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042.サウザン王国の事情②

 所変わって、サウザン王国の王宮内。


「兄上、また性懲りもなくあちこち国内をうろついて」


 城内を歩いていると、早々に弟のアベルに捕まった。


「ただ散策しているわけではない。国王になるもの、民草の暮らしも知る必要はあるだろう」


「そうは言ってもですね。あなたには早く跡取りを……」


「それを願い出に、父上と母上にお話に上がったんだ」


 それを聞いてアベルは呆然とする。ついぞ、女っ気のなかった兄が、婚姻の話を急に持ち出したのだ。驚くのも至極当たり前だろう。


「兄上、一体それはどこのどなたなのです」


「今ここで軽く話す話じゃない」


「そうは言っても。まさか、市井の娘を見初めたとかそんな話じゃないでしょうね!」


 そこでユリシーズがピタリと足を止める。


「市井の女だと? 私のエリスをそんな風に言うのは許さない!」


 その剣幕を受けて、アベルが呆然と目を見開く。


「兄上が、本当に恋に落ちていらっしゃる……」


「……恋になら、とっくに落ちていたさ。前から言っているだろう? 心に決めた女性としか結婚したくないって。でも、彼女は、恋に落ちていたと気付いたときは、もう手遅れだったんだ。……でも、状況が変わった」


「兄上……。何があったのです? そして、その相手は誰なのです?」


 アベルがもどかしげに兄に語らせようと尋ねかける。


「アネスタの。ノルデン王国の境にあるアネスタ辺境伯を知っているか?」


「ええ。……貿易やら何やらで交流がありますからね……」


「実は、エリスはそこの姫なんだ」


 それを聞くと、はじけたように目を見開いて、驚きを隠さないままにアベルはその彼女の名前を復唱する。


「エリス、エリス姫ですか……!? 最近、我が国でも、『錬金術姫』といって名高い、あの姫ですか!?」


「ああ、そのエリス姫に……幼い頃に出会って。そのあともずっと会っていたんだ……彼女が、ノルデンの王太子の婚約者として招致されるまで」


「兄上……それで、かたくなに結婚を拒んでらっしゃったんですね?」


 ようやく合点がいったアベルは、態度を軟化させる。なぜ兄がかたくなに婚約を拒否していたのか。投げやりに、自分や自分の子が継げば良いなどと言っていたのかの理由を理解したのだ。


「ですが今なら、アネスタの姫は確か実家にお戻りになっているはず。そして、錬金術の発展に力を注がれ、その上、領民を癒やし、素晴らしい発明を次々と生み出していると聞きます。しかもその上、自領に限らず我が国の砂漠までを緑地化してくださっている……」


「だから欲しい、というわけではないぞ?」


「それはわかります。ですが、アネスタとサウザンの仲が良好な今、兄上の想いは通りやすいのでは……!」


「ああ。だから、父上、母上に婚約の申し出をしたいと許可をもらいに行こうと思っている」


「そうでしたか……! でしたら、私も共に参りましょう。是非、後押しを、応援をさせてください」


「ありがとう」


 ふ、と足を止めて、ユリシーズはアベルに向かって穏やかに微笑んで見せた。


 ユリシーズとアベルは、両親に婚約の意思を伝えようと決意して、父母のいる居間へとやってきた。


「あれから、体調にお変わりありませんか? 父上、母上」


 ユリシーズは、エリスの作った万能薬を飲む前にはそれぞれ病に悩まされていた父母の体調まず気遣う。


「ありがとう、ユリシーズ。あなたの持ってきてくれた薬のおかげで、陛下も私もすっかり良くなって……。すごい薬を作れる方もいるものなのね」


 顔色もすっかりよくなった母の声もしっかりとしていて健康そのもので、ユリシーズは思わず笑みがこぼれる。


「それを作って下さったのは、アネスタで『錬金術姫』と名高いエリス姫なのです」


「……まあ。あなた、あの姫と知り合いだったの……?」


「はい」


「確か、アネスタ辺境伯から聞いた話だと、我が国の砂漠まで緑地化したいと申し出てくれたという……。彼女の発明したものは素晴らしく、それは見事に砂漠を牧草地に変えてくれた。……あの姫なのだよな?」


「はい、そのとおりです。……父上、母上。私は、彼女を妻に……婚約者に迎えたいと思っています」


「まあ……!」


「なんと!」


「父上、母上。私も、エリス姫であれば、王太子妃にふさわしいでしょう。確か、すでに彼女はノルデンで王妃教育を完了していると聞いています。あとは、我が国になじめるかどうかだけ……これほど、兄上の婚約者に望ましい方はいないのではないでしょうか?」


 そう言って、アベルも後押しする。


 結婚に腰の重かったユリシーズが、関係も良好な、そして好ましい姫君と婚約したいと申し出たことに、サウザン王国の国王と王妃は、喜びもあらわに顔を見合わせるのだった。

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