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商業化作品

【コミカライズ】婚約破棄されて自由の身になった聖女さまは、憧れの恋愛結婚をしてみたい。目標は殿下と男爵令嬢をこえるスーパーバカップルになってやることです。

「聖女ジュリア、愚息の過ちの詫びに願いをひとつ叶えよう」

「恐れながら陛下、私は聖女の恋愛解禁を求めます」


 私の言葉に、貴族たちがどよめくのがわかりました。聖女が恋愛結婚を求めるなんて前代未聞、驚くのも無理はありません。


 真実の愛を見つけたとして、王太子殿下から婚約を破棄されたのはつい先日のこと。


 今はお相手の男爵令嬢とともに離宮に軟禁されているはずですが、新婚バカップルのような状態でそれなりに幸せに暮らしているそうです。結婚式よりも先に子どもが生まれるかもしれないということで、周囲を戦々恐々とさせているとかいないとか。


 うらやましすぎるでしょうが!


 地団駄を踏みたくなるのをこらえ、陛下に向かって微笑んで見せました。生まれは侯爵家、育ちは神殿。礼儀作法なんてお手のものでしてよ。


「恋愛解禁だと?」

「王太子殿下と男爵家のご令嬢の恋物語は、まるで夢のように美しいものでした。殿下から愛を知らない冷たい女と言われた私ですが、これでも女の端くれですもの、恋愛結婚への憧れだってございます」


 ここは責めるのではなく、穏やかな物言いがポイント。相手の罪悪感をあおらなくてはね。


 だいたい私、殿下に浮気されたことなんて怒っておりませんし。と言いますか、婚約してから一回もデートに誘ってこない男なんて趣味じゃありませんもの!


「私だって王太子殿下と()()()()()、運命の相手と蜜月を過ごしたい(いちゃラブしたい)のです」


 私がにっこり聖女スマイルを繰り出す一方で、国王陛下のお顔ときたら。やはり怒っていらっしゃるのでしょうね。握りしめた王笏がぶるぶると震えています。


 聖女というものは王族に取り込めば国は安泰、貴族に与えれば恩賞代わり。他国に譲れば恩が売れる便利な駒。それなのに、みすみす恋愛解禁だなんて愚か者のすることです。が、嫁がされる身としては大事にしてくれない相手などごめんです。


「そ、それは」

「婚約破棄で傷ついているというのに、さらに好きでもない相手に嫁がされるなんて、もう聖女としての力も出せそうにありませんわ」


 品行方正に生きていても、損をするばかり。ですから、本音が駄々もれになってもしょうがありませんよね?


 言い淀んだ陛下のすぐ横から聞こえてきたのは、場違いなほど柔らかな声でした。


「陛下、自由を謳歌している王太子殿下がいらっしゃるのに、聖女さまにだけ政略結婚を課すというのは許されないのでは?」

「……う、うむ」


 あらまあ。スティーヴンさまじゃありませんか。普段、(まつりごと)に興味のなさそうな王弟殿下が、わざわざ私の肩を持ってくださるだなんて……。どういう風のふきまわしでしょう。


 とはいえこの機会を逃せば、私の願いはうやむやにされてしまうはず。これは尻馬に乗るしかありませんね。


「陛下、『聖女の恋愛解禁』をお許しいただき、ありがとうございます。さっそく、神殿に戻って()()()()にお話をしなくては」


 反論される前に一礼をし、そそくさと立ち去ることにしました。自分の願いに、根本的な欠陥があることに気がつかないままに。



 ***



「想定外ですわ!」


 私は神殿の隅でうめき声をあげました。


 例の謁見から数日、なぜか私は毎日神殿内の掃除や下町での奉仕活動に勤しんでおります。ええ、デートに出かける聖女見習いの代打ですわ。


 私、聖女の中では一番位が高いのですが。いくら神殿内は平等が基本とはいえ、もう少し敬っていただけないものかしら。


「聖女が恋愛する権利を手に入れた件の立役者だというのに、私だけが余り物とか想定外にもほどがあります」

「ジュリアちゃんにとっては残念かもしれないが、僕にとっては一安心かな」


 まさか私がここまでモテない女だったなんて! 大見得を切った癖にこの有り様なんて、陛下も失笑ものではないでしょうか。


「ジュリアちゃんだなんて、やめてください。私はもういい大人です」

「ジュリアちゃんは、初めて出会ったあの頃から僕の可愛い小さなお姫さまだよ」

「はあ」


 私の愚痴を笑顔でなだめているのは、スティーヴンさま。掃除用具を手にしていてもエレガントに見えるのは、さすが生粋の王族というところでしょう。王太子殿下と年の近い叔父ということもあり、私たちはかなり親しい間柄だったりします。むしろ婚約以来一度もデートをしたことのない王太子殿下よりも、ずっと私のことをご存知なのではないかしら。


「貴族社会においては、婚約破棄された令嬢は傷物ですものね。格下の男爵令嬢に殿下を奪われたというのも、下のものをうまくさばくことができなかったという意味でマイナスですし」

「そういうことではないんだけれどね」

「じゃあ、どういうことなのです」


 けれど、スティーヴンさまは困ったように淡く微笑むばかり。


「ちなみにジュリアちゃんは、どのような男性がお好みなのかな?」

「話題を変えるおつもりですか?」

「いや、ただの興味本位だよ」


 理想の男性、ですか。私は、幼い頃に憧れた理想の王子さまを思い出し、そっとかぶりを振りました。今さらですね、もう忘れると決めたことですもの。


「高望みはいたしません。私は、私だけを唯一としてくださる方と結婚したいのです」

「なるほど。必要なのは愛だけだと」

「だって、お金は聖女である私が稼ぎますもの。身分に関しても、とりたてて望むところはございませんし」

「ジュリアちゃん、それじゃあ金づるまっしぐらだよ」


 ひ、ひどい。あんまりです。花から花へ飛び回る浮気な蝶のくせに、なんてことを言いやがるのでしょう。


「僕の可愛いお姫さまが、結婚詐欺にあったり、ヒモにたかられて身ぐるみはがされて不幸になるのを見るのは忍びないからね。バカップルごっこがしたいのなら、僕が相手になろう。その間に君は、結婚相手にふさわしい男を探すんだよ」

「……スティーヴンさまとバカップルごっこ? まさかこんな昼日中から寝室に行く気ですか?」

「うーん、それもまた捨てがたいけれど。あくまで、僕がやるのはいちゃラブの練習だからね。安心して」


 安心できる要素がまったくないのでは? とはいえ千載一遇の機会ということで、遊び人な王弟殿下の申し出を受けることにしたのでした。



 ***



「お気に召したかな、お姫さま」

「スティーヴンさま、ありがとうございます」

「どういたしまして。愛しのお姫さまに喜んでもらえて、光栄だよ」

「もう、スティーヴンさまったら」


 もぐもぐあーん。

 私たちは、予約が取れないと評判のパティスリーで、お互いにケーキを食べさせあっていました。


 やはりバカップルの行動パターンとして、食べさせあいっこは外せないでしょう。王太子殿下と男爵令嬢は向かい合わせの席ではなく、隣同士、果てはお膝の上というパターンもあったそうですが、さすがにそれはまだ恥ずかしくて難しいです。


 ……むしろ恥ずかしいからこそ、スティーヴンさまに練習に付き合っていただいた方がいいのかしら?

 ふとそんなことを考えてお伺いを立ててみたのですが、こんこんとお説教をされてしまいました。解せぬ。


 ちなみにこのお店、王太子殿下と男爵令嬢がお忍びデートを重ねたお店としてとても有名です。王国で人気のグルメガイドブックでも紹介されているのだとか。


 だから、うらやましすぎるでしょうが!


 こちらは必死に聖女としての仕事をこなすために、どんぱち小競り合いが続く辺境の国境沿いに行ったり、不治の病に苦しむ人々の慰問に行ったりしているのに。


 ご自分は、小綺麗な人気店のVIPルームでデートとか、なんなのこの落差は。ちっくしょう!


「ジュリアちゃん? どうしたの怖い顔になっているけど?」

「はっ、すみません、つい殿下のことを考えてしまって。思い出すだけ無駄な時間でしたね」

「そう、だね」


 なぜかスティーヴンさまは憂い顏。そうですね、バカップルという設定なのに相手が他の男のことを考えていたら不穏な空気が出ても仕方がありません。


「でも私、こんな風にいちゃラブデートができて、とっても幸せです」

「デートを楽しむのはいいけれど、ちゃんと僕を踏み台にして、君だけの王子さまを見つけるんだよ」

「王太子殿下に婚約破棄されたあげく、王弟殿下を踏み台にして、今度はどこの王子さまを探せと?」

「いや『王子さま』というのはあくまで比喩だから。ほら怒らない、怒らない。はい、あーん」


 うーん、これはバカップルというかただの餌付けなのでは?

 軒下に巣を作る益鳥と呼ばれる鳥たちの雛が、大口を開けてご飯を待っている光景を思い出してしまいました。そういえば、ここ最近ドレスの腰回りがきついような……。


「ジュリアちゃんは、美味しそうに食べるね」

「スティーヴンさま、私は食べたら食べた分だけ丸くなるのです。安易に食べ物を与えないでください」

「ジュリアちゃんはもうちょっと丸くなっても全然問題ないよ。むしろもっと食べたほうが抱き心地が」

「うるさいですよ!」


 栗もさつまいももかぼちゃも、どうしてこんなに美味しいのでしょう。餌付けを拒否して自分のカトラリーで猛然と食べ始めれば、懐かしそうにスティーヴンさまがどこか遠くを見つめました。


「まったく、君は変わらないね」

「そうでしょうか」

「まだ小さかったというのに、大好きな王子さまと結婚するためならと公言して、必死に頑張っていたじゃないか。うまくいかないときは、僕の住む離宮に来てこうやってやけ食いしていたね」

「あの頃の行動は完全に黒歴史です。忘れてくださいませ」

「僕はジュリアちゃんの頑張りをいつもそばで見ていたから、ジュリアちゃんには笑っていて欲しいんだ。もっとわがままを言っても罰は当たらないよ」


 まったくもう。せっかくの楽しい気分が台無しです。なんだかとてもむしゃくしゃしてしまって、紅茶の残りをお行儀悪くすすってみました。


「スティーヴンさまは、何もお分かりになっていないのです」

「すまないね」


 そんな振る舞いさえ、困ったものだと笑って許してくれるのは、やっぱりこの方にとって私がいまだに子どもだからなのでしょう。


 私は、そっぽを向いて小さくため息をつきました。



 ***



 そんないちゃラブデートを日々繰り返していると、宮廷より呼び出しが入りました。私は、スティーヴンさまといちゃいちゃするのに大変忙しいのですが。


「聖女ジュリア。そなたの怒りはわかった。どうか、これで勘弁してはもらえないだろうか?」

「陛下、なんのことでしょうか」

「愚息の行動が許せぬというのは理解できる。婚約破棄だけならまだしも、偽聖女と言いがかりをつけたのだ。当然だろう。だがな、ここまで捨て身の訴えをせんでもよかろう」


 一体、何をおっしゃっているのでしょう。そもそも前回の謁見の時も思いましたが、私はこれっぽっちも怒ってなどいないのですが。


「こちらに陳情が来ている。聖女さまの破廉恥な姿には目も当てられぬと」

「左様でございますか。ですが、あれはすべて殿下と同じデート形態でして」

「わかっている。あれだけの痴態を演じておきながら、離宮で軟禁とは温すぎる、いつになったら厳罰に処すのかと言いたいのであろう?」

「いえ、別に」


 いや、本当に、まったく全然、これっぽっちも興味がないのですが。正直、今名前を出されるまで脳内にもいませんでしたし。


「スティーヴンからも話は聞いておる」

「はあ」

「聖女ジュリア。やはり筆頭聖女のそなたが、そこらへんのクズ男をヒモとして飼うのは外聞がよろしくないのだ」


 一体、なんの話ですかね? 愛があればお金なんてみたいな話は確かにしましたが、いつから私がクズを養うことに? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ここはひとつ、スティーヴンと結婚してだな。表向きは王族に嫁入り、別宅でヒモを養うという形で妥協してはくれんかのう」

「……それは、スティーヴンさまが陛下にそう進言されたのですか?」

「う、うむ。そなた、心を寄せる特定の相手が既にいるのではないか。恋愛解禁を求めたというのも、愚息への当て付けだけとは思えぬ。しかし恋人の影がないということは、表に出せない身分の相手ではないかとスティーヴンが心配しておる。こんなことを言えた義理ではないが、我々もそなたが幼い頃から家族として過ごしてきた。幸せになって欲しいのだ」

「……なるほど、よくわかりました。恋愛する権利を得たからには、契約結婚や建前上の結婚など絶対にごめんだとスティーヴンさまにお伝えしてくださいませ。これにて、失礼させていただきます」


 スティーヴンさま、許すまじ! 勝手に御前を退くことは許されないはずですが、陛下は顔をひきつらせたまま私に声をかけることはありませんでした。



 ***



 謁見の間からの帰り道、王城の庭園にてスティーヴンさまが侍女たちに囲まれているのが見えました。出るとこ出て、引っ込むところは引っ込んだ選りすぐりの美女たちです。自分の貧相な体つきと比べると、苛ついてきます。


「ちっ」


 腹が立ったので、周囲の草花を一気に活性化させて花まみれにさせてやりました。冬を前に心細い思いをしていた虫たちも、きっと大喜びでしょう。あのような女心のわからぬ顔だけ男は、虫まみれになってしまえばよいのです。


 ふんす、ふんす。鼻息荒く、足音高く歩いていれば、ドレスの裾を踏んですっ転んでしまいました。お気に入りのドレスが無惨に破れています。淑女とは思えぬとんだ失態です。


「痛い……」


 ちょうど誰にも見られていないので、さっさと神殿に帰ってしまえばいいのです。それなのに、どうしてでしょう。こんなに寂しく泣きたい気持ちになるのは。


 バカみたいな行動をしてしまう子どもだから、いつまで経っても「小さなお姫さま」以上の相手にはなれないのでしょうか。


 バカップルごっこの最中のスティーヴンさまなら、転んだ私をお姫さま抱っこしてくれるでしょうに。


「大丈夫かい?」


 そうそう、きっとこんな風に……って、え?


「庭にいたら、向かいにジュリアちゃんがいるのを見つけたんだけれど、すっ転んだままだから心配になってね。聖女には回復魔法が効かないから、このまま僕の部屋に戻って治療をしよう。跡が残ってもいけない」

「……イヤです」

「どうしたんだい」

「バカップルごっこはもう結構です。恋愛解禁だなんだって言ったって、結局のところ好きなひとに気持ちが伝わらなければ寂しいだけだって、よくわかりました! どうせ私は誰にも愛されず、政治の駒として誰かに嫁がされるのがお似合いなんですよ!」


 私の言葉にスティーヴンさまが、とても悲しそうな顔をします。何を勝手に哀れんでくれちゃってるんですか。


「そもそも、私が不幸になった原因のひとつは、スティーヴンさまだってわかってますか!」


 私の魂の叫びに、スティーヴンさまが目を丸くされました。



 ***



「ジュリアちゃん、僕は結構君のために頑張ってきたつもりなんだけど……」

「好きでもないぼんくら王太子殿下と私の婚約を調(ととの)えておいて、まだ言いますか!」


 さらなる叫びに、ぎょっとしたような顔を見せるスティーヴンさま。なんですか、その初耳ですという顔は。


「え、でも、ジュリアちゃん、小さい頃から『王子さまと結婚する』ってみんなに宣言していたよね。そのために、筆頭聖女になれるように頑張るって」

「ええ、ええ、そうですよ。でもねえ、考えてみてください。この国の王族男子は、基本的にみんな王子さまなんですけど? 王太子殿下以外に、王子さまっていないんでしたっけ?」


 困ったように脳内の王族男子を指折り数えるスティーヴンさま。ああ、もう、中年以上の王子さまは数えてくれなくて結構です!


「ジュリアちゃん、まさかとは思うけれど、ジュリアちゃんの好きな王子さまって……」

「ようやくですか! 脳ミソ腐ってませんか! その通りですよ。気がつけば隣に女性を選り取りみどりで侍らせている、ちゃらんぽらんで色ボケした不誠実そのもの。そんなあなたが、私は昔から好きなんです!」


 心底びっくりしたと言わんばかりの顔がムカついて、そのお綺麗な顔の頬をぐにぐにと伸ばしてやりました。変顔をさせても美形度が下がらないなんて。一体、なんなのでしょう、この生き物は。


「つまり、君が『王子さまと結婚したい』と話していたのは……」

「あなたのことに決まっているでしょうが、スティーヴン王弟殿下」


 げしげしと、お行儀悪く足をばたつかせていれば、突然周囲の景色が変わりました。お得意の魔法で、自室に転移されたみたいですね。


「小さい頃にお城のお庭で出会ったあなたが、初恋なんですよ!」

「君が幸せになるなら、何でもいいと思っていたんだ」

「急になんなんですか」

「君が好きなひとを見つけるまで、僕が隣にいる。場合によっては白い結婚をして、君と好きなひとの隠れ蓑になることもやぶさかではなかったんだ」

「スティーヴンさま、あなた、どれだけ私のことをクズだと思ってるんです」

「好きなひとの幸せのためなら、何でもできる献身的な男だよ、僕は」

「はあ?」


 今度は私がすっとんきょうな声をあげる番でした。えーと、ごめんなさい、嘘でしょう。あの女性には困らない色男が、こんなに年の離れたちんちくりんを好きなはずが……。


「ジュリア、いくら僕がちゃらんぽらんでもね、年がら年中女好きの馬鹿の振りをするのは意外と疲れるんだよ」

「な、名前?」


 いきなりの呼び捨てです。しかもなぜでしょう、驚くほど甘ったるく聞こえるその響き。腰砕けになりそうです。


「ね、ジュリア。せっかくお互いの気持ちがわかったんだもの。そのお祝いを、あるいは頑張ってきた僕へのご褒美をくれる?」


 ちゃん付けを拒否してきた私ですが、それがいかに私を守ってくれていたのか、これからじっくりと理解することになったのでした。



 ***



「それで、どうしてこういうことになるんですか!」


 隣に向かって叫び出したくなりつつも、顔は正面を向いたまま。もちろん聖女スマイルはキープです。


「いや、どうせならいっそ君との幸せな未来のために、もう少しばかり頑張ってみようかなと思ってね」


 にこりと笑うスティーヴンさまは、申し分ない王子さまスマイル。ええ、あの時私が一目惚れした庭園の王子さまな輝くばかりの笑顔です。


「くっ、その顔で迫られたら、私が文句を言えないと知っていての暴挙ですか!」

「ジュリアが僕の顔を好いていることは知っているからね。積極的に利用していくよ」

「ひ、卑怯です!」

「僕は君に勝てないんだから、これくらいのハンデがあっても構わないだろう?」


 ぼそぼそと会話を交わしつつ、いまだスマイルキープ。なんだったら周囲へ愛想よく、手を振っていたりなんかします。そう、想いが通じあった私たちは、まさかの電撃結婚を果たし、今は市中引き回し……ではなくパレードの最中なのです。


「どうして、私たちが王太子やら王太子妃やらと呼ばれているんですか!」

「あ、もしかして国王と王妃のほうが良かった? 甥っ子はポンコツだけど、兄上の政治的手腕はなかなかいいものがあるから、今すぐ王位を奪う必要はないと思ったんだけど。まあ、君が望むならもうひと踏ん張りしてくるよ」

「結構です!」

「そう?」

「そもそも、何度も言っておりますが、私はスティーヴンさまと結婚したかったのであって、肩書きに興味があるわけではないんですよ!」

「そうだねえ。君の今までの努力が無駄になるのは嫌だったし、ポンコツな甥っ子に国を任せるのも怖くてねえ」

「王太子殿下も、男爵家のご令嬢も、これからうんと苦労すればいいんです。離宮に閉じ込めたら、それこそお花畑なあのひとたちは幸せに暮らしちゃうじゃないですか」


 それってうらやましすぎるでしょうが! 


 政治的な負担ゼロで、公認ひきこもりとかむしろ私が代わりたい。


「なるほど、傀儡になってもらうんだね。何かあったときの捨て駒には使えるし、政治的に大きな転換をもたらすような政策を実行するときには役に立ちそうだね! さすがは、僕のジュリアだ」

「いや、誰もそんな恐ろしいこと言ってないですし!」


 恋愛結婚はできましたが、この先もなかなか波乱万丈みたいです。

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「偽聖女だと言われましたが、どうやら私が本物のようですよ? アンソロジーコミック 3巻」(一迅社2024年3月29日より発売)に、『婚約破棄されて自由の身になった聖女さまは、憧れの恋愛結婚をしてみたい。目標は殿下と男爵令嬢をこえるスーパーバカップルになってやることです。』が収録されております。よろしくお願いいたします。 バナークリックで詳細が書かれている活動報告に繋がります。
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