6話 交わした約束
何か頬に冷たいのがあたり目が覚めると夜刀神が僕の方をじっと見つめていた。
「ど、どうしたの?」
「いや、何も無い」
僕は気になったので何故ずっと見ていたのかを聞いた。
「我は当時人間を恨んでいたが今では人間であるお前と共にいたいと思うほどに心を許していることに不思議な感じがするんだ」
「僕もあの時は親友が亡くなって、家族まで亡くなって、生きる理由を無くしていたけれど、こんなにも幸せに暮らせるとは思ってなかったよ」
「そうなのか……そうだな。それなら、これからはお前があてができるまでではなく、お前が死ぬまで我が守ってやる」
僕は笑って夜刀神を優しく撫でた。
それから僕らは家の掃除を始めた。
「夜刀神さん〜窓開けるの手伝って〜」
夜刀神は部屋中の窓を開けようとすると、ひとつだけ開けていない場所があるのに気がつき、その部屋に行くと少し薄暗い部屋にアルバムのようなものが置いてあるのに、夜刀神は気になりアルバムに見とれていた。
「夜刀神さん〜?どこ〜?ってあれ?」
夜刀神はアルバムに夢中になり僕の声が聞こえていなかった。
僕は家を探すと、ある部屋で夜刀神は写真を見つめていた。
「夜刀神さん?」
「あ!す、すまない…何か呼んだか?」
「その写真気になるの?」
「あぁ、たまたま見つけたのだが何故か夢中になってしまってな」
僕は固い窓を開けると薄暗い部屋に太陽の光が入り込んできた。
「ここの部屋懐かしく感じるなぁ…」
「そうなのか?」
「ここに家族で来た時、僕もその写真に夢中になってさ。その写真に写ってるのは僕がお母さんのお腹に入って1ヶ月の時の家族写真って聞いたな。僕の家族の横にいるのが僕のおばあちゃんだよ」
「賑やかそうだ。良い家族だったのだな」
僕はアルバムを閉じて伸びをした。
「よし!今日は日が暮れてきたし後ちょっと掃除してから晩御飯にしよっか!」
「食料はあるのか?」
「食料…実は最後に家族で来た時にお母さんが畑で野菜を育ててたんだけどそれを晩御飯にしようと思ってるよ」
「なら…我は食べない方が良いのではないか?」
「え!どうして?」
僕は夜刀神と顔を見合わせて聞いた。
「その野菜はお前にとって母の形見ではないのか?」
「夜刀神さんも一緒に食べよ?お母さんもきっと一緒に食べて欲しいって言うと思うから」
「それならいただくとしよう」
僕は夜刀神に笑顔を向けた。
すると夜刀神は驚いた顔をした。
「初めてお前のしっかり笑った顔を見たな」
「そ、そう?」
「あぁ、笑うことができるほど今は心に余裕があるんだな…それなら良かった」
「前も言ったけど夜刀神さんがいなかったら僕、今頃この世にいなかったと思うよ」
夜刀神も少し笑みを浮かべて掃除をし始めた。
しばらくして、日が山の谷に沈んで行った。
「そろそろ晩御飯にしよっか!」
「そうだな、それより今日は結構汚れてしまった。水浴びをしたいが場所はあるか?」
「晩御飯の前にお風呂入ろっか」
僕は水を湯船に貯めて薪を燃やしてお風呂の温度を調節した。
「そろそろ入れるよ〜」
そうして夜刀神さんを風呂に案内した。
「お前は入らないのか?」
「一緒に入ってもいいの?」
「構わないぞ?」
そして夜刀神さんと一緒に湯船に浸かった。
「暖かいお風呂は久しぶりだな…」
僕は窓から顔を出した月を見ながら思い出を振り返った。
「最後はいつなんだ?」
「最後は…あの村に来る前に引き取ってくれた親戚のお風呂が最後かな。それ以降は水しか使わせて貰えなかったから…」
「そうだったのか…」
それからしばらく会話をして風呂を出た。
僕は風呂を出てしばらくしてから晩御飯の準備に取り掛かった。
「いい匂いがするな。なんの匂いだ?」
「野菜の煮物だよ!自家製で作ってた調味料を使ったんだ〜」
「楽しみにしておこう!」
準備を終え夜刀神さんと煮物を食べた。
「とても美味だ!」
「ありがとう!そんなに喜んでもらえると思わなかったよ」
「我は今まで野生の動物を丸呑みしていたからな。料理を食べるのはお前が作ってくれたおにぎりが初めてだったんだ」
「これからは色んな料理を作ってあげるから楽しみにしてて!」
僕と夜刀神は食卓を囲って暖かな光の下でご飯を食べ終えた。
それからは片付けを済ませ布団の上で横になった。
最初は静まり返り沈黙が続いていたが夜刀神は突然僕に喋りかけた。
「お前はずっとここにいるのか?」
「ここ以外居場所が無いから…でもここで夜刀神さんと一緒にいられるなら、それで僕は幸せだから。でもどうしてそんな事聞くの?」
「お前はまだ若いだろ?それならやりたい事、なりたいものがあるんじゃないのか?いずれここを出ていってしまうのではないかと思ってな…」
僕は仰向けになって上に手を伸ばした。
「心配かけると思って言ってなかったんだけど、僕は社会に出て色んなことにチャレンジしてみたい。それが僕の夢かな」
夜刀神は少し不安そうな顔をした後少し微笑んだ。
「そうか。それなら俺が応援してやる。夢が叶ったならここに戻ってきてくれよ?」
「うん!絶対に戻ってくるよ!」
僕と夜刀神は約束を交わして目を閉じ眠りについたのだった。