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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
探求編 第4話 特務予備隊時代
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言えない理由

 予備隊でのティロについて語り終えたシャスタは、ティロのトライト家への凶行について質問した。


「話によるとあいつが上級騎士の前筆頭の不祥事に絡んでいて、しかもその後の筆頭を家族ごと殺したっていうが、一体どういうことなんだ?」

「それもよくわからないからこうやって関係者に話を聞いてるんじゃないか……それで、筆頭殺しに直接関与したって話は?」


 シェールに促されて、リオは当時のことを思い出しながら語り出した。


「あの日、呼び出された私にあの人は査察旅行から帰ってきた上級騎士筆頭から付き添いの供を一晩引き剥がして欲しいってお願いされたんです。その間に前筆頭の不祥事について問い糾すからと言われて、確かに前筆頭の不祥事は本当の話だったのでつい信じてしまって……」

「それで、その付き添いはどうなったんだ?」

「何でも筆頭の奥さんが急死して急いで先に帰ったから、今日は一晩のんびりして帰るっていうので朝まで口実つけて付き合ってあげただけです。次の日何も知らないで首都に向かっていきましたよ。結局何も知らされていないのですから、びっくりしたでしょうね」


 ザミテスの妻が変死したことは事実であったため、シェールはティロの巧みな誘導に内心舌を巻いた。


「つまり、あいつがザミテスを殺すために供を引き剥がす役目を押しつけられたわけだな。その後はどうしたんだ?」


 リオは当時のことを話し始める。


「その後、夜が明けてお供の上級騎士を首都に返しても何もなくて……そうこうしているうちに村が騒がしくなって」

「あいつがいなくなって皆で大騒ぎしてたんだよな」


 シャスタはティロがいなくなったと大騒ぎしていたライラを思い出していた。


「ええ、もうどうなっているのかよくわからなくて……とにかく私がこの人から聞いた情報が全面的に信用できなかったんで、どうしてそんな嘘をつく必要があるのかと裏をとってもらっていたんです。その知らせもなかなか来なくて焦っていたんですけど……」


 リオは恨めしそうにシャスタを見た。


「だからもうその件は謝っただろ! 別に騙す気も貶める気もなかったんだ!」

「それでも嘘は嘘ですよ……結局、その知らせはあの人に倒されて半日以上道の隅に転がっていたんですけど」

「それがあいつか……ちなみに、あいつは何者なんだ?」


 シェールはリオの説明を聞いてようやくザミテス殺しに関してあの日何があったのかが見えてきた。シャスタはひとつため息をついて話し始める。


「ノット・ラリア。当時の特務で一番の剣の使い手だ。剣以外もかなり使える奴で、こいつを簡単に倒すのは例えティロ・キアンでもあり得ない。そのはずだったんだが……」

「あいつはどうやってそいつを伸していったんだ?」

「聞いた話だが、やっぱりまともに戦っても勝てる相手じゃないと思っていたら向こうから降参を願い出て、その後何かの怪しい薬で無理矢理眠らされていたらしい」

「また薬か……なんなんだあいつは」


 出てくる新しい証言に頻繁に薬が登場することでシェールは頭を抱えた。


「俺もまさかあいつがそこまで変な薬に手を出していたなんて信じられない。確かに睡眠薬は懲罰房食らうくらい欲しがっていたんだけど……それにしても……」


 シャスタは気絶特訓を繰り返すティロを思い出していた。どれだけ疲れ果てても剣を握ったまま長くて数時間意識を失う程度の睡眠しか取れていなかったティロが薬を欲しがる気持ちはわからないでもなかった。


「それより、そろそろどうしてあの人が上級騎士筆頭を殺す必要があったのか教えてもらっていいですか?」


 リオの質問にフォルスとシェールは顔を見合わせた。


「トライト家については、一応の理由がわかってるんですがちょっと……」

「またあれを話すのか……」


 シェールはティロが自称災禍孤児であり、災禍後に姉と埋められた話を再度元特務に聞かせた。シャスタとリオは神妙な顔で聞き、やはり深いため息をついた。


「そうか、生き埋めか……それで閉所恐怖症になっちまったのか。それは仕方ないな、生き埋めだもんな」

「しかもお姉さんを目の前で殺されて……言えないですよね」

「予備隊の中でもそこまで酷いのはあんまりいないよな……そうだろうな。そりゃ言えないな」


 シャスタとリオは顔を見合わせ、暗い顔をした。


「なんですか、何かわかったんですか?」


 何かを察したような元特務にフォルスは尋ねた。


「わかるというか、そうだろうなっていう直感なんだが……多分、あいつ持っていかれたの左腕だけじゃないだろう?」

「どういうことですか?」


 フォルスはシャスタの言うことがよくわからなかった。


「つまり、なんて言うか……お姉さんがそのリィア兵たちに襲われたってことは、そういう目にあっているわけで、あいつも多分無事じゃなかっただろうなってことだよ、可哀想だけどな」


 シェールはシャスタの言おうとしていることがわかったようだった。


「……言えないな、確かに」

「え、何でですか?」


 一人だけ状況がよくわからないフォルスがきょとんとした。


「あんまり言いたくないんだが……男が女子供を襲う理由なんてひとつだ。それでわかるか?」

「うん、まあ……でも何で言えないんですか?」

「そういう度を超えた嫌なことってのはな、口に出すのも嫌なんだよ。誰かに話したり思い出したりするだけで気分が悪くなるし、もし相手の理解が得られなかったことを考えるとそれだけで言いたくなくなる」

「そういうものなんですか……?」


 納得がいかないフォルスにシャスタの声はどんどん冷たくなっていった。


「俺の感覚だと、予備隊にいた奴らの9割かそれ以上がそんな感じの経験してる。誰も何も言わないけど、どうせそんな奴らだっていうのがある意味居心地いいんだ。お互いそんなことだろうとは思っているんだけどな、それでも一生懸命取り繕ってるんだよ」

「9割かそれ以上って」

「その話はここで終わろうか。後は自分で調べな、王子様」


 それ以上の話をすることをシャスタは許さなかった。フォルスはシャスタの一瞬敵意をむき出しにした声に小さくなった。リオとシェールは互いに顔を見合わせ、どう話を続けるかを探り合った。


「それと、あいつエディアの出身だったんだな」


 気まずい空気を変えるように突然シャスタが切り出した。


「やっぱり知らなかったのか?」


 シェールも話をティロの出身問題に移したかった。


「出身については特に話をしたことがなかったな。エディアと言えば……」

「何かありました?」


 シャスタはティロとエディアを結びつける話を何か知っているようだった。


「一度、エディア出身の生意気な奴が入ってきたことがあったんだが、普段そんなに怒らないあいつがそいつのことを異様にボッコボコにしてたんだ。災禍孤児だからってやたらと同情して欲しがってる胸糞悪い奴だったんだが、そのときは『剣技で俺に敵う者なんかいない』みたいな挑発に乗ってやったんだと思っていたんだ……やっぱりあいつ剣技やってるよな、しかもエディアで」


 今までの話からシャスタは確信を持って断言した。


「でも、そう考えるとおかしな点がたくさんあるのは事実だな……」

「ビスキで捕まったことですか?」

「いいや、もっとある。細かいところで、かなりたくさんな」


 これ以上の矛盾点が出てくるのかとフォルスとシェールは途方もない気分になった。



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