最高機密
シェールはフォルスに対していよいよティロが一体何をしてきたのかを話さなければならなくなった。
「最初に言っておくが、これはお前の立場で聞くとかなりムカつく話だ。そうでなくても胸糞悪い話だ。それは最初に忠告しておくからな」
「何言ってるんですか。実際に誘拐された身の上ですから、別に何を言われても僕は構いませんよ」
フォルスはさっさと話せとシェールを促した。
「じゃあ結論から言うが、今回の反乱の黒幕は奴だ」
「は!?」
流石にそこまでの展開は想定していなかったのか、フォルスは素っ頓狂な声をあげた。
「だから言っただろ、かなりムカつくって」
「でも、一体、なんで!? それになんでわざわざ僕を助けに来たんですか!?」
混乱するフォルスにシェールは4年前の代表者たちの混乱を見ているようだった。
「その疑問に俺たちは答えを出すことが出来なくて、お前らを最高機密扱いすることにしたんだよ」
「ええ、でも……あの、最初からお願いできますか?」
シェールはラディオから預かった資料をフォルスに見せた。
「これによると、あいつはビスキの小さな街で強盗をしていたところを警備隊員を刺して捕まったらしい。その後リィアの予備隊に送られて、特務にはあがらず一般兵として過ごしている」
「ちょっと待ってください、それは」
フォルスは気になる点があるようだったが、シェールは更に続ける。
「いいか、これから先も突っ込んでいたらキリがないからこの資料に書いてある事実を先に確認するぞ。その後オルド侵攻に招集されて、何故か戦場に出ないで敵前逃亡の疑い。更に服務違反がついて始末書の上に減俸。その後コール村に送られている」
「ええ、あの人が戦場にいて何もしなかったなんてあるかなあ……」
「いいから先に行くぞ。その後何故か一般八等の身分から一気に上級騎士三等に昇進。これは資料には書いていないが、元筆頭代理の話によると当時の筆頭が引き抜いてきたとのことらしい」
「当時の上級騎士隊筆頭って?」
「確か……ゼノス・ミルスと言ったか」
フォルスの顔に驚きが見えた。
「ゼノスか……覚えてるよ。親衛隊にって声もあった凄腕の剣士だ。でも何故か急に除隊してどうしたんだろうって思っていた」
「それに関してはさっきの筆頭代理が言うには、いろいろ面倒くさい事情があって……」
シェールはザミテスとクラド、ゼノスの関係をどう伝えればいいのか悩んだ。
「そんなにややこしいんですか?」
「わかった、俺も知ってることを整理したいから話しながらまとめていくぞ。まずは上級騎士隊内での事案だ。話によるとゼノスは当時の筆頭補佐のザミテス・トライトと顧問部の首都防衛担当のクラド・フレビスの策略でリィア軍を追い出されたらしい」
「……そんなことがあったんですか?」
「さあ、実際のところはどうだろうな。ちなみにザミテスもクラドも死んでいる」
フォルスの表情が次第に固くなっていった。
「そして奴を取り巻く話はもうひとつあって、発起人ライラについて知ってるか?」
フォルスは無言で首を横に振った。発起人ライラについては反乱終了後に家に帰ってしまったことで、彼女のことも機密とまではならなかったが自然と伏せられるようになっていた。
「実はこの反乱は、彼女が画策したものだ。リィアの2つの組織、そしてビスキとオルド、更にクライオにいた俺のところにまで来て『一緒にリィアを倒して欲しい』だとさ」
「じゃあ、その人は今何やってるんですか?」
「それについては今の奴の件とは関係ないから置いておくとして……どうにも、彼女が言うにはその発起人になった理由がティロ・キアンらしい」
フォルスの顔に疑問符がたくさん浮かぶのを見て、シェールは話を進める。
「何を言っているのかわからないと思うが、この発起人ライラの目的は『何やら可哀想なティロ・キアンを助けること』らしいんだ。その真意はよくわからんが、とにかく今はそういうことにしておこう」
「いや、僕としてはそこはものすごく掘り下げたいところなんですけど」
「だから突っ込むのは後にして、先に行くからな。その後彼女は発起人稼業をやめて、急にトライト家の女中になった……そんな顔をするな、さっき言った上級騎士隊筆頭のザミテス・トライトの家だ」
「そこは一体どう繋がるんですか?」
シェールは気が重くなるのを感じたが、ため息をついて一息に話すことにした。
「これはあくまでもライラがティロ・キアンから聞いた話だ。エディアの災禍の後、子供だった奴が姉と一緒に逃げているところを暴漢に襲われて殺されて、そのまま埋められたそうだ。その暴漢が例のクラドとザミテス、あともう一人いたらしい」
「埋められた? じゃああの人は……そういうことか」
フォルスはティロの閉所恐怖症に思い当たったようだった。
「そういうわけで奴はとんでもない閉所恐怖症だ。そしてゼノスに連れられて上級騎士になったのに、仇であるザミテスの下で働いていた。ライラが言うには、その時は本当に死にそうだったらしい」
フォルスもティロの置かれていた状況を理解したのか、顔色が少し青くなった。
「そこで奴はライラをトライト家に潜入させて、トライト家の人間を抹殺する計画を立てた」
「何で全員殺す必要があるんですか?」
「いいから黙って聞け。これは俺の立場から知っている限りの話になるが、まずはザミテスの妻を薬漬けにして金を絞っていたらしい。それからどういうわけか奴の娘を誘拐してわざわざ亡命までしてクライオの俺のところに来た。その後反乱決行直前に首都に行って妻と息子をどうにかして、査察旅行から帰ってきたザミテス共々どこかにどうにかしたらしい」
「そのどうにかっていうのは……」
「遺体が見つかっているのは妻だけだ。しかも状況としては自殺らしい。他の三人の行方は未だにわかっていないんだが、ライラが言うのは全員奴が始末したらしい」
トライト家の詳細な話を聞き、フォルスが動揺しているのがシェールにも見て取れた。
「その後あの人はどうしたんですか……?」
「その後は急に俺たちの前から消えた。流石に状況として奴も自殺しかねないところがあったから俺たちは必死に探した。その後先に首都へ向かったと聞いて、その後はおそらくお前が知っているところになるわけだ」
シェールは長い話に区切りがついたことでため息をついた。
「これで僕らの情報は全部みたいですね」
「そうだな。これ以上のことは他を当たるしかない」
「それで、誰から話を聞くんですか?」
「検討は付けている。まずは予備隊時代からあいつを知っているシャスタ・キアン。こいつはお前らを追ってコール村まですっ飛んでいった奴だから、気兼ねなく話が出来る。あと話を聞けるとすれば、あいつの生存を知っているのが元上級騎士隊筆頭代理のラディオ・ストローマ。二人には内密の要件と言うことで朝一番で知らせを送った」
意外と迅速な対応のシェールにフォルスは目を丸くした。
「へえ、話が早いですね」
「あとは向こうの返事待ちだ。それまで大人しくしていろ」
「そうですね。それにしても僕が想像していた以上にややこしい話ですね」
「だから最高機密だったんだ、わかってんのかこの最高機密が」
その最高機密は肩をすくめて見せた。




