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005.不満

 あと、ちょっと失礼だと思っていることがある。


「錬金術師の辺境伯の娘が、王太子妃にふさわしくない」だなんて、なんて無礼で無知なのだろう。これもちょっと、言うことは言っておかなくては気が済まない。


 前世の性格が混ざって、思考が楽観的かつ大胆になってしまったようだ。


 私が錬金術師だったとして、錬金術師の何が劣るというのだろう?


 しかも私は聖魔法を使えるのである程度の治癒魔法は使える。なんなら、そんじょそこらの聖女の職業の人より、実は治癒魔法が得意だったりするのだ。その上で錬金術師になるのである。


 それに、聖女が人を癒やせるというのなら、錬金術師だってポーションという薬剤を筆頭に、人々を様々な苦しみから救うことができる。


 しかも錬金術!


 ようは、結局錬金術とは()()なのだ。()()に限らない。


 科学とは、極めていけば化学は物理学になり、物理学は数学になる。数学は哲学になり、哲学は万物の基礎になる。


 そう。化学や医学の前身ともいえる学問だ。


 治癒どころか、やろうと思えば魔法使いが使うような威力の爆弾だって作れるはず(作る気はないけど)。お料理だって肥料だって作れる。


 薬だって、魔法で限界がある部分にだって、手を出すことが出来るかもしれない。


 だから、本当にすごいはず。領地改革だって出来るんじゃない?


 そんな万能職ともいえる職業をけなすなんて、私としては到底許せなかった。


 錬金術師が貶められるのも許せないし、そもそも技術職の人々を貶めるような物言いも気に食わない。


「職業に貴賎なんてない! 錬金術師を馬鹿にしないでほしい!」くらいは言いたかったのだけれど、なんだか、彼らを相手にしていると、まともに会話すら成り立たないようだ。


 けれど、そう思ってかっかしている私を横目に、王太子殿下とミリアさんはもう婚約は決まったことのようにイチャイチャなさっていて。


 ――うん。いいかな、もう。


 あれは放っておきましょう。


 研究職が前世というなら、私にとって錬金術師は天職なんだから素敵じゃない!


 誰がなんと言おうといいのよ!


 元々薬学なんかの知識のある私が手がけたらどうなるのか、わくわくしてならない。


 王妃教育から解放されて、錬金術師として生きるのって楽しそうじゃない!


 あっと。


 わくわく感で先走って、説明が足らなかったかもしれない。


 私達の国では、十六歳の成人になる年に成人式に参加する。そして、そのときに教会で職業を与えられる。そういうしきたりになっている。


 かなりレアな職だと、剣聖、聖騎士、聖女、賢者。


 人気の職でいえば、騎士、魔導師、回復師。


 錬金術師は、まあ、ある意味自分の手を動かす技術職という側面はあるけれど、可能性の先が見えないという意味では、未来は自分次第。魔道具師と並んで魅力的な職である。


 そして、成人して決まった職業について、各々が研鑽を重ね、ふさわしい技術を磨いていくと、そういう仕組みになっている。


 まあ、そういうものなのだ。

 そして、辺境伯。


 これは何度も説明したとおり、やりようによっては国王と同じか下手したらそれ以上の力を持っていたりするのだ。


 そんなことも知らずにまあ、よくも、辺境伯を「田舎者」、錬金術師を「地味な技師」だとか言ってくださったものだ。


 ――うん。もういいかな。切っちゃえ。


 そもそもこの婚約、我が家は乗り気ではなかったのだ。


 それに、私が切るわけじゃないよね?


 殿下が口火切ったのよね?


 私悪くないもんね!


 あっかんべー!


 とはいえ、衆人の前なので、立ち居振る舞いはスマートにしておきましょうか。


 私は彼らの目の前にすっくと立って、すうっと目を細めて静かに語りかけた。


「……殿下は、田舎育ちの錬金術師の妻など欲しくはないとおっしゃるのですね」


 私は立ち上がり、顎を上げて目を細め、片方の口角を上げて王太子殿下を見る。


「なっ、なんだ……急に開き直ったような顔をして! も、勿論だとも!」


「いやだぁ。逆ギレー?」


 たじろぎながらも自らの発言を肯定する王太子殿下と、相変わらず勘違いが甚だしい成り上がりの男爵令嬢。


「いえいえ。そんなことはございません。では私も、お父様に婚約破棄が()()()()ということで()()をする必要がありますので。よろしいですね?」

 私は満面の笑顔で殿下に最終確認をした。

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