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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
有明編 第3話 エディア王家
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家系図

 ステラが資料館の奥へ戻った後、フォルスとセラスは多くの資料を前に呆然としていた。


「今の話……どう?」


 フォルスはステラからアルセイド王子の話を聞いた衝撃が未だに身体の中を駆け巡っているようだった。


「どうと言われましても……気になるところはものすごくあるのですが……これだけだと何ともですね……」


 セラスも何かを感じたのか、しきりに首を傾げていた。


「でも、もしこの子があの人だとして、とんでもないことになりませんか?」


 フォルスもセラスもステラから聞いた「アルセイド王子と一緒に港から帰ってきた従兄弟」が尋ね人の条件にかなり合致すると考えた。


「そうですね……とりあえず姉がいて、騎士一家出身ということで剣技の素養もあって、詳細に災禍時の港について語れる10歳前後の男児……更に姉弟そろって行方不明、そして何故か災禍以前の話を全くしない説明もついちゃうんですよね」


 セラスが整理した情報に付け加えるように新しく得た情報をフォルスは並べた。


「そうなんですよ。語らないのではなく、語れなかったんですよ。語れるわけがないですよ、王族の末裔ですからね。もし正体がリィア軍にバレたら有無を言わさず処刑です。そして説明もつくんですよ、何であの道を夜中に歩いていたのかっていうのも……おそらくお姉さんと合流できて、リィア軍に見つからないように一生懸命首都から逃げていたに違いないんです」


 次々と繋がっていく出来事にフォルスは震えていた。ゼノスが言っていた「癖のようなもの」やシャスタが言う「絶対エディアで剣技をやっていた」というものに加えて、リィア軍内では怪我をしたはずの左手で剣を握っていたことも必死でエディアの騎士一家の出身である正体を隠していたのではという推測に繋がっていた。そう考えれば、クライオやリィア出奔後に本来の利き腕である右手で剣を握っていたことに説明がついた。


「何だかもう決まりみたいな感じですけど、ひとつも証拠はないですからね。ただ似たような条件の男児が見つかったというだけで……」


 セラスはあくまでも騎士一家の行方不明の男児と例のティロ・キアンが同一人物であると決めるのは早計であると思っていた。


「もうひとつ、説明がつくことがあるんです」

「これだけの情報で、何がわかるんですか?」


 セラスはステラの話からこれ以上のことがわかるとは思わなかった。


「僕の中で一番謎だったのが、何故僕を助けたのかってことだったんです。だって反乱を企てた人が王子を助けるなんてあり得ないでしょう。そうでなくても全く理由がわからない。それに何度聞いても『何もしてないガキが死ぬのを見るのが気分悪い』しか言わなくて……」


 フォルスは震える声で続けた。


「でも、さっきの話を聞いて何だかわかった気がするんです。もしその子が生きていたら、ずっと後悔し続けるはずなんです。何故あの時城に行ってしまったのかって。王子様は自分が殺したようなものだって、思うんじゃないですか?」


 フォルスはステラの後悔を背負うべき人物である彼に思いを馳せていた。尋ね人の証言通り、死ぬ思いで港から脱出して助けたと思った王子を結果としては殺すことになった彼の心情は計り知れないものだった。


「それであなたを逃がした、って言うんですか?」

「確証はないけど……個人的な動機としては十分ですよね?」


 フォルスはかつてティロと呼ばれていた同行人を思い出していた。どちらかと言えば粗野で剣を持たせれば誰にも負けることがなく、剣がなくても喧嘩は異様に強かった。その反面いつも薬をどう工面するかを考えては売りさばくことばかり考えていた彼が本当のところは何を考えていたのかは語ることがなく、何かを尋ねれば「他人の考えなんか簡単にわかってたまるか」としか言わなかった。今思えば非常に後ろめたい何かが存在していたのだと言われると納得ができた。


「そう言えばそうですけど……とりあえず、家系図で名前くらい確認してみましょうよ。せっかく資料がこれだけあるんですから」


 セラスに促され、フォルスは資料棚から王家の家系図を探した。王家の歴史についてまとめてある分厚い資料をしばらくめくり、該当の箇所を見つけた瞬間非常に険しい顔になった。


「……どうしたんですか?」


 しばらく固まっているフォルスを見て、セラスが不審に思った。


「多分、いや絶対この子ですよ。間違いないです」


 表情を変えることなく断言するフォルスに、セラスはますます訝しんだ。


「何で家系図だけ見てそう思うんですか?」

「だって……見てみますか?」


 フォルスが寄越した家系図を覗き込んで、セラスも息を飲んだ。


「……なるほど……って、待ってください! 何ですか!? これは!?」

「家系図ですよ?」

「そんなの見ればわかります! あぁ、なんてことなの! 私としたことが! なんて……!!」


 急に取り乱し始めるセラスを横に、フォルスはしみじみと家系図を眺めた。


「なるほどね、そりゃ余計名乗れるわけがない。それにしても……何がしたかったんでしょう、あの人は……」


 家系図には王から数えて二親等までの王族と呼ばれる範囲の者しか書かれていなかったが、アリア王女の結婚相手には補足がついていた。


 マラキア女王の妹で、災禍の5年前に没したアリア王女が結婚したのは剣聖デイノ・カランの息子セイリオ・カラン。

 その二人の子供のうちの一人が災禍で8歳で亡くなったとされているジェイド・カラン・エディア。

 そして同じく15歳で亡くなったとされている姉の名前はライラ・カラン・エディアであった。


そういうわけで、彼の本名と思われる名前が登場しました。

次話、当のジェイド・カラン・エディアについてゆかりの地を訪ねて探っていきます。

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