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043.お見合い

 そんなある日、マリアに手伝ってもらって朝の身繕いをしていると、慌てた様子の家令がお父様からの伝言を持ってやってきた。


 なんでも、砂漠の緑化に快諾して下さったというサウザン王国の国王陛下達が、直々にお礼にいらっしゃるということで、「正装をするように」との伝言だった。


「確かに、国益になることだから、お礼を言われるのはわからなくもないのだけれど、直接いらっしゃるというのも不思議な話ね」


 しかも、急に、内密な来訪だというのだ。


「確かに。でも、いらっしゃるのであれば、失礼のないように身なりを整えませんと」


 マリアに言われて私も頷く。


「そうね。ドレス選びから始めないと……マリア、手伝って」


「もちろんです」


 マリアはにっこり笑って、一緒にその日の装いを考えてくれたのだった。


 私が、この城で一番豪華な客間に赴くと、すでに皆が集まったあとのようだった。


「初めてお目にかかります。エリス・フォン・アネスタです。今日はお目にかかれて光栄に存じます」


 そう、サウザン王国の言葉で挨拶をしてから、カーテシーの形をとって礼をする。


「これは、これは。我が国の言葉で歓迎していただけるとは、大変喜ばしい。のう、妃よ」


「ええ、本当に。教養優れた方とお聞きしていましたが、動作も優雅でいらっしゃるわ」


 国王陛下と王妃殿下と思われる方々が、口々に私の所作を褒めてくださった。第一関門は合格、というところなのだろうかと、ほっとする。


「エリス姫。あなたが発明して下さったという、スプリンクラーと栄養剤。あれのおかげで、我が国の最大の悩みだった砂漠の拡大が止まり、それどころか、全てひとまず牧草地帯とすることが出来たのですよ。一度牧草が生え、大地が肥えてくれば、やがて農耕地にもできるでしょう」


 国王陛下が私に目を細めながら微笑みかける。


「ありがとうございます。あなたのおかげで、サウザン王国はさらに豊かになれます。そうそう。あなたの発明した湯沸かし器付きの浴槽やドライヤー、それに質の良い石けん、化粧水におしろいといった美容品も、それはもう女性達が喜んでいましてね。私も愛用しているんですよ」


 今度は、王妃殿下の口から、アネスタから輸出されたという私の発明品も話題に上がる。


「ねえ、あなた。『錬金術姫』と名高いこの方なら、あの子の申し出も……」


「ああ、申し分ないかもしれないな。そもそも、すでに王妃教育も完璧にマスターされているように思える所作だ。そして我が国の作法にも理解がある。この方しかいないだろう」


 私のわからないところで進む話に、私は首を捻る。


 今日は一体何の話をしにきたのだろう? 緑化のことで、錬金術師として感謝されるだけならわかるのだけれど、私自身の人となりについてなにやら褒められているような気がして、どうも、居心地が悪い。


「どうでしょう? 我が家の娘エリスは」


 そして、お父様が私について尋ねだすのはなぜだろう?


「はい。是非、我が国の王太子ユリシーズとの縁談を進めさせていただきたい」


 国王陛下がそう発言されて、頭の中が真っ白になる。


 ――え?


「えっ。あ、あの……」


 ユリシーズ様って!?


 ――どうしよう。私はユリウスと約束した身。婚約なんて……!


 そこに、扉が開けられて、ユリシーズ殿下と思わしき人影が部屋に入ってくる。


「え……ユリウ……」


「ユリウス」と言いかけそうになると、いたずらっぽく笑ってユリシーズ殿下が、人差し指で「しーっ」とジェスチャーする。


 その人は、服装こそいかにも王太子殿下といった整った服装だったけれど、私が逢瀬を重ねた、そして約束を交わしたユリウスそのものにしか見えなかった。


「これが、我がサウザン王国の王太子ユリシーズでね。今までどう言っても花嫁を迎えようとしてくれなかったのだが、アネスタ家のエリス姫であれば、と、ようやく重い腰を上げてくれたのですよ。是非、今日はその話をさせていただきたい。ささ、ユリシーズ、挨拶をしなさい」


 国王陛下がにこにこと笑って、ユリシーズ殿下に挨拶をするように促した。


「ユリシーズ・フォン・サウザンと申します。サウザン王国の長子にして王太子でもあります。恥ずかしながら……父の言うとおり、十八にもなりながらまだ結婚を先延ばしにしておりました。ですが、エリス姫のお噂を聞き、ぜひ、姫ならばと参った所存です」


 その声もやはりユリウスのそれで。


 言葉こそ、砕けた物言いではなく、礼節をわきまえた言い方だったけれど、確かにユリウスその人に違いなかった。


 そのあとは、外交の話やら、緑地化の話やらと、私の開発品の話題が上ったり、才能を褒められたりしたけれど、失礼にならない程度に曖昧に笑って返すばかりで全く頭に入ってこなかった。


 そんな中、穏やかにまっすぐ見つめてくるユリシーズ殿下の瞳は、やはりユリウスのもので。


 ――どうして。


 と、そう問いたくてならなかった。


「ああ。我々の話が長引きましたな。やはりここは当人同士で話す時間もあった方が良いでしょう」


 とお約束のような流れで、国王陛下が話を切り上げた。


「ああ、そうですな」


「だったらエリス、殿下に我が家のバラ園を案内して差し上げるといいんじゃないか」

 お父様にそう言われ、私は殿下に目配せをしてから立ち上がる。


「では、ユリシーズ殿下、こちらへ」


「では、失礼して」


 私達は二人で客間を後にしたのだった。

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