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051.結婚式

 そして、無事立国が済んでも、まだ慶事は終わらない。


 アネスタは立て続けに行われる慶事に沸きに沸いていた。


 そう。戴冠式が済めば、次に待っているのは私達の結婚式なのである。


 私は今、サウザン王国の教会の入り口に立っている。


 真っ白な光沢のある厚いシルクを重ねたボリュームのあるドレス。そして、薄く透き通る紗のヴェールで顔を隠しつつ、その後ろ側の裾は、長く長く後を引くように続いている。


 そうして、そのてっぺんに、小さなティアラが飾られていた。


 体中は全て私の特級品で磨き、潤わせ、粉をひいた。虹色に艶めく肌に、祝福に来た来賓達が、私のその花嫁姿を見て感嘆のため息をつく。


 やがて、私はお父様の腕に手を載せて、一歩一歩ゆっくりと歩き始める。


 一歩一歩歩くごとに、ドレスがふわりふわりと揺れる。


 赤いカーペットを歩く間、小さな子竜のグリューンと子猫姿のラズロが白と私の色の紫、そしてユリシーズの色の青い花びらを頭上から散らして、その愛らしい姿で人々の口元に微笑みを誘う。


 長く続くカーペットの先には、愛しい人、ユリシーズが待っている。その彼がだんだんと近づいてくる、この時間が愛おしい。


 ようやく長い時間をかけて彼の元へたどり着くと、私はお父様からユリシーズへと引き渡される。ユリシーズが腕を折り、私はその上に手を載せる。


 戴冠式の時に取り仕切って下さった教皇猊下が今回も私達を祝福してくれる。


「新郎、ユリシーズ・フォン・サウザン。汝は、この女性を永遠の伴侶とし、夫として彼女を護ることを誓うか」


「はい、誓います」


「エリス・フォン・アネスタ。汝はこの男を永遠の伴侶とし、妻として夫を支えることを誓うか」


「はい、誓います」


 そうして、用意された結婚指輪が一揃い、差し出される。


 私達は指輪を互いに嵌め合い、次に、ユリシーズの手によって顔にかかったヴェールがそっと払いのけられる。


「エリス。やっと君は私のものになった」


「ええ、これからはずっと、あなたのものよ」


 そうして私達自身の誓いの言葉を口にしてから、そっと触れるだけの誓いのキスをしたのだった。


 そして迎えた初夜。


 私自身が開発した湯船で、ゆっくりと温かな湯につかりながら、体をほぐす。そして、ローズオイルの香りのする特級品の石けんで立てた泡で、体を優しく洗っていく。


 かかとや肘や膝といった皮膚が硬くなりやすい部分は塩のスクラブで。顔からデコルテ周りの繊細な部分は砂糖のスクラブで丁寧に磨く。


 髪もたっぷりと泡立てた泡で包み込んで洗い、薄めた酢をリンス代わりにしてすすぐ。ドライヤーで長い髪を乾かしたらふわふわの柔らかい髪の完成だ。そこに、上質なオイルにローズオイルを混ぜたオイルをなじませて、つやを出す。


 それが終わったら、ローズオイルを混ぜた香油で体をすべすべにマッサージしてもらい、そうして仕上げた体を、ふんだんにレースのあしらわれた初夜用の薄い衣で包む。


 それはまるで、人生で一番大切な日の儀式のようだった。


 そうして、完璧に仕上げた姿で、ベッドに腰掛けてユリシーズが部屋に訪れるのを待つ。


 ――そういえば、私、前世も含めて()()()じゃない!


 そんなことを急に思い出して、顔に熱が集中する。


 どうしよう。


 ちゃんと彼を喜ばすことが出来るのかしら。


 体こそ、あっちの世界と同じくらいに綺麗に磨くことは出来たけれど……そっちのことは、友人から聞いたことくらいしかないのだ。


 胸の鼓動がうるさくて。


 首から上に集まる熱が熱くて。


 待つ時間がとても辛く感じ始めたそのとき、ユリシーズの訪れを知らせる、扉がノックされる音を聞いた。


「入って、いいかな」


 そう、優しい声音でいわれて「どうぞ」と答える。


 静かに扉が開いて、現れたユリシーズは、下に薄い夜着だけなのか、厚手のガウンをラフに羽織った姿で現れた。


「待たせてごめんね。不安だったんじゃない?」


「ううん。そんなことないわ……ただ」


 ぎし、とスプリングがきしんで、私の隣に彼が腰を下ろす。


「……ただ?」


 聞き返すなんて意地悪だ、と思いながら、私は答える。


「……何もかも、あなたが初めてで。今日これからのことも……不安で……」


 そう伝えると、蕩けるような笑みを浮かべて、唇を塞がれた。


「ん……っ……」


「ああ。何もかも初めてだなんて……なんて幸せなんだ、私は」


 そのキスは、さっきの軽いものじゃなくて。


 歯列を、上から下へと舌で丁寧になぞられ、緩んだ合間から舌が忍び込む。


 忍び込んだ舌が、私のそれを探して熱心に絡め取られる。


「ん。……はっ」


 なぜだろう。何も知らないはずの私なのに、体の奥が本能的に彼を欲していることを感じる。

 

 ――触れたい。



 何もかもがもどかしくて、私は彼のガウンに手をかける。


「積極的、……だね」


 そう言うと、反対の手で肩を押されてベッドの上に優しく押し倒される。そして、我慢が出来ないといった勢いで、喉元を軽く()まれた。


 深い口付けに翻弄されている間に、夜着の隙間から手が忍び込み、私の弱いところを探される。


 そうして気づいた時には私はベッドに優しく押し倒されていた。


 そして、ユリシーズに翻弄されるがままに、その夜、私たちは一つになったのだった。

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