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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
探求編 第4話 特務予備隊時代
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元特殊任務部

 ゼノスから上級騎士時代の話を聞いてから数日後、ビスキから元リィア特務のシャスタがシェールの元へやってきた。


「全く急に呼び出して。こっちは忙しいんだぞ」

「それは本当にすまないと思っている。旅費もこちらで持つから」

「はるばるリィアまで呼び出しておいて……相当重要な用事なんだろう?」

「ああ、なるべく書面に残しておきたくない案件だ。どうしても聞きたいことがある」


 クルサ家に到着したシャスタは、相変わらずの底の見えない表情でシェールを見据えた。


「……予備隊の話が聞きたいんだろう?」

「流石に鋭いな」


 シャスタは既に何の話がしたいのかを察していたようだった。


「大体、俺からいろんなことを聞き出したい奴なんかそこら辺にいると思う。だけど、特務でいろいろやったことはちゃんとそれなりの形を残しているはずなんだ。あんたからの呼び出し、そしてどうしても俺じゃないといけなくてしかも文字で残しておきたくない話なんて俺はひとつしか思い当たらない。ただ、何で今更なのかはわからなかったけどな」


 今更、と言う言葉にシェールも苦笑した。


「俺だって出来ることなら掘り返したい話じゃない。だけど、どうしても今更奴について知りたいとごねている奴が現れてな。今話を聞けそうな奴で暇そうな奴に声をかけただけだ」

「全然暇じゃないんだけどな。再来月には二人目が生まれるんだぞ」


 そう言うシャスタはどこか誇らしげな顔をした。


「そうか……無事結婚できたんだな」

「まあな。もうキアン姓じゃないんだ、いいだろう?」


 シェールも数年リィアに留まり、キアン姓というものがどういう扱いを受けていたのかを何となく察していた。彼らの肩身の狭さ、寄る辺のない不安には思い当たるところがあり、そしてそこから脱却して胸を張れるシャスタがどこか羨ましかった。


「そうだ、それなら少し待って欲しい。もっと詳しい話が聞けそうな奴の宛てがある」

「他にいるのか?」

「いるぜ、トライト家の件に直接関わらせられた可哀想な奴がな」

「……ああ」


 ティロが失踪した直後に、倒れていたリィアの特務を名乗る男がティロと接触していたという話があったのをシェールは思い出した。当時はその辺の事情を聞いている暇はなかったので捨て置いてしまったが、一体何があったのかを彼から聞ければ聞いておきたいところであった。


「ちょっとそいつにも顔を出すように言ってくる。何、そんなに馬鹿みたいに急ぐ話でもないだろう?」

「待て待て、あいつの話は俺たち以外には他言無用だろう?」

「実はな、元特務の一部はあいつも王子も生きてること知ってるんだよ」

「何だって!?」


 フォンティーアが聞いたら卒倒しそうなことをシャスタは言い始めた。


「大体、コールから出て行ったという状況証拠はあるが決定的な証拠はない。そこで念のためにリィア国内を調べてもらっていたんだ」

「だけど、一体わざわざ何故?」

「単純に俺が悔しかったからというのもあるが、一応あいつのことを知ってる奴はみんな元から心配していたんだ。それであいつの仕出かしたことを知ったら一発ぶん殴ってやらないと気が済まないだろう連中に声を掛けた。本当に一生懸命探したはずだ。最終的にどこにもいなかったから、やっぱりコールから出て行ったんだろうってことでみんながっかりしていた」

「あいつは一体何発殴られなければならないんだろうな……」


 勝手に元特務の間でティロの情報が共有されていたことも驚きだったが、それ以上にティロがそこまで心配されるような人物だったのかということもシェールの中で意外だった。


「安心しろ、みんな機密に関しては他人事じゃないから。現に今まで何でもなかっただろう?」


 シャスタは呆然とするシェールを置いて、来た足でクルサ家から引き返していった。


***


 次の日の昼過ぎ、シャスタは一人の女性を伴ってクルサ家を訪れた。


「さて、わざわざはるばると人を呼び出して昔話をしろだなんてよっぽど何か重要な情報でも入ったんだろうな?」

「重要な情報、か……重要と言えば重要だな。ところで、そちらの方は?」


 シェールはてっきりあの倒された男が来ると思っていたので意外な顔をした。


「リオ・プレーロです。元特務で、潜入捜査を主に担当していました」

「それで……トライト家の件に?」

「ええ……急にそれを話して欲しいとここに連れてこられたのですが、一体何故今更あのことを話さなければならないのですか?」


 リオも何の話がしたいのかは大体の想像がついているようだった。


「その話をしてもらいたいのは俺ではなくてな……出来ればこいつに全部話してやってほしいというわけだ」


 シェールは横で大人しくしていたフォルスの頭を掴んで元特務によく顔が見えるようにした。シャスタよりも先に目を丸くしたのはリオであった。


「……フォルス・リィア・ラコス。何であなたがここに?」

「よくわかりましたね。さすが元特務の捜査員だ」


 シェールの手を払いのけて、フォルスが呟いた。


「どれだけ手配書を見たと思ってるの? 念の為にって国内を随分探したんだから」

「その節は本当にすみませんでした……」


 フォルスは申し訳なさそうに深々と頭を下げた。その後、簡単にその後の経緯を説明した。


「で、今更何の用だ?」

「もうお分かりかと思うんですけど、あの人について教えて欲しいんです」


 元特務の二人は揃ってため息をついた。


「やっぱりな……それで、あいつは今どこにいるんだ?」

「1年半前に突然姿を消しました」

「……またやってるのか、あいつは」


 シャスタは今度のティロの失踪にも心底呆れたようだった。


「また、というのは?」

「失踪癖って言うんだろうな。予備隊を出る時とこの前と、それで三回目だ」

「予備隊時代も失踪したんですか?」

「そこのろくでもない資料に書いてあるだろう、特務に上がれなくて自殺未遂起こしたって奴のことだ」


 その話はシェールも以前少しシャスタから聞いていた。


「確か、入水未遂だったって奴だな」

「ああ、あいつ真面目に死ぬ気だった……ただでさえあの閉所恐怖症の克服の特殊訓練とか言って連日地下に閉じ込められてたらしい。それからの特務には上がれないって通達だ。俺だって死にたくなるかもな」


 資料から読み取れなかった事情を聞いて、フォルスは顔を伏せた。


「それで死にたくなる気持ちはわかるが、特務に上がれないことがそれだけ死にたくなるっていうのが俺にはよくわからない。そんなに特務に上がるっていうのは大事だったのか?」


 この資料を読んだときからの疑問をシェールは尋ねた。シャスタは意外そうな顔をして、シェールの顔を見てから何かを察したようだった。


「そうか……あいつのことを知りたいっていうなら、そもそも予備隊が何なのか知らないといけないんだな。ダイア・ラコスの孫の王子様はもちろん知ってるよな?」


 シャスタの言葉にフォルスは視線を反らした。それは「知っているが口には出したくない」という合図でもあった。


「予備隊が何なのかって、特務へ上がるための訓練生を集めた場所じゃないのか?」


 事情をよく汲めないシェールが尋ねると、シャスタはリオに目配せをしてから話し始めた。


「表向きはな。要は刑務所だ、子供向けの」


 その言葉の生々しさにシェールは返す言葉が無かった。


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