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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
探求編 第4話 特務予備隊時代
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夜中の世間話

 元特務のリオは予備隊時代のティロについて語り始めた。


「私も予備隊に入れられたばかりの頃は眠れなくて……恥ずかしいけど毎晩泣いてたの。10歳までは男子も女子も同じ部屋で寝てるんだけど、その時『眠れないなら一緒に外に行こう』って連れ出してくれて、いろいろ話しかけてくれたの」

「……なんて言うか、意外な一面だな」


 具体的な話を聞いて、シェールはティロが「いい奴」と思われることを理解した。


「私も最初は『なんて優しい人なんだろう』って思ってたんだけど、今考えるとただの退屈しのぎ程度だったんじゃないかって思うの」

「それだけですかね?」


 暗にフォルスは下心があったのではないかと疑った。


「子供の頃はよくわからなかったけど、今思うとすごく寂しかったんじゃないですかね。私も、あの人も。だから一緒にいても大丈夫そうな人を見つけて一生懸命そばにいてもらおうとしていたような気がする。そのくらい、眠れないっていうのは辛いことだから」


 リオの話を聞いて、シャスタとシェールは思い当たるところがあるのか黙り込んでしまった。


「リオさんは今眠れてるんですか?」


 フォルスが尋ねて、リオはその先を話し始めた。


「私が眠れなかったのは本当に予備隊に入れられた前後くらいで……予備隊の生活に慣れたら自然と眠れるようになったの。だからいつまでもいつまでも不眠状態が続いているこの人はどうして眠れないんだろうって心配になっちゃって。平気で3日とか寝てませんでしたよね」

「そうだ、睡眠薬もらっても寝付くのは最初だけで、結局夜中に目が覚めてどっか行くんだけどな」


 シャスタもティロの不眠状態について思い出したことを話し始めた。


「夜中にどこに行くんですか?」

「大体は外で空を見ているか、図書室に潜り込んで勝手に本を読んだりしていた。そのうち勝手に修練場に潜り込んで一人で鍛錬して……あいつは気絶特訓って呼んでいたな」


 不穏な単語にフォルスは不安になった。

 

「何ですか、それ」

「眠れないからって夜通し一人で鍛錬しまくって疲れ果てて運が良ければ気絶で眠れるっていう正気では思いつかない眠り方だな。『今日は気絶してくる』って外に行くからな……特務のほうでもその不眠をなんとかしないとっていろいろやってくれたみたいなんだが、どうにもダメだったらしくて。最終的に睡眠薬を3日に一回処方するっていうルールに落ち着いたんだ……だけどな」


 シャスタが何かを思い出したようだった。


「何かあったんですか?」

「今思い出したんだが、あいつ1回懲罰房入ってたな」

「え、ロッカー閉じ込められるの我慢したのに!?」


 フォルスが驚きの声をあげた。


「それがな……睡眠薬欲しくて医務室からちょろまかしたのがバレて、流石に温情なしの実刑判決だった」

「バカだな」


 思いの外くだらない理由にシェールは呆れ返った。


「期間は普通3日間とかなんだが、そこは30分に負けてもらったらしいけど……その後3日くらい寝込んでたから実質3日の実刑だな」

「まあでも気持ちはわかりますよ。3日に一回しか眠れないってかなりキツイですし、つい魔が差すのも……」


 リオも不眠を抱えていた経験からティロに同情した。


「そう言えばリオさん、先程よく喋ってたって言いましたけど、何か身元に繋がる話ってなかったですか?」


 フォルスはリオに夜中に何を話していたのかを思いだしてもらうことにした。


「そうですね……何を話したかはあんまり覚えてないんですけど。大体は訓練の話とか、夜だから星とか月の話とか、置いてある剣豪小説の話とかですかね。あの人剣が好きだから……何だかんだとずっと喋ってましたけど、そう言えば自分の話はしなかったですね。予備隊に入る子供なんてみんなそんなものだと思っていたので特に違和感はなかったんですけど」


 リオの思い出話にシャスタも話し始めた。


「剣豪小説か、懐かしいな。俺は置いてあった有名な奴を少し読んだくらいだけど、あいつは何だかよく読んでたな。何でも剣技の研究だって言ってたけど、単純に眠れなくて暇だったんだろうな」

「そうそう……何でしたっけ。剣技を極める者、って言うのをよく言った時期ありましたね」

「ああ、何だっけ……好きだったよな、それ」

「確か何かの小説に書いてあった文句ですよね。私もよくは読んだことないのでよくわからないんですけど……」


 シェールの脳裏に「義兄様も是非読んでください!」と数冊本を押しつけてくる天才剣士の姿が思い浮かんだ。


「そう言えば……予備隊では女子も剣技をやるのか?」

「一応やりますよ。それより、何故そんなことを?」


 リオはきょとんとシェールを見た。


「ああ、うちにも剣技を極めんとする女子がいるから、良ければ相手になってやってもらえると泣いて喜ぶと思ってな」

「そういうことでしたらお相手しますけど……その辺の上級騎士くらいの腕しかないですがよろしいですか?」

「いいんじゃないか?」

「僕は『その辺の上級騎士』っていうのが少し引っかかるんですけど……」


 フォルスは予備隊及び特務という場所の特殊性に改めて目眩がする気分になった。


「こんなもんか、昔のあいつについて話せることって」

「そうですね、そもそも自分の話を全然しない人でしたからね。大体剣の話ばっかりで……本当は剣が本体なのかもしれないですね」


 シェールもフォルスも自分の知っているティロ・キアンの印象と予備隊でのティロの印象がかなり違うことを感じていた。そしてゼノスから聞いた上級騎士でのティロともあまり一致するものではなかった。


「それで、何であいつがあれだけのことを仕出かしたんだ?」


 シャスタはシェールとフォルスを探るように見た。いよいよティロについての話題はトライト家の件について移ろうとしていた。


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