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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
探求編 第3話 上級騎士時代
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反乱前夜

 反乱直前にゼノスが首都でティロを目撃していたという話に、フォルスとシェールは驚いていた。


「これはあいつの名誉に関わると思って誰にも言わなかった。おそらく、考えられる限りあいつにとっては最悪の状態だったんだろう」

「それで一体、あの人は何をしていたんですか?」


 フォルスは前のめりになってゼノスの言葉を受け止めようとしていた。ゼノスはややためらった後、更に話を続けた。


「ごみ捨て場の陰で煙草を吸いながらずっと独り言を言っていた」

「……本当に関わりたくないな」


 ふとシェールはライラが「社会のゴミ」とティロを形容していたことを思い出した。


「ああ、作戦前日と言うことで俺も何かあったときのためにと首都にいたんだが……急にシャイア殿に呼び出された。何でもあいつが急に本部に火をつける、自分なら上級騎士の身分だから本部の奥まで入っていっても誰も気にしないからいいだろうと言い始めたらしい。とりあえず訳がわからないので追い返して、俺に本当にあいつが上級騎士なのかを確かめたかったそうだ。それで必死で街中を探して……あいつが一番見られたくないようなところに出くわしてしまったんだな」

「それで、どうしたんですか?」


 ゼノスの話はシェールを始め代表者たちも知らないものだった。


「何とか冷静になろうと努めたが、シャイア殿の話もあって俺もついカッとなってしまって、その振る舞いは何だって真っ向から説教してしまった。今思えばそれがよくなかったんだろうな。あいつは信じられないような悪態をついて、俺を殺すと挑発してきた」

「そんな……」


 聞いているフォルスからため息が漏れた。


「狭い通りだったから、剣が上手く使えない上にあいつは予備隊で近接攻撃の心得を叩き込まれている。もし争いになれば、こちらが負けるのは明らかだった。とにかく酷く興奮していたから、朝になって落ち着いたらもう一度話を聞こうと思っていたんだ……あんなことになるなんて思わなかった……」


 ゼノスは言葉を詰まらせていた。


「悔やんでも悔やみきれない……あの時俺はどうすればよかったのか、未だに答えが出ない……もしあそこで俺があいつを何とか説得できたら、あいつはあんなことはしなかったかもしれないと思うと……」


 ゼノスは反乱の日から人知れず自責と後悔の念に押しつぶされそうになっていたと知り、フォルスの目にも涙が浮かんだ。その中でシェールはひとりティロの状況を想像していた。


「おそらくですが……その状態だと何を言ってもどうしようもなかったんじゃないですかね」

「何故そう言い切れるんですか?」


 更にゼノスを追い詰めるような発言をしたシェールにフォルスは混乱した。


「何故あいつがそんなところでそんなことをしていたのかはわからないが……相当精神的に追い込まれていたんだろう。そんな時に人が来ると咄嗟に追い返したくなるものじゃないのか? 特に優しくしてくれそうな人なんかだと相当頭に来るはずだ」

「普通助けてくれそうな人にはそんなことしないと思いますけど」


 シェールの予想を真っ向から否定するフォルスにシェールも言い返す。


「そうか……? こんなところ見られたくないとか、今更のこのこ出てくるんじゃねえとか、放っておいてくれとか……思わないか?」

「思いません」


 フォルスとシェールが言い合っていると、ゼノスが申し訳なさそうに口を開いた。


「すまないが、そういう発想はなかった。確かに、何度も構うな、放っておけと言っていた……それにしても本気で殺しにくるとは思わなかった。やはり俺のことを相当恨んでいるのだろうな」

「恨む? 恩があるのに?」


 フォルスはティロがゼノスを恨む動機が全くわからなかった。


「元はと言えば、俺がコール村から一気に上級騎士にしてしまったことが全ての始まりのような気がしていて……あいつの事情など考えなかった。剣が好きなら上級騎士になるべき、という考えがおこがましがったのではと思ってしまう」


 ティロの全てにゼノスが本気で責任を感じているのをシェールは感じ、ティロのトライト家関連の話をすることで全てがおそらくゼノスのせいではないことを伝えることにした。


「いや、遅かれ早かれ奴はトライト家を消していたでしょう。亡命してきたのもリィアに弓引くと言うより、トライト家を消すためのことらしい」

「ザミテス・トライトのことか……」

「やはり個人なら消されても仕方ないと思ったんですか?」


 ゼノスは答えなかった。まさか自分のせいでトライト家の子供たちまで殺されていまったのではないかと思うと、誰にもこの胸中を明かすわけにはいかなかった。


「少なくとも、当時の筆頭代理は動機についてゼノス殿の失脚であると考えていました。ただ、彼も何故一家全員なのかということには首を捻っていた。あいつはライラをわざわざトライト家に忍ばせてまで一家の抹殺を企んでいたので……」

「ライラ、とはあの発起人ライラのことか?」


 シェールは先ほどの説明でライラに関することを省いて説明していた。


「そうだな……元々の話だと今回の反乱自体、そもそもの根底はあいつのようです。ライラが言うには、あいつがあまりにも可哀想だからリィアなんか潰してやる、ってことらしい」

「その前に、あいつと発起人ライラは一体どういう関係なんだ?」


 ゼノスが根本的な疑問をぶつけてきた。


「謎です。一切が全くよくわからない。ライラからは何を聞いてもよくわからないことしか返ってこないし……」

「ううむ……男女の仲はともかく、何故あいつが可哀想なのとリィアを潰すが一緒になるのだ?」


 ゼノスも4年前の代表者と同じ顔になった。


「それもよくわからないのだが……トライト家の恨みに対しては一応それらしい理由はありました。あいつがライラに語ったらしいことには、災禍の直後にザミテスとクラド・フレビス、あとは何と言ったか……そいつらに姉共々殺されかけたらしい」

「何だって!?」


 ゼノスは血相を変えて叫んだ。


「これはライラからの伝聞なので詳細は全くわからないのですが、姉は死んであいつは左腕を折られて埋められたとか……リィア軍に在籍していたのもそいつらを探して同じ目に合わせるためだったそうです」


 ゼノスは信じがたい、という顔をしていたがクラドを直接知る者として彼らが災禍の混乱の中そういった悪事を働いていたとしても不思議ではないと思い直したようだった。


「そうか……それで、あんなに思い詰めた顔を……待てよ、それじゃあ」


 ティロの置かれた状況に気がつき、ゼノスの顔から途端に血の気が引いた。


「姉と自分を殺しに来た奴の下に奴は着いていたことになる。しかも相手はそれを覚えていない。想像を絶する状況ですね」


 しばらく絶句していたゼノスの気持ちが落ち着くのをシェールは待った。


「それで、あいつはその後どうなったんだ?」

「これも詳細はわからないのですが、あいつは何とか土の下から出てきたそうです。それが例の閉所恐怖症の原因だそうで、そして姉の方は助からなかったみたいです……」


 何度この話をしてもシェールは心の奥が捻れたように痛んだ。


「それで一人で抱えて……畜生……」


 ゼノスは辞職前に何も話せず泣いていたティロを思い出した。しかし、ザミテスとの件がわかったとしても、最後の手合わせでティロが本気を出さなかった理由について思い当たるところはなかった。



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