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【贖罪ノワール1】救世主症候群・事件編  作者: 秋犬
探求編 第2話 空白期間
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共通点

「……セラス、ひとつ尋ねていいか? 例の話なんだが」


 フォルスが来てから数日が経っていた。ほぼ脅迫という形でティロ探しを手伝っているシェールであったが、再度ティロに関することを調べていくうちに不可解な事実が発覚したことでセラスに確認をとることにした。


「いいですよ、私の知っていることなら」


 幸いセラスはフォルス来訪の次の日にはいつも通りの態度であった。気持ちの切り替えが早い彼女にシェールは内心胸をなで下ろした。


「お前、アレが自分のこと『死神』だって認めていたのは覚えているか?」


 セラスは夜間特訓の間にそんな話をしていたことを思い出した。オルド侵攻の際、トリアス山にて謎のリィア兵が圧倒的な力で次々とオルド兵を一人で斬り倒し、その異様さからオルド側では『死神』と呼び恐れられ、それで士気が下がったことがオルド側の敗因でもあると言われていた。


「ええ、本人がそう言っていました。私の聞いた話ですと、あの人が本当に『死神』なら非常に納得がいくんです。そもそもあの人を一般兵に置いておくリィアもどうかしていると思うんですけど」

「そこだよな、やっぱり」


 シェールはセラスの返答を聞いて難しい顔をした。


「どういうことです?」

「この前からアレのこと調べているだろう? それで奴に関する資料に全部目を通しているんだが……どこにもその話がない。確かにオルド侵攻時にトリアス山に出兵したことにはなっているのだが、そもそもアレが出撃した記録がない」

「ええ?」


 セラスが怪訝な顔をした。


「それどころか、帰還時の点呼まで行方不明になっていて死亡もしくは敵前逃亡の疑いがかかっていた。そのことで命令違反、さらに小隊長に口答えして服務違反になっている。それでコール送りになったらしいな、それが奴の資料からわかることだ」

「じゃあ、『死神』って一体誰なんですか?」

「念のためにリィア側のトリアス山の戦場の記録も確かめたが、『一人で一日何十人も斬り殺した兵士』の話は出てこない。そもそも『死神』に相当する話が出てこないんだ」


 セラスは更に怪訝な顔になった。


「ええ!? じゃあオルド側がおかしいってことですか?」

「そんなわけはない。何故か『死神』の目撃情報はオルド側にしかないんだ……奴が認めている以上、『死神』は存在していたのだろう。それでは何故、リィア側の記録に残っていないんだ? そして奴はその間一体どういう状況だったんだ?」


 二人は顔を付き合わせてお互い難しい顔をした。


「もうリィアが記録忘れちゃったとかじゃないんですか?」

「そんな馬鹿な、と言いたいところだが案外そういう間抜けなことが真相だったりするからな」


 訳のわからなさにセラスが軽口を叩き、シェールが更に疑問点をあげる。


「それに大元の話なのだが……あの剣技の腕で、何故トリアス山みたいな最前線で使い捨てみたいな扱いを受けていたのかが俺にはわからん。リィア軍の目は節穴だったのか? それとも敢えてそういう作戦だったのか?」


 考え込むシェールに、セラスも更に難しい顔になった。


「いずれにせよ、ろくな話じゃないのは間違いなさそうですね。そのどこに転んでもろくでもないところ、義兄様とそっくりじゃないんですか?」

「何で俺の話になるんだよ」


 セラスはじっとシェールの顔を覗き込み、しばらくしてから手を打った。


「そうか、そうですよ! 誰かに似ていると思っていたんですよ! あの話していて要領を得ないくせに偉そうな喋り方、すぐに自虐して話を打ち切るところ、何だか構って貰いたそうにしているのに話しかけると何だかんだと逃げていくところ。なんだ、全部義兄様じゃないですか!」


 セラスは当初ティロに対して抱いていたもやもやした感情の答えがやっとわかって、晴れ晴れと手を叩き続けた。


「お前、俺をそんな風に思っていたのか……」


 不意に話題が自分に移ったことでシェールが不機嫌になった。


「違うんですか?」

「いや、否定はしない。どうせ俺はそんな奴だから」

「ほら、そういうところですよ」


 思い当たるようなことを言われて、シェールはすぐ反論できなかった。


「……そんなに似ていたか?」

「はい、見た目とかそういうのではなく、何となく話している感じがそっくりでした。それで何だか放っておけない感じもですね」


 シェールは「何だか放っておけない」という点はよく理解できた。


「俺、あんな感じなのか?」

「あんな感じです。でも口は義兄様のほうがもっと悪いですかね。ティロさんはやっぱり上級騎士だったからですか? 多少義兄様より物腰は柔らかかったとは思うんですけど」

「俺、そんなに口悪いのか?」

「自覚なかったんですか? 意識していないときは本当に最悪ですよ。リィアに来て少しよくなったとは思いますけど……」


 散々に言われたが特に反論することもできず、シェールが凍り付いているとセラスは更に続けた。


「そんなに自覚がないのでしたら、もう少しティロさんのこと調べてみて、そしてご自身のこと振り返ってみたらどうです?」

「別に、俺は関係ないだろ!」

「そういうところですよ、義兄様」


 セラスに再び言われて、シェールはやはり反論できなかった。


***


 その日の夕方、シェールは執務が終わったはずのフォンティーアの元へ向かった。


「あの……」

「何? ティロ・キアン探しに何か進展でもあった?」


 フォルスが来てから、フォンティーアは屋敷にあまり姿を現さなくなった。余程フォルスを目に入れたくないらしく、ティロ探しが難航すればするほど彼女の機嫌も悪くなっていくことがシェールには予想できた。


「進展というか、お伺いなんですけど」

「一体何の?」

「フォルスの奴があいつを知ってる奴から話を聞きたいって言うんで、この話がバレても大丈夫な範囲で声をかけてみたんです。一人はビスキの例の特務で、もう一人は例の上級騎士隊筆頭代理です」

「なるほど、それで?」

「ビスキからの返事はまだなんですけど、筆頭代理のほうからすぐに『おそらく自分よりもゼノス・ミルスから話を聞いた方がいい』と返事が来まして……」

「つまり、彼にこのことをバラしてもいいかってこと?」


 ラディオはシェールから「内密の件」という時点でティロの行方について何か進展があったことを悟り、ティロに関することならゼノスにある程度任せた方がよいと判断していた。


「そういうことです。少しそのゼノスについて調べましたが、上級騎士筆頭を務めただけあってかなり信頼できる人物だそうです」


 シェールはゼノスに関する資料をフォンティーアに提出した。


「うーん……そうね……元筆頭で親衛隊に推挙直前、ね……そして例の件で失脚、と。確かクラド・フレビスの被害者なのよね、彼」


 フォンティーアは「フレビス家の被害者」には仲間意識を抱いているようだった。


「わかったわ。例の交代劇やトライト家の件についても詳しく聞く必要がありそうだし、くれぐれも内密の件と言うことでよろしくね」

「はい、早速返事は出しますが……今日は帰ってこられますか?」

「これからまた会合よ、帰れるわけないじゃない」


 にこやかに言うフォンティーアを見て、シェールは胃を握りつぶされたような気分になった。


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