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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
休暇編 第3話 残党軍
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復讐なんてやめとけ

 ティロに誘われるまま、セラスは夜中に屋敷の中庭で鍛錬に付き合わされることになった。月明かりで剣先を見切ることは難しく、ティロの言うとおり夜目を鍛えることは大事かも知れないとセラスは思い始めた。


「そう言えば昼間言い忘れたけど、お前天才だな」

「貴様に褒められても嬉しくもないが」


 模擬刀を持って対峙しながら、ティロはセラスを褒める。


「そうか? 一応リィアの上級騎士では一番の自信はあるけどな。非公式だけど」

「それほどの使い手なら名前を聞いたことがあってもおかしくないはずだが」


 各国の剣技に秀でたものの話をセラスも聞いたことはあったが、今のリィアの上級騎士でティロ・キアンという者が圧倒的な実力を持っているなんていう話は一切聞いたことがなかった。


「しょうがないだろ、俺自体が……いや、この話はやめよう」

「また長くなるのか?」


 一度模擬刀を下げて、ティロがセラスに尋ねる。


「そりゃあ、な。それよりそろそろ俺にも質問させてくれよ」

「何だ?」


 セラスは未だにティロを警戒していた。

 

「その……オルドでは女でも普通に剣技をするのか?」

「あぁ……不思議に思われても仕方ないな。勿論特殊なのが私だけで、他の女性は剣など持たない」

「そうか、よかった」

「何が?」

「お前みたいなのがゴロゴロいるのかと思うと少し怖くてな」

「私みたいなのがたくさんいてたまるか」


 気がつけば警戒こそしているが、セラスはティロに対して親近感を覚えていた。


「そうだ、俺も今までいろんな奴と剣を合わせてきたが……お前は相当強いというか繊細というか、とにかく才能がある。それに他の奴にはない覚悟も備わってる。一流にならないわけがない」


 ほぼ初めて会ったような男に素直に褒められて、セラスはくすぐったいような不思議な気分になった。


「たった数度剣を合わせただけで、そこまで言うか?」

「言えるんだよ俺は、超一流だからな」

「自分のことなら何とでも言えるだろう?」

「でもそんだけ剣を使いこなせてるんだから……わかるだろ?」


 セラスはティロの言いたいことがわかった。主観だろうが客観だろうが、ティロの剣技の腕はどこから見ても超一流としか呼ぶことのできないものであった。


「悔しいが……貴様の実力は認めざるを得ないな」

「何だよ、もっと褒めろよ」

「何故貴様を褒めなきゃならんのだ」

「珍しいんだぞ、俺の本気をちゃんと拾える奴は」

「そうなのか?」


 きょとんとするセラスに、ティロはきっぱりと言い放った。


「あぁ、そうか。お前に足りないのは経験だな」

「何だって?」

「オルド陥落からもう6年、こんな狭い世界で決まった奴らとずっと鍛錬して、それと今までも多分『女の道楽』とか言って本気で相手にされないことも多かっただろう。だからお前は自分の実力がわかってない」

「……何が言いたい?」

「つまり、俺が鍛えてやるってこと」


 ティロは、昼間精鋭たちをなぎ倒した初撃をセラスに繰り出した。セラスがすぐさま防御に入り、数度切り結ぶと模擬刀を降ろした。


「大体、これ止められる奴はなかなかいないんだ。お前の兄さんもなかなかやるな」

「こんな剣撃見たこともないんだが、一体どこの型なんだ?」


 何度も見ていたため、セラスも試合時に咄嗟に真似をしてみたが改めて受け止めると、自分の真似が不完全であったことが恥ずかしくなってくる。


「これか? これは俺の考えた型」

「型なんか自分で考えられるのか?」

「寝ないで考えたんだよ。暇だからな」

「暇で出来る話でもあるまい?」

「いいんだよ、俺が特殊なだけだから」


 ティロはセラスに向き直った。


「こいつを習得したかったら、リィアの型を覚えるんだな。オルドやクライオよりリィアの方が一直線で力重視の型になる。これからリィアの奴と斬り結ぶならリィアの型を覚えておいた方が絶対有利だ」

「そんなこと、教えてくれるのか?」

「せっかく亡命してきたんだ、少しは役に立たないと」


 言うなりティロはセラスに斬りかかった。


「お前は何も言わなくても実戦で十分だろ」

「貴様、私を何だと思ってる!?」

「言わせるな、天才剣士が」


 セラスは一瞬心臓が高鳴ったのを感じた。末っ子としていつも兄に遠慮をして、実力を遺憾なく発揮することも出来ずにいた。『私よりも強い男』というのは恋愛においてというより、セラスの剣士としての高みを目指す上で必要なものであった。遠慮なく撃ち込んで来るティロの一撃一撃が重く、セラスは後ずさりしてしまう。


「こんなんじゃないだろ!?」

「まだまだ!」


 セラスは剣を持って、これほど嬉しいと感じたことはなかった。全力で斬りかかっても応えてくれる存在は今のところセラスにはなかった。剣豪と呼ばれた父や長兄たちとは本気で試合をする前に死別してしまった。セイフも人並み外れていることは外れているが、セラスの域ではなかった。


(何でこんなに強い人が、無名で亡命までする必要がある!?)


 疑問は尽きなかったが、セラスは目の前の剣技に集中することにした。


***


 しばらく本気の撃ち合いを続けた後、二人はへとへとになって座り込んでいた。


「あー、流石に疲れた……」

「疲れたって……これで今夜は眠れるんですか?」

「さてね。眠れるといいんだけどなあ……お前はもう寝ろ」


 ティロは立ち上がると、模擬刀をセラスに渡して先に屋敷の方へ歩いて行ってしまった。


「寝ろって……あの」

「何だ?」


 セラスはいろんな疑問をぶつけたかったが、今夜はもう何も考えたくなかった。


「いえ、あの……おやすみなさい」

「ああ、おやすみ……そうだ」


 ティロは振り返ってセラスをじっと見た。


「そう言えばお前、昼間同胞の仇とか言ってたよな。そういうのあんまりよくない。力むくらいなら復讐なんてやめとけ」

「なっ、何だって!?」

「剣は己のためだけに握っとけってこと、じゃあな」


 ティロは屋敷の方へと消えていった。中庭に残されたセラスは模擬刀を二本握りしめて呆然とした。


(一体何なの……? あの剣技の腕は間違いなく本物で、多分剣を受ける限り、剣技に関してはかなり真面目な人。それなのに、どうして亡命だの人さらいだのしてきたの……?)


「そうだ、あの人に勝たないと。どうすれば勝てるんだろう……」


 このままではまたセイフにからかわれると思い、セラスは中庭で眠れぬ夜を過ごすことになった。


この世界では成人年齢が16歳になっています。

ちなみにこの時点でティロは24歳、シェールが27歳、作中出てきましたがセラスは19歳です。

次話、ティロやセラスの過去が少し明らかになります。

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