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【DEPENBED】

 覚えている限りの一番古い記憶は、おそらく母の葬式だ。


 小雨がちらつくような肌寒い日に、強い風が吹いていた。重く立ちこめた雲にたくさんの正装した人々。白い大きな花があった。あれは母の好きだった花なのだろうか。地面には大きな穴が空いていて、吊るされた棺桶が静かに下ろされていく。そしてそこに黒々とした土が掛けられ、母が埋められていく。


「だめだよ!」


 そこで急に「母にはもう会えない」ということに気が付き、墓穴に飛び込もうとして父と姉に必死で押さえつけられた。


「危ないでしょ、下がっていなさい」

「堪えてくれ、みんな悲しいんだ」


 父も姉も、その場にいた人たち皆が泣いていた。


「だって、だって」


 母に会えないのも寂しいし、母があんな冷たいところに一人で置き去りにされなければいけないということも耐え難かった。その後のことはよく覚えていない。


***


 目を覚ますと灰色の空は消え失せ、夜から朝になる寸前の真っ青な空が広がっていた。


「……珍しい夢を見たな」


 死んだ母が夢に出てきたことなど今までなかった。そもそも母親のことはほとんど覚えていない。唯一覚えていることも生きている母の記憶ではなく、土に埋められていく冷たくなった母だった。土の下がどれほど寂しくて、暗くて恐ろしいか。埋められたら母のことを思うと胸が締め付けられるように痛くなる。


 身を起こして、彼はまだ明け切らない空を見上げた。今朝はよく眠れたと思うと、途端に嬉しくなってきた。これほどまでに清々しい朝は何年ぶりかわからない。


 立ち上がると、目の覚めるような青に白い線が入った上級騎士の隊服に付いたじめじめした土を払う。寝転んでいた建物の裏から表に回ると、夜明けと共に早朝の空気が次第に暖まっていくのを感じた。晴れ晴れとした日差しに物々しいリィア軍本部の建物が次々と照らし出される。


 リィア国。数十年前の政変により実質上の実権を特殊任務部部長のダイア・ラコスに掌握され、数年前彼が亡くなってからもその影響力は大きく残っていた。軍部による国内の革命主義者及び反政府主義者の粛正、更に5つの国家から成り立っていた半島統一として隣国への侵攻が始まり、次々と領土の拡大は続いていた。


 上級騎士は首都防衛を主に組織された、優秀な剣士が就く要職であった。武器の主流が剣から火薬を用いた物に移り始めていたが、未だに剣技は軍でも重宝されていた。厳しい試験と剣技の実力がなければ上級騎士への所属は認められず、どこの国でも剣技を志す者たちの憧れであった。


 彼は軍本部の上級騎士の宿舎へ戻った。同室の者の姿はなく、隊服から平服へ着替えて手荷物を持つ。宿舎の入り口には隊服の乱れを確認するための大きな姿見が設置されていた。


 灰色の髪に緑色の目、あまり高くない身長の彼は今朝はいつもに増して元気そうだった。本日からの始まる楽しい休暇のことを考えると自然と笑みが溢れる。


「じゃあ、行ってきます。姉さん」


 彼はそう呟くと、宿舎を後にした。空は晴れ渡り初夏の空気はどこまでも澄み切っていた。


「今日は絶好の旅行日和になりそうだな……」


 足取りも軽く、彼は待ち合わせの屋敷へと向かった。

これから連載はじめていきます。

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