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050.戴冠式

「まあ、まあ。今日もユリシーズ殿下からの贈り物が届いていますよ」


 マリアが私にそう言って、荷物を届けてくれた。


 こっそり会うのとは別に、ユリシーズは婚約者としての公式な立場も忘れないでくれていて、マメに贈り物も届けてくれる。


 実に繊細な絹織物で作られ、彼の瞳の色の青で染め上げられた、七分袖の袖元からレースが三段重ねに縫い付けられた青いドレス。青い生地には、彼の髪の色の金の糸で細かく小花模様が描かれている。


 それを身に纏って公に出て欲しいということは、婚約者としての独占欲の、そして、所有していることを表わすような物だ。そんなことも、公に出来る関係になったことが、嬉しくてたまらない。


 他にも、私の目の色に合わせたアメシストのアクセサリーや、彼の色のサファイアで揃えて作らせたアクセサリー一式などが届けられる。


 私が好んで身に纏い、身につけるのは、彼の色。


 ちょっと恥ずかしいけれど。


 けれど、私は彼のものなのだと、胸を張って宣言したくて。


 かつて婚約していたときにはついぞ知らずにいた、所有されている喜びというものを、一身に受けていた。


 ◆


 やがて、手配に追われていた立国の準備も整ってきたらしい。


 アネスタは立国したとしても、大国に挟まれた小国にすぎない。けれど、サウザン王国が友好条約を結んでくれることに決まり、後ろ盾も安心だ。


 ノルデン側には、ラズロの使役する精霊が一夜にして築き上げてしまった高く長い壁があるので、こちらも一安心である。


 そうして全てが整って、ようやく戴冠式の日がやってきたのだ。


 取り仕切るのは、アネスタの国民の多くが信奉する、エルム教の教皇猊下。


 「アネスタ王家の皆様。特にアネスタの『錬金術姫』と名高いエリス姫。本当にご苦労様でした。まさに、あなた方こそ、この国を新たに立国し、統べるにふさわしいでしょう」


 そう言うと、猊下はまず、一番立派な王冠を両手で恭しく持ち上げる。


「レオナルド・フォン・アネスタ。ここへ」


 そう猊下が告げると、猊下の前に、お父様が膝を突いて首を垂れる。


「レオナルド・フォン・アネスタ。其方を、アネスタ王家の国王として認め、祝福する」


 お父様の頭に、王冠が載せられると、しぃんとしていた広間から、祝福の声が湧き上がる。


 その王冠の中央に飾られたのは、大きく見事なダイヤモンドだ。


 友好の証として、サウザン王国の国王陛下からわざわざ選び抜いたものを贈っていただいたものである。


 そして、次はお兄様達。


「アドルフ・フォン・アネスタ」


 猊下に呼ばれ、アドルフ兄様がお父様に替わって猊下の前に跪く。


「其方を、アネスタ王家の王太子と認め、ここに祝福する」


 猊下の手で、王太子の冠が頭に載せられて、再び祝福の声が上がる。


「コンラート・フォン・アネスタ」


 次は、コンラートお兄様の番。


「其方を、アネスタ王家の王子と認める。父と兄を助け、良い治世の助けとならんことを祈る」


「ありがとうございます」


 コンラートお兄様が応えると、王子の冠が載せられる。


 そうして、私の番がやってきた。


 テーブルに残ったのは小さく繊細な細工が施されたティアラだった。


 小さな星屑のようなダイヤモンドが幾つも嵌められていて、とても可愛らしい逸品だ。


「エリス・フォン・アネスタ」


「はい」


 私は、猊下の前で、ドレスの裾を摘み、屈んで頭を下げる。


「エリス姫。姫にして救世の錬金術姫よ。これからも、父と兄を助け、さらに惜しみなくその力を発揮して、貴賤を問わず、アネスタとサウザンの国民の幸福に尽力してくれることを願う」


 そうして、私の頭に、きらめくティアラが載せられた。


 すると、わあっと一斉に観客達から歓声が上がる。


「アネスタ王国万歳!」


「アネスタ国王万歳!」


「立国の錬金術姫、エリス姫、万歳!」


 その喝采の声は、なかなかやむことは無かった。

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