中でティロとレリミアの替え玉としてライラが反リィア勢力に男女を一名ずつ派遣するように願い出たところ、この2人がやってきた。話をする中でシャスタが元リィア軍で特務に入っていたことを知り、ライラはティロに引き合わせるためにここまで連れてきたのだった。


「しかし、何でお前がここにいるんだ?」

「それはこっちの台詞だ。この裏切り者が」

「どっちが裏切り者だよ……特務はどうしたんだよ、この逃亡者が」


 リィアの特務に所属すれば最後、業務の特性上死ぬまで特務に拘束されることになっていた。生きるか死ぬかの過酷な訓練の先にあるのはまた生死を問うような任務の連続になる。それも含めて、予備隊送りにされることをリィアの子供たちは恐れていた。


「そりゃ逃げるさ。あいつら人使い荒いし、それに、嫌な仕事ばっかりだったからな。リィアに恩義があるわけでもないし、それなら俺は自分の好きに生きていきたい」


 その言葉にティロは意外そうな顔をした。


「へぇ……それで反リィア組織に逃げ込んだのか?」

「ああ、逃げ込むなら全力で身を隠せるところがいいと思って」

「でも何でビスキなんかに」

「俺ビスキ出身だから」

「聞いてねえぞそんな話」

「したこともなかったからな。する必要も無いし」


 シャスタの軽い口調に、ティロは少し昔を思い出しているようだった。


「……まあ、皆そうだったか」


 話の矛先を変えるように、シャスタはティロに向き直った。


「それで、お前はなんで亡命を?」

「ああ、ちょっと個人的な用事ついでに反乱でもしようかと」

「普通逆じゃねえか?」

「そうなんだが……じゃあ個人的な用事は忘れてくれ。俺もリィアに楯突きたいんだ」


 それを聞いて、シャスタも意外そうな顔をした。


「しかしどういう心境の変化だ? お前ほど特務に入りたがってた奴はいなかったじゃないか」

「俺を特務に上げなかったリィアが悪い。それは未だに根に持っている」

「そうか……」


 一瞬沈んだ顔になった二人だったが、シャスタは明るい話題をと金色の髪が揺れるリノンの肩を抱いた。


「そうだ、紹介する。俺の彼女」

「彼女!?」


 リノンはティロに向かって小さく頭を下げた。


「そう、いいだろう。海って言うのはいいな。人と人の距離が縮まる。最高だ」

「そうなのか……」

「今度お前も一緒に海行くか?」

「いや、俺はいいかな……」


 急に黙り込んでしまったティロに、シャスタは話題を実務的なことに戻した。


「そうだ、実はここのことも特務は探っているはずだ。他国内だから大々的な調査はできないが、一人くらいどっかに特務を紛れさせているはずだ」


 クライオにもリィアの特務がいることがわかり、ティロの顔が一瞬曇った。


「そいつを何とかできないのか?」

「もし何とかできるなら、しておきたい。そういうわけで、俺はそいつを探してくる。もし知ってる奴なら、お前がここにいるってわかれば何かと協力してくれるかもしれない」

「そんなにうまく行くかな……」

「安心しろ。俺を誰だと思ってるんだ」

「知ってるよ、誰よりもお前のことはな……」


 しばしの沈黙の後、ティロが思い出したように提案した。


「そうだ、その前にひとつ頼みたいことがあるんだ。何、大したことじゃない。手合わせして欲しい奴がいるんだ。下手すると俺より強いかもしれない」

「お前が言うんだからそいつはよっぽどなんだろうな」


 ティロはセラスとシャスタを引き合わせようとしているようだった。


「勿論、そいつの剣の腕は保証する。あと、個人的に気になることがあるんだが」

「何だ?」

「ちょっとこいつ借りるぜ。少し積もる話がある」


 ティロはリノンに断りシャスタを誰もいない場所へ連れて行くと、急に昔話を始めた。


「ハーシアは?」

「あいつはオルドの時、帰ってこなかった」

「ノットは?」

「あいつは俺の知る限り大丈夫だ、優秀な奴だよ」

「……リオは?」

「どうだろう、あいつは潜入ばかりだから無事かどうかわからない」


 ティロが思い出せるだけの特務へ上がった仲間の名前を次々と挙げると、シャスタは彼らの安否について話した。


「結局、みんなバラバラか……せっかく懐かしい顔に会えたのにな」

「特務に行けなかったお前が言う台詞じゃないな」

「確かに」


 二人は顔を見合わせて笑顔を見せた。


「そうだ、お前には言っておこう。3年くらい前になるかな。訓練に使ってた山あるだろ、沢のそばで17番の認識票を付けた奴が出てきた。足の骨が折れていて、戻るに戻れなかったんだろうって」


 二人の顔からは笑顔が急に消えた。


「……レシオか。見つけてもらえてよかったな」

「全く、くだらないことで死にやがって」

「ああ、特務までもう少しだったのにな」


 再会の喜びと、二度と会えない仲間のことを思ってシャスタは感傷的な気分になった。



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