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カレメ山へ1

お久ぶりです。前回からだいぶ開いてしまいました。

今回は主人公が変わります。それではどうぞ。

 山間の太陽が登る少し前の涼しく、かすかに霧で包まれたあやふやな時間。


「ふわぁ〜あ。」

 大欠伸をしながら、乗合馬車に揺られる青年がいた。

 その青年は深緑のケープを身につけ、茶色の肩掛け鞄を膝の上に乗せている。


「そこの、お兄ちゃん見かけない顔だね。」

 そんな青年に声をかけたのは前に座る老婆だった。


「ええ、私は郵便配達をしておりまして。これからヒスクとカレメ山へ行くんです。」

「郵便配達とな?少し前に新聞で見た気がするが、手紙や荷物を届ける仕事のことかね?」

 老婆の質問に青年は溌剌と返事を返す。

 

「ええ、そうです。」

「そりゃあ、ご苦労なこった。」

「ありがとうございます。」


「んで、何山だって?この辺は山だらけじゃが。」

 歳取ると、耳が悪くなってねぇとぼやきながら老婆はもう一度、青年の行き先を問う。


「ヒスクとカレメ山です。」

 郵便配達人の青年の答えに老婆は眉をひそめた。

「ほう、カレメ山とな……。ちょうどヒスクから行けるね。なら、用心しなさい。あそこは盗賊が出る。荷物どころか命も取られちまうよ。」


「そうなのですか。初めて行くもので、気をつけます。」

「おう、そうしなさい。しかし、あそこには誰か住んでおったか……はて。今は変わっておるのかもな。」


 青年と老婆はそんな会話をしながら、他の幾人かと共に乗り合い馬車に揺られていた。やがて乗り合い馬車は小さな町に辿り着き、青年と老婆はそこで降りて別れた。

 青年は小さく伸びをすると、町の中心へと歩き出した。


 朝陽の光を反射する深緑のケープには葉柄の透かし模様が入っているのが見える。

 緑色のケープを着込んだ者が物珍しいのか、町の人達の視線が彼に注ぐ。しかし青年はそれらの視線を気にする様子もなく、町役場へと入って行った。


 町役場では朝の業務が始まっていた。と、言っても小さな町なので、7人の男女がそれぞれ机に座って作業をしていた。

 受付と思しきカウンターに座っている女性と目が合って青年は、そちらへと向かう。


「おはようございます。郵便配達人のユリウスと申します。」


 女性は、ユリウスに挨拶を返す。

「おはようございます。ようこそヒスクへ。本日はどういった御用で?」


「2つお聞きしたいことがあります。まず、この町のカトレンさんという方にお会いするには、どちらへ行けばいいでしょうか。」


「カトレンさんなら、この役場を出て暫く行った場所に花屋があるのでそこをまた右手に曲がって頂くと、白と緑の塗装にカトレン食料店と書かれたお店があります。カトレンさんの自宅兼店舗となっているので会えると思います。」

 女性は丁寧で完璧な答えをしてくれた。


「分かりました。あともう1つですが、カレメ山のトゥラトさんという方はご存知ですか?」

 ユリウスのこの質問にはカウンターの向こうに座っていた老齢の男性が反応した。持っていたペンを落としたのだ。


「カレメ山?なんだってそんな辺鄙な所に届けものなんだ?」

「カレメ山をよくご存知ですか?」


 ユリウスの質問に眼鏡のズレを直しながら、その男性は空いていた隣のカウンターの椅子に座った。

「いいや、知らんよ。盗賊とオークが出るってことぐらいしか。」

「オークが出るんですか?」

 先程老婆から得た情報は盗賊だったがオークもいるのか、とユリウスは頭の中にメモする。


「そりゃあ昔はもう荒れに荒れたさ、奴らは山から降りて来て周辺の村々を荒らしたものさ。」

「では、カレメ山は盗賊とオークが共存している、ということですか。」


「いいや、オークが出たのは大戦前の話だ。盗賊は、何処からやってきたのかは分からん。戦から逃げ落ちてきたのか、オークを追い払って30年くらい前に山に住みついたんだ。それからはオークを追い払ったからという大義名分を振りかざしてこの辺りから、食糧やら何やら、色んなもんを奪っていったんだよ。わしからすりゃ、オークだろうが盗賊だろうが災厄だったがね。」

 当時のことを思い出しているのか男性の目が険しくなる。


「では今、山にいるのは盗賊ということですか。」

「そういうことになるな。だがここ最近は盗賊も見られんくなったから、あの山にはもう誰も住んでおらんと思うよ。」

 

「なるほど、ありがとうございました。良い一日を。」

 ユリウスは礼を言うと、町役場を出てカトレンの店へと向かった。


 カトレン食料店は、受付の女性が言ったとおり白に緑色で周りを塗装した看板がトレードマークのお店だった。


「すみません、郵便配達に参りました。カトレンさんはいらっしゃいますか。ヘイッセ商会からお届け物です。」

 ユリウスが店の中に入ると、中から女将が出てきた。

「おやおや、朝早くからご苦労様ね。ウチの主人ならさっき配達に行っちまったんだ。」

  少し残念そうな表情を浮かべる女将にユリウスは、言葉をかける。

 

「カトレンさんのご家族なら、お引き取り可能ですよ。受け取りがカトレン食料店になっていますから。」

「あら、そうなのかい?ありがたいね。」

「郵便配達を利用されるのは初めてですか?」

 ユリウスの質問に女将は、頷いて答える。

「そうだよ。前にそんな業種があるって旅人から聞いたことはあるけど、実際に見たことは無いね。」


 ユリウスは、首から紐でかけた透明なカードを取り出すと女主人に説明する。

「これは、郵便配達屋の持つ魔術具でしてこちらに署名して頂ければ引き取りの確認と取引が完了します。」

「へえ、都会は進んでいるのねぇ。魔術具なんて個人で持ってる人は初めて見たよ。」

 女主人公はそんなことをボヤキながら、言われた通り透明のカードに署名した。

 

「では、こちらがご依頼のお荷物です。配達代は先方から前払いで頂いているので結構です。」

 ユリウスは、鞄の中から瓶を2つ取り出す。瓶にはグルグルと布が巻いてあり、紐で小さな紙がくっついていた。その紙には文字が書かれている。


「ああ、塩と香辛料だね。こないだの行商で必要な量が仕入れられなくて、困ってたんだよ。気をまわしてくれたんだね。」

 女主人は少し嬉しそうに瓶を棚に置いた。

 

「では、私はこれで失礼します。」

「あ、お待ち。」

 無事に依頼物を引き渡したので、店を去ろうとしたユリウスを女将は慌てて引き止めた。

「お代は本当にいいのかね?」

 確かにユリウスは引き渡す際に代金に関して言ったはずなのだが、お金が絡むと不安になるのは誰しもそうだろう。

「先方に前払いでいただいていますので、大丈夫ですよ。」

 ユリウスは女将を安心させようと微笑んで説明した。


「そうなのかい?」

「はい。」

 

「ほんとうのほんとうに?」

「ええ、本当です。よろしければ、確認されますか?」

 ユリウスが先ほどの透明なカードを取り出そうとしたのを、女将は止めた。


「いや、いいよ。そこまでしてくれるんなら大丈夫そうだ。疑い深くて悪いね。」

 謝る女将にユリウスは首を横に振る。

「いいえ、誰しも初めてのことには戸惑うものですから。」


「すまないね、ありがとう。ああ、そうだ。」

 女将はユリウスを少し待たせると、ガラスのコップを取り出し、店に置いてある小さめの樽から中身を注ぎこんだ。透明な液体にプカプカと気体が浮かんでは消えてゆく。


「はい、お詫びと労いの印にどうぞ。」

「えっと……頂きます。」

 ユリウスは僅かに躊躇したが、女将の好意を無下にするわけにもいかず、コップを受け取って恐る恐る口の中に流し込んだ。


 すると、口の中がシュワシュワと刺激されてユリウスは思わず咽せてしまった。その様子を楽しそうに見る女将に彼は聞いた。


「あの、これは?どういった飲み物で?」


「電気水だよ。発泡酒でもないのに、その口当たり、面白いだろう?」

「……電気?初めて飲みました。」

 今度は、ちゃんと口に含んでその感触を楽しむ。


「最近、近くの村で湧いているのが見つかってね。よく仕入れているんだ。果汁で割ってよし、酒で割ってもよし、って、ことで町の大人から子供まで大人気さ。」

「確かにこれなら子供達が好きそうですね。」


「たださぁ、すぐにこのシュワシュワってのが抜けちまうからあんまし遠くに運べないわけ。なんかいい方法無いかね、大きな街に持って行ったらそれなりに売れるとは思うんだけど。」

 女将が額を少し寄っているのを見て、ユリウスは少し考える。

 時に干渉する魔術の存在は知っているが、かなり高度な物であり扱える者はそう多くない。もっと言えば物の劣化を防ぐような、時間を止める魔術具というのは聞いたことが無い。

「うーん、私ではあまりお力になれそうにないです。すみません。」

 ユリウスは女主人に礼を告げると、今度こそ店を出た。



「おい、そこの兄ちゃん珍しい格好をしとるな。何処から来たんだい?」

 町を再び歩き出したユリウスに声をかけたのは、椅子を並べて座った高齢の男性達だった。

 

「これは、郵便配達人の制服です。ここより、北西にあるクィ・ヴィトラから参りました。」

「へぇ、こんな田舎までご苦労なこった。これからまたどっか行くのかい?」

 口髭を長めに生やした男性に聞かれて、ユリウスは正直に答える。

「はい、カレメ山へ。」


「ほう、それまた辺鄙な所だな。あそこにゃ盗賊ぐらいしか住んでおらんよ。ちょうどいい所に。アレムの旦那。アンタはよく向こうの村に行くだろう?」

 声をかけられた中年の男性は大きな樽を抱えて、すぐそこの飲食店に入る所だった。

「ちょっと待ってくれ、これから納品だからさ。」

 アレムと呼ばれた男性はそう言って、扉の奥に消えて行った。


「ちょっとだけ待ってやりな。アイツは最近忙しくってね。なんだっけ、えっと……。」

 うーん、と悩み始めた老人のを見て隣に座って別の話に興じていた彼の友人と思しき人が答えてくれた。


「電気水だろ、孫がよう飲んどる。ワシにはちょいと刺激が強いがな、酒と割るとなかなか上手いぞ。」

「ああ、それだ。酒と割る?邪道な。兄ちゃんはもう飲んだかね?」

「ええ。先程カトレン商店の女将さんにご馳走して頂きました。」

 一瞬、険悪な雰囲気になりそうだったのでなるべく話を逸らそうかとユリウスが考えている所に先程の男性が戻ってきた。


「んで、何だって?」

「来たか。こやつはアレム。この兄ちゃんが、手紙を届けにカレメ山へ行くんだってさ。アンタはあの辺りに詳しいだろう?教えてやりな。」

 老爺に頼まれて、アレムはユリウスの話を聞いてくれた。

「へえ、山に手紙?昔は盗賊やら出たが、今はもう誰も住んどらんと思うよ。」

「そうなのですか?」

「俺の妹はこっから先にあるちょうど山の麓ところの村に嫁いだけど、大戦が終わって暫くしたら盗賊はどっか出てったらしい。だから、山にはもう誰もいないと思うぜ。いるんなら、いるってそれなりに俺の耳に入ってくるだろうし。」


「……そうですか。」

 若干項垂れるユリウスを励ますようにアレムは別の可能性を提示する。

「なあ、兄ちゃんが手紙届ける相手ってどっか近くの村とかじゃないのか?」

「いえ、依頼人の方の説明によればヒスク山だそうで。」

 そう、ユリウスが引き継いだ情報は、あくまでヒスク山に住んでいる、と依頼人は一点ばりだったらしい。郵便社はよく引き受けたと思うが、これは行き当たりばったりなのではと初めは思っていた。


「こりゃ、参ったもんだね。力になってやりたいんだが。」

 老爺は髭を撫でながら、首を傾げる。

「ええ、ですからヒスクで何かしらご存知の方がいらっしゃればと思っていたのですが、仕方ないですね。とりあえず、行ってみることにします。」

「あんましお勧めはせんが、怪我の無いようにの。」

「今は何がいんのか、わからねぇからな。」

「はい。ありがとうございます。」

 アレムと老爺達に見送られて、ユリウスは歩き出した。


 彼らの話によると、カレメ山へ入るにはここから少し迂回して麓の村を経由して行く方法だった。しかし、その村へ向かう乗り合い馬車がしばらく無いことも同時に分かったので、ユリウスは徒歩でカレメ山へ向かうことにした。



 

 町を後にして、畑を通り抜け、羊達がポツポツといる広い牧草地を歩く。

 しばらくのどかな風景が続く道を歩いて、ユリウスは聞いていたカレメ山の麓にたどり着いた。

 ここから先は、特にこれといった情報が無いため山道を歩くしかない。が、その前に……。


「いただきます。」

 ユリウスはちょうどいい石に腰掛けると鞄の中から野菜や卵、腸詰が挟んであるパンにかぶりついた。新鮮な葉もの野菜のシャキシャキとした食感と苦味が甘酸っぱいドレッシングと絡んで食べやすい。

 先ほど町の飲食店で買っておいたものだ。ユリウスが少し早めの昼食を堪能していると。


 ――グゥ〜


 何かが唸るような、低い音がした。


 ユリウスは、小さく溜め息をつくと近くにあった少し大きめの岩に声をかけた。

「……いい加減出てきなよ、怒らないから。」


 岩陰がモゾモゾと動いているのをユリウスはジッと見つめていた。やがて、観念したように一人の青年が岩陰から出てきた。歳は16、7くらいで若干幼さの残る顔が見つかった所為か、険しくなっている。


 ――グゥ、キュルル〜


 音の正体は、その青年のお腹の音だった。

「お腹、空いてるのか?」

 ユリウスがそう聞いている間にも青年の腹の虫がなっている。


「食べる?」

 ユリウスは買っておいたもう1つのサンドパンを差し出す。

「……。」

 しかし、青年は険しい顔をしたままサンドパンを見つめるだけで反応がない。


「あの、いらないなら俺がもらうけど?」

 ユリウスがそう言って、包み紙を剥ぐとサンドパンを青年は奪い取るように持ってユリウスの隣でムシャムシャと食べ始めた。



「どうして俺の後をつけてたの?」

 あっという間に食べ終えて、手についたソースまで舐める青年にユリウスは問いかけた。

「……。」

 しかし青年はユリウスの問いに答えたく無いらしく、俯く。

「ま、言いたく無いならいいけど。これ以上ついてくるのは危ないから町に戻った方がいいよ。」

 ユリウスは、靴紐を締め直すと立ち上がる。


「……あ、危ないのはアンタの方じゃねぇのか?」

「ん?」

 青年が口を開いて出てきた言葉はユリウスを心配するものだった。


「これから、山に入るんだろ?」

「うん。」


「怖くないのか?オークとか。」

「怖いよ。」

 何気に返ってきたユリウスの答えに青年はたじろいだ。


「なのに、行くのか?」

「行くよ、仕事だから。じゃあね。」

 このまま延々と押し問答をする時間は無いので、ユリウスは話を切り上げて山道の方へと向かう。


「ちょ、ちょっと待てって!」

 歩き始めたユリウスに青年は追い縋る。

「どうして?僕は、これから山登り。君は町に戻る。それで万事解決。」

 面倒になって来たユリウスに対して、青年は真っ直ぐに見据える。


「……お、俺も行く。」

「いや、だから君も知っての通りこの山は危ないかもしれないし、僕が必ずしも君を守れるとは限らないから。」

「は?アンタに守られる必要なんて無いし。ていうかアンタの方が弱そう。」

「……。」

 青年が放った突然の逆ギレにユリウスも流石に言葉を無くした。


「ハァ……分かったよ。でも、自己責任で頼むよ。あとお金は払わないから。」

 これでは余計に長引くことを悟ったユリウスは折れることにした。

「自己責任?ていうか、ついてくだけで金が出るのか?」

 言葉の意味を全く理解していなさそうな青年にユリウスは苦笑を浮かべた。

「自己責任は、自分で責任を持つこと。この場合は怪我をしたり、命を落としても君は僕に文句は言えない。」

「なるほど、当然だ。」

 青年は納得したように頷く。

 

「あと、君は自由職者だと思うのだけど、違う?」

 自由職者は協会を通して依頼を受け、害獣退治や討伐、木の実や薬草採集など様々な物事を解決し、依頼達成料としてお金を稼ぐ、いわゆる何でも屋のことだ。

「何で分かったんだ?」

 驚いた表情を見せる青年にユリウスはその背中にあるモノを指差す。

「その背中に背負ってる剣。」

「これか?」

 青年は、剣を背負うベルトを動かす。

 普通、このサイズの剣を手に入れたり、持ち歩くには許可がいる。その許可をもらえるのが騎士、時代や国によるなら兵士、そして自由職者だ。


「君は見たところ騎士ではなさそうだし、今のこの国に兵役はない。だから、そうかなって。」

「へぇ。で、それが何でお金の話に繋がるんだ?」

 ユリウスは腕を組みながら青年にその理由を説明する。

「たまにいるんだ、勝手に付いて来て護衛代を払えって押しかけて来る自由職の人。」

 基本的に仕事の依頼は協会を通してなのだが、時折そういうルールを守らない者もいる。場合によっては正規の料金の倍額を請求して、断れば暴力にものを言わせる非常にタチの悪い輩もいたりする。


「俺がそうだって?」

 青年は眉を歪めて、いかにも不機嫌な表情を浮かべる。

「実際、3つの条件の内すでに2つ当てはまってるから。」

 ユリウスはそこまで言うとクルリと背を向け、今度こそ山道へと入っていく。

「なんだよ!疑い深いと嫌われるぞ!」

 憤りをありのままに声に出すと青年はユリウスの背中を追いかけた。


 


 ようやっと、ユリウスは山に入ることができた。

 木々が立ち並び、陽の光は生い茂った葉に覆われて薄暗い山道を二人は進んでいた。


「なぁ、アンタさっきから色んな木に色をつけてるけどそれ、何だ?」

 青年の目線の先にはユリウスの左手の指と指の間に挟まった三色の棒。それぞれ、青、赤、白の色をしていて、ユリウスは通りかかる木のすれ違い様に引っ掻いて印をつけていた。

「これは、遭難しないように帰り道を示しているんだ。山道に印をつけるのはよくあることだけど、1色だとどうやってどの道を辿ってきたのか分からなくなってしまうから、こうやって色を変えて順番があった方が分かりやすいんだ。」

「へぇ、アンタって意外と頭いいんだな。」


「…………あのさ、いい加減にアンタアンタって呼ぶのやめてもらえない?」

 ユリウスは一旦立ち止まって、後ろにいる青年を見下ろす。

「なんだよ。悪いか?アンタだって……。」

「ユリウスだ。君は?」

 青年の言葉を遮って、ユリウスは名乗る。

「俺はレオナ……じゃなくて、レオン。」

「…………じゃ、改めてよろしく。」

 ユリウスが差し出した手を渋々、といったようにレオンは握り返した。


 山の中は木々が乱立しており、所々には倒木が立ちふさがったりしている獣道を二人はひたすら登っていった。

「さて、だいぶ日が沈んできたからこの辺で一旦ストップしよう。」

 ユリウスの提案に、レオンは空を見上げる。

「まだ明るいじゃねーか。」

 空はまだ青く、日没までまだ時間はありそうだ。


「確かに空は明るいけど、これから急速に暗くなるんだ。特にこんな風に木が沢山生い茂っている所だと、すぐ光が届かなくなるんだ。足場とか踏み外したら危ないから無理に進みたくない。それに、この木が寝るのに丁度良さそうだし。」

 ユリウスはそれなりの高さがある太い木を見上げる。

「この上で寝るのか?」

「夜は獣が活発になるから。寝てるところを襲われたら困る。でも、木の上までわざわざ上がってくるのはあまりいないから大丈夫。」

「ふーん。」

「……ま、俺は知らないから好きな所で寝ればいいよ。」

 巨木に向かって、レオンに背を向ける。

 

「あ、おい。」

 ――グゥ~キュルルル……。


「飯は?」

 レオンの態度にユリウスは空を仰ぎたくなった。ある程度予想通りだったが、無計画にもほどがある。そして、この態度。

「あのさ、言ったよね?自己責任だって。」

 僅かにイラつきを隠し切れないユリウスは、顔を引きつらせる。

「ん、ああ。」

「それは、ご飯のことも含まれてるんだよ?お昼は仕方ないと思ってるけど。」


「……。」

「聞いてる?」

 俯いて黙り込むレオンにユリウスは再び問いかけた。が、勢いよく顔を上げたレオンはユリウスに向かって怒鳴った。

「アンタなんか知らねえ、もう勝手にしろ!」

「あ、ちょっと……。」

 レオンはユリウスの制止も聞かず、ズカズカと森を走りだした。

「……参ったな。」

 ユリウスは徐々に暗くなりゆく空を見上げた。

長くなってしまったので、一旦切ります。


ゲスト登場人物紹介

乗合馬車のおばあちゃん……近くの村から時々ヒスクの町で医者にかかりに来る。買い物もかねている。

カトレン商店の女将……近くの村から嫁いで26年。夫と唯一の食料品店を営んでいる。疑い深いのは昔、商取引で騙されたことがあったから。最近は電気水で一儲けできないか、夫と考えている。

老人達……朝の農牧作業が終わり、残りの力仕事は若者に任せて、ちょっと一息といいながら朝から飲んでいた。まぁ、毎日だけどね。

アレム……普段は農夫だが、電気水を汲んで来て納品する仕事をしている。実は近くの村に嫁いだ妹の夫が電気水を最初に見つけた。

レオン……自由職者。なぜかユリウスをつけていたが、離反。

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