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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
探求編 第4話 特務予備隊時代
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ロッカー事件

 ティロの話をする前に、シャスタは予備隊が置かれていた意味について語り始めた。


「そもそも特務ってのは、誰もやりたがらない汚い仕事、命を伴うかなり危険な仕事が多い。そんな仕事を誰にやらせるかと言えば、まずは死んでも誰かが困らない奴。そしてどんなろくでもないところでも縋らないと生きていけないような奴。つまりは、素行が悪くて誰からも相手にされなくなった子供の行き着く先なんだ。要は予備隊に来る奴のほとんどが犯罪者かつ捨て子か孤児だ。俺は何もしてないけどな」

「孤児院で気に入らない職員に拷問をかけてたんじゃなかったんでしたっけ……?」

「でも俺は盗みも殺しもやってないぞ」


 リオの不穏な発言をシャスタは否定はしなかった。シェールは例の代表者会議でシャスタがリクに革命孤児だと打ち明けた時、かなり絶望的な表情をしていたのを思い出した。


「確かリク殿と盛大に揉めていたな。何があったか知らんが、どうせろくなことでないんだろう?」

「今までいろんな奴に会ってきたから一番になる自信は無いが、相当ろくでもない育ち方をした自信はある」


 断片的に語られてきたシャスタの過去もシェールは少し気になったが、そこを掘り返すことは憚られることもよく知っていた。


「まあ俺の話はどうでもいいか。とにかく、予備隊の奴は総じてろくなもんじゃない。俺もリオも、あいつもな」


 思わずシェールとフォルスはリオをまじまじと見てしまった。


「私なんて予備隊では平凡過ぎて話題にもなりませんよ」


 リオは謙遜なのか牽制なのか判別のつかない笑みを浮かべていた。


「新入りが入ると大抵どのくらい悪いかで盛り上がるよな」

「まず最初は『人のものと自分のものの区別をつけよう』ですよね」

「懐かしいな、その次は『手を出したら最後覚悟しろ』だよな」

「それでも盗むの上手な子とかいましたよね。私最初の頃はいろんなもの捕られてました」

「それでも新人の嫌がらせは大分減ったんだよ。昔は体力調査って言って真面目な水責めが新人の通過儀礼だったらしい。それで一人死んで、水責めはなくなったけどその代わりいろんな嫌がらせが編み出されていったんだ」


 次々出てくる予備隊の話に、シェールは元よりある程度事情を知っていたはずのフォルスの顔もだんだん引きつっていった。


「あの……予備隊って、そんなに怖いところだったんですか?」


 フォルスが恐る恐る尋ねる。


「これで怖がってたらこの先の話なんて聞けないぞ。爪剥ぎ実習とか」

「それ私が特務に上がった次の年から流石になくなったんですよ」

「いいなあ、アレやるとしばらく左手使えないんだよなー」


 シャスタとリオは他愛ない思い出話をしているように見えるが、その血なまぐさい内容に対面の二人はどう返してよいのかわからなくなっていた。


「そもそも無事に特務に上がれるのってほとんどいないんですよ。入ってすぐいなくなる子のほうが多いし、訓練の途中で死ぬ子も珍しくはないですね。朝起きたら夜中のうちに死んでた、とかたまにありましたし」

「死ななくてもおかしくなって次の日からもういない、みたいなのも結構いたよな」


 フォルスとシェールが完全に黙り込んでしまったところで、シャスタは二人が予備隊の実態について何となく理解したことを悟った。


「まあでも、話を戻すと新人の嫌がらせが明確に少なくなったのは実はあいつが発端だったりするんだよ、これが」

「そうだったんですか?」

「リオは知らないか。当時はロッカー事件って随分問題になったんだよ」


 閉所恐怖症のティロとロッカーという言葉の組み合わせの悪さに一同は大体何があったのかを想像した。


「あいつが来たばっかりの頃の話だ。俺の方が何ヶ月か先に入ってて、後からあいつが来たんだがすぐに目を付けられて、ろくでもないことよくされてた。その中にロッカーに閉じ込めるってのがあって……後はあいつのことだ、わかるだろう?」

「なんて惨いことを……」


 リオが小さく呟いた。


「最初はロッカーくらいってみんな軽い気持ちだったんだ、でもあいつがあまりにも酷いもんだからこれはまずいな、って思った。それでも面白がる奴はいてさ、奴らは何回も閉じ込めようとした。それでもあいつ最初は抵抗も何もしなかったんだけど、遂にキレてさ。いじめっ子を半殺しくらいまでボコボコにしやがった」

「半殺し……」


 フォルスも呆れたように呟いた。


「それで問題になってさ。問題起こした奴は懲罰房に行く決まりなんだが、いじめっ子はもちろん懲罰房行きとして、果たしてあいつを懲罰房にぶち込むべきかってことになった。ロッカーで呼吸困難引き起こす奴が、まず懲罰房なんかに入れるわけがない……それからだ、教官たちが新人いじめに異様に厳しくなったのは。それまでは見て見ぬ振りだったけど、流石にいじめられた方に事情があってややこしいことになるのは避けたいからな」

「それで結局どうなったんだ? まさか無罪放免とはいかないだろう?」


 シェールは地下への階段すら怖がっていたティロを思い出していた。


「後から聞いたんだが、あいつは飯抜きでいいから懲罰房は勘弁してくれって泣いてたらしい。事態が事態だからな。結局飯抜きの謹慎処分ってことになった。それで俺は思ったんだ、そんなに嫌ならもっと早く抵抗してればよかったのにって。あいつは『懲罰房にどうしても行きたくなかったから抵抗しなかった』ってことらしい」

「そこまで嫌だったんですね」


 フォルスがしみじみと呟いた。


「それより俺がビビったのは、ガキと言えどもそれなりに訓練受けた奴を半殺しにしちまったあいつだ。まだ訓練らしい訓練を受けてないのに、どれだけあいつ強いんだって。今ならよくわかるが、あいつは敵にしていい奴じゃない。素性の知れない奴をいじめることの危険性に俺たちも気がついたわけだよ……それにな」

「それに?」


 シャスタは一層深刻な表情で話し始めた。


「これは今まで誰にも話してないんだが……あいつ、予備隊入る前にどこかで絶対剣技やってたな。それもかなり気合い入った奴」


 再び誰にも話していないという話が出てきたことで、フォルスとシェールは身構えた。



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