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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
探求編 第5話 それ以前
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問題の整理

 一通りの話を聞き終え、フォルスはティロに関する話が思った以上にややこしかったことに頭を悩ませていた。


「全く……なんでこんなに訳がわからないんですか、あの人は!!」

「俺に怒るなよ……だから嫌だったんだよ、あいつに触るのは」


 シェールも当初の想定より様々な疑問や矛盾が生じたことに驚いていた。


「とりあえず、話を聞いてわかったことを整理するぞ」

「結局何もわからなかったじゃないですか」

「だから、わからなかったことを整理するんだ。それで何もわからなかったら、もうこの話はおしまいだ、わかったな!?」


 シェールはさっさと「ティロ・キアンという人物は結局よくわからない」という結論を出したかった。


「じゃあ、わからない点を時系列で確かめていくぞ。まず出身、ここからわからない」

「結局出身はビスキなんですか? エディアなんですか?」

「知らん。あいつの証言を信じるならエディアなんだが、客観的な証拠はビスキだと言っている」


 フォルスはそこからひとつの仮説を立てた。


「例えば革命孤児としてエディアにいて災禍にあった可能性は?」

「その可能性は低いだろうな。エディアには当時主立った革命思想の集団は来ていなかったし、オルドもそうだが港だの関所だの人の流れが激しい場所では革命思想というのは広がりにくい。保守的な価値観のクライオもそうだな。だから鉱山とか広い農地があるビスキ、工業化が進んだリィアで革命思想が進んだわけだ」


 フォルスの返答を待たず、シェールはさっさと話を進める。


「次に、利き手の問題だ。予備隊と上級騎士は左で剣を持っていたらしいが、それ以降は右手で持っている。更にライラの証言を信じるならあいつは左腕を怪我している。これも意味がわからない」

「あの……その、ライラさんからもう一度話って聞けないんですか?」


 フォルスは何故シェールが当のライラから再度話を聞かないのかを不思議に思っていた。


「こいつは無理だ。自分のせいであいつが死んだと思ったんだろうな、当時は本当に後追いしかねない状況だった。最近ようやく落ち着いてきたんだ、やっと寝た子を起こしたくない」

「ということは、今でも連絡が取れる状況なんですね?」


 フォルスは単独でもライラの元に行こうとしているようだった。


「ダメだ。これ以上失踪だの人死にだのを起こしてどうするんだ」

「そうなる保証はありませんよ」

「ダメだ、これは何と言われようとダメだ」


 シェールは頑なにフォルスとライラを接触させようとはしなかった。


「わかりましたよ……命に関わるって言うなら仕方ないですね」


 フォルスは渋々諦めたようだったが、そんなフォルスを見てシェールは更なる疑問をフォルスにぶつけた。


「……それで、大元の疑問なんだが」

「まだ大元があるっていうんですか?」

「あいつのを身元を調べて結論を出して、それで一体何の意味があるんだ?」

「それは結論が出てみないとわかりません」


 フォルスは即答したが、どうしてもシェールは解せなかった。


「だってどう考えてもおかしいだろう! 奴が消えたのはリィアじゃないんだから、どれだけ奴の過去だの動機だの探ったところで出てくる訳じゃないんだぞ!」

「確かにそうですね……」

「そうだろう!? それじゃこの話はここで」


 フォルスは黙って二本指を突きつけた。


「……まだ何かあるっていうのか?」 

「今、ひとつどうしても確かめたいことがあるんです。結局ビスキなのかエディアなのかだけは、はっきりさせましょうよ」

「確かにこれだけ食い違いだの矛盾だのを見てくると俺も気になるけどな……それを知ったところでお前は一体何がしたいんだ?」


 フォルスはじっとシェールを見据えて続けた。


「僕はただあの人にもう一度会って、それで話をしないといけないんです。そのためにあの人が何者なのかを調べておく必要があるんです」

「それだけのために何でそんなに必死に……わかった、それでどうやって調べるんだ?」


 フォルスの視線が冷たくなったことでシェールは諦めて話を聞くことにした。


「資料に寄ると、警備隊員を刺して捕まったってことですよね? 僕このビスキの警備詰所に行ってみます。何かわかるかもしれないですから」

「もう20年も前のことだぞ、覚えている奴なんかいるものか」


 急にビスキに行くと言いだしたフォルスにシェールは呆れ返った。


「わからないですよ、とりあえず行ってみて、それから考えます」

「何もわからないと思うぞ」

「それこそわからないですよ」

「大体、元特務が責任もって探すって言ってるんだ、大人しく待っていろ」

「でも、本人がしらばっくれる可能性の方が高いですよね?」

「……わかった、好きにしろ」


 言い出しては聞かないとシェールは諦めた。


「……それより僕、新しい通行証が欲しいんですけど」

「いいだろ、その出来損ないの奴で……わかった、3日待て。キオン・スキロスで新しく作ってやるよ」


 フォルスの持っていた出来の悪い偽造の通行証を見て、弱みを握られている他にシェールは思うところがあった。


「3日? 思ったより時間がかかるんですね」

「かかるに決まってるだろ。正式なの作ってやるんだ、俺を誰だと思ってるんだ?」


 シェールはフォンティーアと相談してフォルスの正式な身分証を作ってもらおうと考えていた。


「それより、ビスキで調べ物をするならちゃんとした身分の付き添いが必要だ」

「子供じゃないんですから、僕一人で大丈夫ですよ」

「そうじゃなくて、信用がないんだよ。しかも警備詰所の過去の資料だなんて読みたがる怪しい男なんてろくなもんじゃないだろう?」


 フォルスはふと自分の身の上を思い出した。今まで久しぶりにフォルス・リィア・ラコスとして接してもらっていたことに気を良くしていたが、本来の王子である自分は死んだことになっていて、今ここにいるのは正式には身元不明の一般人でしかなかった。


「……そう言えば、そうでしたね」

「お前は今、正式には身分不詳の浮浪者なんだからな。そのことを忘れるな」

「全く、一度死ぬって本当に不便ですね」

「いいじゃないか、一度は生きているんだから」


 他人事のようなシェールの言い草がフォルスの癇に触った。


「勝手に僕を殺しておいて、よくそういうことが言えますね」

「別に、書類で死んだからって今生きてるんだからいいじゃないか。それに今は俺たちがお前の面倒見ているし死ぬ前の身元も知ってそれで向かい合っている。何も不満に思うことなんてないだろう」

「何だよ、人の気も知らないで偉そうに」

「他人がどう思ってるかなんてわかるわけないだろう、知って欲しいならちゃんと話せ。そして正直に寂しいから構って欲しいって言え。俺は面倒くさいから構わないぞ」


 するとフォルスは急に黙り込んだ。


「何だ、何か文句でもあるのか?」

「いえ、何でもないです。もういいです……どうせわかるわけないんだから」


 これ以上顔を合わせていたくないのか、フォルスは部屋から出て行ってしまった。


「わかるわけない、か。俺だって元王子の身分なんか知らないし、知ろうとも思わないな」


 フォルスと向き合うとき、シェールはどことなく寂しい気分になっていた。その気分の正体が何なのかはわかっていたが、あまり構いたいものではなかった。


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